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元山岳部部長の登山講座

樽前山の溶岩ドームは登ってもいいのか?

樽前山の溶岩ドームは登ってもいいのか?

樽前山は初心者でも気軽に行ける山で、美しい火山地形や高山植物のお花畑もあり、人気の高い山です。

一方、樽前山は過去に何度も噴火を繰り返している活火山で、登山には注意を要する山です。

現在、外輪山の内側にある火口原は事故のリスクを低減することを理由に自治体などが立ち入りを規制しています。

今回は、樽前山の火口原への立入禁止や溶岩ドームへの登頂について、法律や登山モラルと照らし合わせて考えていきます。



火口原立入禁止の経緯は?

樽前山火山防災協議会では現在、火口原への立ち入りを禁止しています。

出典:苫小牧市HP

樽前山は平成12年以前は火口原に入ることができ、溶岩ドームの直下を一周したり、A火口をのぞいたりすることができました。

しかし、火口の温度上昇が観測されてから、火口原は立入禁止となり、現在(平成31年)も規制が続いています。

一方で、気象庁が発表する噴火警戒レベルは現在「1」なので、火口原への立ち入りを解除しても良いのではないかという話も耳にします。

では、火口原への立入禁止は誰がどのような根拠で発したもので、強制力や罰則などはどのようになっているのでしょうか。

まずは、火山や災害に関する関係法令を整理していきます。

 

災害関係法令を整理すると

活火山法によって設置された火山防災協議会(メンバー:自治体、警察、自衛隊、専門家など)が避難計画などを協議し、自治体は協議の結果を踏まえて、災害対策基本法による地域防災計画を作ります。

気象庁が発表する噴火警戒レベルを参考に、自治体の長は地域防災計画に従って、警戒区域の設定や避難指示などを出します。

気象庁が発表する噴火警戒レベルは以下のとおりで、各レベルに対するキーワードや対応が設定されていますが、これらは自治体が策定した地域防災計画と合致しているとは限りません。

出典:気象庁HP

なので、地域防災計画を見てみる必要があります。

樽前山の麓、苫小牧市の地域防災計画では火山活動と段階によって以下のような対応の目安があり、これに沿って規制措置がさらに細かく決められていますが、各噴火警戒レベルに対応する規制措置は明記されていませんでした。

  • 異常現象の発見:一部登山規制
  • 小規模噴火の発生:山頂部の登山規制、山腹への登山禁止(半径2km)
  • 中規模噴火のおそれ又は発生:警戒区域の設定、区域内の住民は避難
  • 大規模噴火のおそれ又は発生:警戒区域の設定、区域内の住民は避難

なお、登山規制に関しては、「本部長(市長)は気象台から火山情報の通知を受けた時、又は火山の状況により必要と認めた時は樽前山への立入を制限、禁止、退去の措置をとる」旨、書かれています。

これらから読み取ると、レベル1でも何らかの異常があれば登山規制をする可能性があると解釈することができます。

また、レベル1で登山規制をする可能性については、気象庁の噴火警戒レベルの表においても、「状況に応じて火口内及び近傍への立入規制等」と説明されています。

 

拘束力があるのは自治体の長が警戒区域を設定した時だけ

このように、火山に関する規制は複数の法律や組織が関わっていますので、一般市民にはとてもわかりづらくなっています。

簡単にいうと、気象庁は噴火警戒レベルを発表する役割、火山防災協議会は避難計画などを協議する役割、自治体の長は地域防災計画を作り具体的な命令を発する役割となっていて、それぞれ別々の法令で動いています。

地域防災計画では登山規制や避難勧告などの措置が決められていますが、強制力があるのは自治体の長が設定した警戒区域からの退去命令(災害対策基本法63条)だけとなっていますので、それ以外の措置(避難勧告、避難指示など)に従わなかった場合、違法性はなく当然罰則もありません。

 

樽前山の火口原立入禁止の法的根拠は

火口原への立入禁止に関して、苫小牧市のHPでは「樽前山火山防災協議会が登山規制を実施している」として、以下のように注意喚起しています。

1.樽前山登山については、外輪山までとし、外輪山の内側(ドームを含む)は禁止とする。
2.集団登山については、万が一の避難を考慮し自粛とする。

また、千歳市のHPでは以下のように説明しています。

樽前山火口原(溶岩ドーム周辺)への立入禁止は、「樽前山火山防災協議会」において協議を重ねた上で決定した任意の規制で、法令に基づくものではなく、罰則が科されるものではありません。しかし、現在、火口周辺は高温状態が続いており、突発的な火山ガス等が噴出する恐れがあることから、火山災害のリスクを低減するために必要な措置として継続しているものです。

