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元山岳部部長の登山講座

登山靴の手入れ(革製登山靴)

登山靴の手入れ(革製登山靴)

昔、革製登山靴のメンテナンスと言えば、ミンクオイルや野球のグローブに塗る固形オイルをたっぷりと塗るだけでしたので、防水効果はほとんどなく、ひと雨当たるとすぐに油分がなくなってしまい、雨の日は靴の中が常にずぶ濡れというのが当たり前でした。

現在の登山靴は保革に加え、防水という考え方が主流となり、雨の日の山行も随分と快適になりました。

今回は革製登山靴の手入れ方法について説明していきます。




登山靴手入れの基本的な考え方

登山靴の手入れ方法は、そんなに難しいものではありません。

靴の材質に限らず、「クリーニング(泥落とし)→防水処理→乾燥」という流れはどの靴も同じです。

革製登山靴になると、クリーニングと防水処理のほかに、「保革剤」を塗る(革に栄養を与える)作業が加わります。

革製品はどのようなものでも定期的に保革剤を擦り込み、栄養(油分)を与えなければ、乾燥してひび割れするなど劣化してしまいます。

一方で、保革剤には革を柔らかくする成分が一般的に含まれており(革が軟化しないタイプの保革剤もあります)、保革剤の塗り過ぎで、靴が型崩れしてしまう場合があります。

保革剤の適切な量を一口で言うのは難しいのですが、新品時は多少多めに塗りますが、普段のメンテナンスでは、革が若干かさついたなと思った時に薄く塗布する感じです。

コースの状況や天候にもよりますが、実際の登山靴のメンテナンスでは、泥、水濡れ、岩に擦れるなど、登山靴は一般の革靴よりも油分を失いやすい環境ですので、保革剤は基本的に毎山行後、薄く塗布した方が良いと思います。(※靴がほとんど汚れず、クリーニングとブラッシングだけで、光沢が復活するような場合は、保革剤の塗布は必要ないと思います。)

また、登山靴を長期間使用しない場合でも、革は徐々に乾燥しますので、定期的に革の状態を確認して、必要に応じて保革剤を塗布し、革が乾燥しすぎないようにする必要があります。(筆者は、長期保管していた靴のメンテナンスを怠り、革の一部がひび割れてしまったことがあります。)

革製登山靴の具体的な手入れの方法は、メーカーや靴の販売店などによって、推奨する防水剤や保革剤の種類や、塗布する順序が違っていたり、表面がつるつるした銀面と呼ばれる革(スムースレザー、フルグレインレザーなど)と、表面が起毛した革(裏出し革、スエード、ヌバックなど)で、手入れ方法が若干違っていたりすることもありますが、革製登山靴のメンテナンスは、大筋では同じであって、メーカーなどによって大きく異なるということはありません。

次に具体的な手入れ方法の一例を紹介します。



手入れ方法

1 クリーニング

靴ひもをはずします。

靴ひもは、つけっ放しで汚れたまま使用していると、登山中に切れることがあります。

切れそうになっていないか点検し、汚れている場合は洗濯しましょう。筆者は洗剤をつけ、洗面所で簡単に洗っています。

靴の中も点検します。

中敷きをはずし、靴の中のほこりや異物を取り除きます。

常時スパッツ(ゲイター)をつけている人なら中が汚れることはほとんどないと思いますが、泥などがついていたら、濡れたウエスなどで適当に拭き取ります。

ソールの汚れを落とします。

まず、挟まった小石や大きな泥などは、玄関などで落としておきます。

千枚通しなどを使用して小石・泥を取る。

先の尖ったもの(マイナスドライバー、千枚通しなど)が便利ですが、雑にやるとソールを傷つけますので気をつけます。

いらない歯ブラシなどを使用して、ソールの裏面や側面に水道水をかけて、泥をきれいに落とします。

歯ブラシなどを使用してソールをきれいに洗う。

靴本体(アッパー)の汚れを落とします。

汚れの度合いによりますが、比較的汚れが少ないのなら、濡れたウエスで何回か拭き取れば良いでしょう。

汚れがひどい場合は、水道水をかけてウエスや柔らかいブラシ、スポンジなどで擦ります。

スポンジなどを使用してアッパーをきれいに洗う。

バケツやたらいなどを使っても良いでしょう。

もっと丁寧に汚れを落としたい時には、家庭用の中性洗剤を使用しても大丈夫ですが、専用のクリーニング剤(ニクワックス クリーニングジェル スポンジA、コロニル アクティブクリーナーなど)もあります。

