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登山のロープワーク。船乗りが教えるロープの結び方その3

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登山のロープワーク。船乗りが教えるロープの結び方その3

登山のロープワークの3回目です。

今回は、ロープワークの基本的な考え方、覚えておくと便利な結び方、実戦での応用について説明します。

前回の「船乗りが教えるロープの結び方その1」と「船乗りが教えるロープの結び方その2」はこちらです。

 

ロープワークの基本的な考え方

ロープの種類と特徴

クライミングに使用する登山用ロープのことをザイルと呼びます。

ザイルはロープの一種ですが、ロープにはいろいろな種類があります。

大きく分けると、天然繊維ロープと合成繊維ロープがあります。

現在では、麻などの天然繊維ロープはほとんど姿を消しましたので、ロープと言えば合成繊維ということになります。

また、ロープには編み方によっても種類があり、代表的なものに、三つ撚りロープ、エイトロープ(クロスロープ)、編索(ブレード打ち、金剛打ちなど)の3種類があります。

三つ撚りロープ

エイトロープ

編索(あみさく)

三つ撚りロープは最も一般的で汎用性のあるロープですが、きちんと束ねないと、もつれたり撚りが入りやすく、エイトロープや編索は弾力性があり、撚りが入りづらいという特徴があります。

中でも編索は撚りが入りにくく、表面が滑らかで摩擦に強いロープです。登山で一般的に使用するザイルは編索の一種です。

昔のザイルには、三つ撚りロープやエイトロープもありましたが、現在目にすることはありません。

現在のザイルの材質はほとんどがナイロン製です。

ナイロンロープは弾力性があり、摩擦熱に弱いという特徴があります。

ザイルは特殊な編み方で作られているため、ナイロン製ですが比較的摩擦にも強く、撚りが入りづらく、弾力性があるので登山やレスキューに適しているロープだと言えます。

一方で、ザイルは三つ撚りロープやエイトロープに比べると、ロープ表面の摩擦が少ないので、しっかり結ばなければ解けやすいという特徴もあります。特に真新しいザイルは腰も強く、つるつるしているのでしっかりと結索しなければなりません。

ザイルを使用したロープワークはこのような特徴をよく理解して行う必要があります。

ロープはエンド

帝国海軍の時代から、「ロープはエンド」という言葉があります。

本来の意味は軍隊生活を乗り切るための兵隊の知恵なのですが、ロープワークにとってエンド(ロープの端末)を残すことは非常に大切なのです。

一般的にロープを結んだ時の端末はロープの径の10倍と言われています。

外径8mmのザイルを結んだあとの端末は8cmは残すということです。

エンドを残すということは、万一、結索がゆるんだ時でも結び目が解けないよう考慮しているということです。

登山の世界では径の10倍と言われていますが、海上の教育機関ではロープのエンドは径の10~15倍残せと教えられます。

このように、ロープワークをする時にはあらかじめエンドの分を考慮して結索を行う必要があります。

エンド(端末)は径の10~15倍残す

 

※ロープはエンド~大勢で1本のロープを引く時、一番端末にいると力を出さずにすむという例え。

覚えておくと便利で役立つ結び方

引き解き結び

引き解き結びは、一時的にロープを何かに固定しておくための結び方で、結び方は何種類かありますが、簡単でよく使用されている結び方をひとつ紹介します。

ロープの端末を適度な長さに折り返します。折り返したら端末(短い方)と長い方ができますが、長い方の途中を折り返した輪の中に入れます。

長い方を輪の中に入れたら、端末(短い方)を下に引き、締めます。

次に端末(短い方)の途中をできた輪の中に通します。

長い方を下に引いて、締めると完成です。

できあがった輪が小さいと解けやすいので、ある程度大きめの輪になるようにします。

端末(短い方)を引けば、結び目は一気に解けます。

この結び方は結び目がゆるみやすいので、下のように、できた輪に長い方のロープで一重結びをかけて不用意に解けないようにすることがあります。

引き解き結びは、輪を通す順序を間違えると引っ張る側のロープが解けてしまいます。

輪に通す順序は長い方→短い方→最後に長い方を引いて締めるので、「長、短、長」と覚えます。

「短、長、短」で結ぶと解けてしまいます。ベテラン船員でも、たまにやらかすこともあるので注意が必要です。

垣根結び(男結び)