これらの説明から分かるとおり、樽前山の火口原の立入禁止は火山防災協議会が出した任意の措置で、地域防災計画によって自治体の長が発した命令ではないことがわかります。

火山防災協議会が出している立入禁止には、法的根拠がありませんので従うかどうかは登山者の判断に任されています。

ちなみに、「法令に基づくものではない」という部分ですが、文脈からみると「災害対策基本法」を指していると思われます。

千歳市のHPでは、他の法令で規制されている可能性については言及していないようなので、次に他法令でどのような扱いになっているのかを調べていきます。



溶岩ドームへの登頂には複数の法令をクリアする必要がある

災害対策基本法上は問題なし、活火山法上は登山者の努力事項に留意

登山者のモラルとして良いのか悪いのかはさておき、現在のところ、火口原への立ち入りは災害対策基本法上、違反ではないことがわかりました。

しかしながら、改正活火山法には登山者の努力事項というのがあります。

平成26年に発生した御嶽山の噴火では、噴火警戒レベル1の状態で突然水蒸気爆発が起き、火口周辺にいた登山者が多数死傷しました。

このことを受け、活火山法を改正し、火山防災協議会の強制設置や、噴火が起こった場合に円滑、迅速に避難できるよう、登山者は必要な手段を講じるよう努めなければならないという努力事項などが新たに加わりました。

出典:内閣府防災情報のページ

登山者の努力事項には強制力はありませんが、罰則がないから何をしても良いというのではなく、万一の場合、迅速に避難できるよう一定の節度ある行動が求められるといったところでしょう。

現在、樽前山の噴火警戒レベルは1ですが、火口周辺の温度が高いという情報があります。

このような情報がある中で、火口に近づいたり、溶岩ドームに登る行為が、登山者の努力事項に反するのではといった批判をされかねないということを念頭において、慎重に行動することが求められると思います。

自然公園法上疑義が生じる可能性は?

樽前山の火口原への立ち入りが災害対策基本法や活火山法上、任意だとしても、樽前山は国立公園の中にありますので、自然公園法を調べておく必要があります。

自然公園法では、特別区域内で指定されている植物(高山植物はほぼ全部です)や、特別保護地区内の高山植物を含むすべての植物の損傷や採取が禁止になっていて罰則もあります。

登山口を含む樽前山一帯は特別区域、溶岩ドームとその周辺は特別保護地区に指定されています。

高山植物を損傷させないためにも、登山者は通常、登山道を歩くわけですが、溶岩ドームに登頂するための登山道はないので、登山道を外れて自分でルートを開拓する必要があります。

登山道を歩かなければならないという条文はありませんが、登山道を外れて歩くと、植物を損傷する可能性が出てきます。

溶岩ドームには植物がほとんど生えていませんし、「植物を傷付けていない」と自信をもって言えるのなら問題ないと思いますが、一般的に「登山道の逸脱=植物の踏みつけ」と見られますので、そのあたりにも留意が必要です。

溶岩ドームは「天然記念物」。北海道文化財保護条例に注意

溶岩ドームは北海道文化財保護条例によって天然記念物に指定されています。

道文化財保護条例35条によると、「天然記念物の保存に影響を及ぼす行為をしようとする時は、委員会(北海道教育委員会)の許可を受けなければならない」と規定されていて、違反した場合、罰則もあります。

なお、同条には「影響が軽微である場合はこの限りでない」とも書かれています。

溶岩ドームへの登山が保存に影響を及ぼす行為なのかどうかは、北海道教育委員会が判断することになりますので、これについても確認が必要となるでしょう。

軽犯罪法の立入禁止にも注意が必要

軽犯罪法には、立入禁止場所等侵入の罪というのがあり、「入ることを禁じた場所、または他人の田畑に正当な理由なく入った場合」に処罰されると規定されています。

「入ることを禁じた場所」とは所有者や管理者が立て札や貼り紙、ロープなどで立入禁止の意思を客観的に表示している場所です。

「正当な理由」とは社会通念上、正当と解される場合で、例えば天災、事件事故、人命救助などのためにやむを得ず立ち入る場合で、単に「入ってみたかった」や「近道だから」などは正当な理由にはなりません。