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2 防水

防水剤(コロニル レザージェルなど)を使用し、アッパー全体を防水処理します。

防水剤(写真はコロニルレザージェル)を塗り込む。

次の工程で、保革のみのタイプの保革剤(ミンクオイルなど)を使用する場合は、この防水処理は必須ですが、保革・防水兼用タイプの保革剤を使用する場合、この工程は省略しても構いません。(省略しない方が防水効果は上がります。)

※コロニルレザージェルは防水効果のみ(保革効果はない)のタイプです。

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3 保革

アッパーの革の部分に保革剤を塗ります。

保革剤(写真はスノーシール)を塗り込む。

保革剤には、保革だけのタイプ(コロンブス ミンクオイルなど)と、保革・防水兼用タイプ(コロニル アウトドア アクティブレザーワックス、スノーシールなど)があります。

また、固形タイプや液体タイプ、スプレータイプなどがあります。

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いずれのタイプも塗布したあと、余分なワックス分を拭き取り、1日程度乾燥させ、靴ブラシで表面が光るまで磨き上げます。

ピカピカに磨き上げることによって、撥水・防汚効果が更に上がり、仕上がりも美しくなります。

ピカピカになるまで丹念にブラッシング。この工程は大切。

なお、固形タイプや液体タイプの保革剤はスプレータイプに比べ、効果や持続性は一般的に高いのですが、起毛した革(ヌバック、スエード、裏出し革など)に塗った場合、起毛の風合いはなくなり、銀面革のように、表面がつるつるになります。

ヌバックやスエードの柔らかい風合いをなるべく変えたくない場合は、スプレータイプの保革剤(コロニル 1909シュプリームプロテクトスプレーなど)の使用が無難です。

登山のように過酷な環境で靴を使用する場合は、ヌバックやスエードであっても、革の保護を優先して固形タイプ、おしゃれ重視ならスプレータイプになると思います。

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4 乾燥

天日干しは避け、風通しの良い場所で十分乾燥させ、乾燥後は通気性の良い場所で保管します。

十分乾燥させ、風通しの良い場所で保管。

 

手入れの手順は、防水→保革か、保革→防水か?

上記の例では、クリーニングの後、防水処理してから、保革剤を塗っていますが、一般的には保革してから、防水処理を行う例が多いと思います。

上記のように、コロニルレザージェルを使用する場合、この防水剤は素材に浸透して効果を発揮しますので、基本的に「防水→保革」の順序になります。※ただし、例外もあり、コロニルの防水スプレー「ナノプロ」は保革の後に使用します。

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一般的な革用の防水(撥水)スプレーは、素材の表面に防水成分を付着させて、防水(撥水)効果を得ていますので、このようなタイプの防水剤を使用する場合は、「保革→防水」の順序になります。

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先にも紹介したように、保革・防水兼用タイプの保革剤を使用する場合、防水剤の塗布を省略することもできます。(防水効果が足りないと思った時は防水剤も塗布します。)

筆者は、保革・防水兼用の固形保革剤(スノーシール)のみを長年使用していましたが、塗布後に靴ブラシでピカピカに磨き上げることによって、強力な防水効果を発揮していました。

このように、保革と防水は、自分が使用する保革剤、防水剤の効果や特性を理解した上で行うことになりますので、防水が先であったり、保革が先であったりします。

防水効果を更に高めたい場合などは、防水(コロニルレザージェルなど)→保革(コロニルレザーワックスなど)→防水スプレー(ナノプロなど)というやり方もありだと思います。



出し縫いの登山靴の場合の注意点

出し縫い(コバの縫い糸がむき出しになっている)の登山靴の例

出典:ゴローS-8

上の写真のように、コバの縫い糸がむき出しになっている(出し縫いと呼ばれています。)革製登山靴の場合、縫い目や、縫い目に近い部分に保革剤を大量に塗り続けると、アッパーとソールの連結が弱る原因になります。(以前、登山靴専門店から注意を受けました)

なお、このコバにある縫い目部分は新品の時、目止め剤が塗られています。

目止め剤は、擦れてなくなっていきますので、なくなったら新たに目止め剤を塗ります。

目止め剤は、テントなどの縫い目の防水処理に使用する接着剤系の補修剤(シームグリップWPなど)が適しています。

良いか悪いかは別として、筆者は目止めにホームセンターで買ったコ―キング用シリコンを使っていますが、今までに特に不具合を感じたことはありません。

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次回はトレッキングシューズなどの布製登山靴の手入れ方法について紹介します。






プロフィール

フリーランサー。元船員(航海士)
学生時代に山岳部チーフリーダーを経験し、阿寒、知床、大雪を中心に活動。
以来、北海道の山をオールシーズン、単独行にこだわり続け35年。
現在は主に日高山脈をフィールドにしている山オタクのライター。

※他サイトにおいて元山岳部部長を名乗る個人・団体が存在しますが、それらは当サイトとは一切関係ありませんのでご了承ください。



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