垣根結びは日本古来の結び方と言われています。

この結び方は、いったん結ぶと硬くて解けないのが特徴です。

荷づくりなど、結び目をもう解かないことが前提の場合に使われます。

ハーフヒッチ若しくは巻き結びを入れた状態から垣根結びを行うと、結んでいる途中でのゆるみがなくなります。

今回はハーフヒッチを入れた状態から垣根結びを作ります。

まず、ハーフヒッチを作ってよく締め、端末は下方に下げる。

長い方のロープで輪を作り、端末に入れてやる。

輪を結び目に接するところで保持しながら、端末を時計まわりに回し、輪の中に入れる。

端末を回す時は、ゆるゆるにならないよう、端末を引っ張りながら回す。ここでゆるまないように回せるかどうかで出来上がりに大きく影響する。

端末がゆるまないよう、手を添えながら回す。

端末を輪に通したら、ゆるまないよう端末を親指で押さえながら、長い方のロープを下に引けば完成です。

 

ロープワークの実戦的な使用例

ロープワークにはたくさんの結び方があり、それぞれの結び方の長所を理解して使い分けることになります。

すぐに解くのに、硬くて解けない結びをしたり、逆に、絶対に解けてはいけない場面で解けやすい結び方をしてはいけません。

クライミングの世界ではロープが解けちゃったでは済まされませんので、場合に応じて様々な結び方を駆使していますが、クライミング以外のロープワークの現場では、数種類の結び方を覚えているだけで、あらゆる場面で対応ができます。

問題は、何かを縛る場面に出くわした時に、ロープの長さや縛る対象物を見て、その場に適した確実な結びが素早くできるかどうかです。

結び方をたくさん覚えても、使い方に慣れていないと宝の持ちぐされになってしまいます。

ロープワークはセンスの良い人と悪い人が必ずいるものですが、日常生活においても、ロープやひもを結ぶ場面では適当に縛らず、その場に適した結び方をすることで、とっさの場合にも無駄のない結びができるようになります。

例として、ザックや登山靴を使用して非常の場合などにロープをどのように結んだら良いのかをやってみたいと思います。

 

例 二点の間をロープでつなぎ、テンションをかけてロープを張って止める方法

二点間にロープを張る場合、たるみがあった方が良い場合と、びんびんにロープを張った方が良い場合があります。

びんびんにロープを張るという作業は、意外とできていないものです。

急な坂道で固定ザイルを張る場合、急流を渡渉する場合に対岸にロープを張る場合、テントの張り綱が切れてしまい、細引きで代用を作る場合など、いろいろな応用が効きます。

メタルラックの足を使って二点間にロープを張ってみます。まず、片側を結びますが、結び方は確実に止まれば何でも構いません。写真では一番簡単で確実な、「もやい結び」で止めてみました。

他方の足に普通に結ぶとロープにたるみが出てしまいます。ここでは、他方の足にロープをダブルにとって張りたいと思います。

端末を左の足に回し、ダブルにとったロープの輪に入れます。

この状態で端末を引っ張ると、引く力に倍力が発生しますので、びんびんに張ることができます。物理に出てくる滑車の倍力と同じ理屈です。

びんびんに張ったあとは、端末をもう一度左の足にかけます。このあと、端末をどう止めるかでゆるむ、ゆるまないが決まります。

結んでいるうちに張ったロープがゆるまないよう、端末をぐるぐると二回巻きつけました。

次に、止め切るために張ったロープに「巻き結び(クラブヒッチ、インクノット)」をかけました。これで大概のことがあってもロープが解けることはありません。使用した結び方はもやい結びと巻き結びだけです。この方法はロープをダブルにとるので、十分な長さのロープが必要になるという欠点があります。そこで、次に紹介するのはロープの途中に輪を作ってロープを張る方法です。

まず、片方の足を結びます。今回は、ロープが下に落ちづらいよう巻き結びをいれてみました。足に巻き結びしたあとは、ツーハーフヒッチをいれて完全に固定します。

ツーハーフヒッチ」を入れたところ。

ロープの途中に輪を作ります。途中に輪を作る方法はたくさんありますが、テンションがかかっても結び目が硬くなりづらい方法にします。今回は「エイトノット」を作ってみました。