自然公園法の法目的には「その利用の増進を図ることにより、国民の保健、休養及び教化に資する」とあり、国は国立公園の利用を推進していますので、国立公園内は自由に立ち入っても良いはずですが、例えば管理の都合上、所有者や管理者が立入禁止とした場所に理由もなく立ち入った場合で、所有者や管理者が警察に被害届を出した場合、軽犯罪法で罰せられる可能性が出てきます。

樽前山の火口原の場合、樽前山火山防災協議会が立入禁止としてますが、前述のとおり、千歳市のHPでは「罰則が科されるものではありません」と、いわば黙認ともとれるような説明をしているので、自治体が立入禁止を理由に被害届を出すことは今のところ考えられません。

国や自治体が示した立入禁止の措置が妥当かどうかという議論が出てくる場合もありますが、一義的には立入禁止と書かれた場所に理由もなく入ると、軽犯罪法違反で事情聴取される可能性が出てきますので、その辺も押さえておく必要があります。



完全に適法かどうかは関係機関に確認が必要

法令などを調べながら樽前山の溶岩ドームに登ることが適法なのか考察した結果をまとめると次のとおりになります。

  • 災害対策基本法:警戒区域が設定されていれば違反(罰則あり)
  • 活火山法:火口原への立ち入りが登山者の努力事項に違反する可能性(罰則なし)
  • 自然公園法:特別保護地区で植物を損傷すれば違反(罰則あり)
  • 道文化財保護条例:天然記念物の保存に影響を及ぼす行為は違反(罰則あり)
  • 軽犯罪法:管理者が立入禁止を表示し、正当な理由なく立ち入れば違反(罰則あり)

結論ですが、直ちに違法ということはなさそうですが、自治体、環境省、北海道教育委員会、警察など、法令を管轄している関係官庁に確認しなければ完全に適法かどうか現状ではわからない部分があります。

法令を守ることや、権利を行使することはさておき、登山者としては他者に迷惑がかからないようモラルを守るということが大切です。

モラルを守ること(心の問題)と、法律や権利の問題は、性質が違うので切り離して考える必要があります。

日本では欧米のようにアウトドアや登山に関連する法令はほとんど整備されていません。

関係法令が十分整備されていない状況で、法に触れないから何でもありと登山者全員が考えるようになったら、山の秩序は崩壊していくでしょう。

樽前山の登山者の様子を見ると、恣意的に火口原に入っている登山者を筆者は見たことがありませんが、登山道の外で植物の上にレジャーシートを敷いて、昼食を食べている登山者や、登山道を外れて歩いている外国人などは、時折目にします。

そのような登山者に対しては、ヒュッテの管理人さんが環境保護のために優しく指導を行っています。

では、管理人さんが指導している時に、登山道から外れて溶岩ドームを登っている人がいたらどうなるのか。

あっちが良くて、こっちがダメということにはなりませんので、やがて樽前山には登山道以外の場所を縦横無尽に歩きまわる登山者が出てくる可能性もあります。

近年、樽前山ではトレランやマウンテンバイク利用者も現れ、更なる登山道の過密化が起こりつつあります。

樽前山の大部分は木が生えていませんので、登山道以外で歩けてしまう場所は無制限にあります。

登山道を歩かなければならないという法律はありませんが、登山者全員が登山道以外の場所を自由に歩くようになれば、法令で保護されている植物の踏み荒らしも多くなると考えるのが妥当です。

登山者は法令を順守するのは当然のこと、法令で決められてない部分については、登山者相互が気持ちよく登山を楽しめるよう工夫したり配慮することが大切です。

今後、火口原への立ち入りや溶岩ドームの登頂をめぐる話題がどのように推移していくのか見守るしかありませんが、溶岩ドームへ登頂するかどうかについては、関係法令や登山の様々な実態を踏まえながら、登山者各々が慎重に判断する必要があります。



プロフィール

フリーライター。元船員。
学生時代に山岳部リーダーを経験し、阿寒、知床、大雪を中心に活動。
以来、北海道の山をオールシーズン、単独行にこだわり続け30年。
現在は主に日高山脈をフィールドにしている山オタクのライター。



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