端末を右の足にかけ、輪の中にとおし、ロープを張ります。この場合も引く力は倍力になりますので、びんびんに張ることができます。

端末をもう一度右の足にかけ、あとは先ほどと同じ方法で端末を止め切ります。使用した結び方は巻き結び、ツーハーフヒッチ、エイトノットだけです。

 

例 ザックのバックルが壊れて雨ぶたが閉じれない場合

プラスチックのバックルは気を着けないと案外と壊れやすいものです。

登山中に壊れて、焦ってしまうことがあります。

次に紹介する例では、細引きロープを使用して応急的に雨ぶたを閉じられるようにしてみます。

バックル付近に細引きを通せる穴があれば、もやい結びでもしたいところですが、ない場合は写真のように生地に直接巻き結びを入れます。意外にしっかりと結べます。

端末にもやい結びで輪を作りました。この輪があとで締めあげる時に役立ちます。

ザックの下部に適当な輪がないか探します。ザックの下部にはピッケルなどを装着するための輪があるものです。なければサイドのベルトでも良いと思います。ロープを輪に通しぎゅっと締めます。

締めたロープをはじめに作っておいた輪に通します。

端末は、巻き結びで止めます。使用した結び方は、巻き結びともやい結びだけです。

例 仲間がザックを背負えなくなり、ザックを背負ってあげる場合

基本的に仲間のザックの中身を自分のザックに全部入れば済むことですが、そうじゃない場合の方が多いと思います。

そういうときは自分のザックに仲間のザックをしっかりくくり付けて背負うと良いでしょう。

青いザックを赤いザックにくくり付けます。ポイントは歩行中にぶらぶらせず、ずり落ちないように縛ることです。

ザックについているサイドのベルトや輪などを利用して効率よく縛ります。まずは細引きロープをサイドベルトにもやい結びで固定します。

左右上下にサイドベルトがついていたので、写真のように順次サイドベルトに通しながら締めていきます。

青いザックにもサイドベルトや輪がありますので、脱落防止のためにロープを通しながら締めていきます。

サイドベルトで締めているだけでは脱落が心配なので、赤いザック上部についている輪にもロープを通しました。

最後の端末をどう縛るのかがやや悩むところですが、締めたロープの適当なところに巻き結びを入れて止め切ります。

しっかり止まりました。余ったロープはじゃまにならないよう処置します。使用した結び方はもやい結びと巻き結びだけです。

 

例 登山靴の底が剥がれて応急修理する場合

ミッドソールがポリウレタンで出来ている軽登山靴はけっこう多いのですが、経年劣化で登山中に底が剥がれることがしばしばあります。筆者も2回ほどそういう登山者を見たことがあります。

ソールがはがれたら登山は中止し、下山しなければいけませんが、靴を応急修理しなければ下山に困ります。

修理の方法は、ガムテープやテーピングテープ、針金などで靴をぐるぐる巻きにしたりしますが、細引きロープでも応急修理が可能です。

まず、ロープのエンドにもやい結びで輪をつくり、輪の中にロープを通しつま先部分を締めあげます。

ロープの1か所が切れたとしても大丈夫なように、一旦巻き結びをいれて固定します。単にロープでぐるぐる巻きにした場合、一か所が切れるとロープすべてが脱落してしまいます。

靴の中間部分に大きく巻き結びを入れます。

中間部分の巻き結びが解けないよう、ロープのあまった部分に端末を巻き結びします。これで中間部分も固定されました。

もう一回中間部分の底に回してから、かかと上部に回して絞ります。

反対側も絞ります。

かかと部分も固定するために、ロープをかかとの底に回します。

かかと上部のロープが下にずり落ちないよう足首にもロープを巻きます。

つま先、中央、かかとがそれぞれ固定されました。ロープは1本でつながっていますが、つま先、中央、かかと、それぞれが独立して結び目を作って固定していますので、どれかが切れても、ほかの2か所は生き残ります。

端末の最後は適当な位置で巻き結びをいれて止め切ります。あまったエンドはじゃまにならないよう処理します。

以上、2点間のロープの張り合わせ方、ザックのバックルが壊れた場合、仲間のザックを縛りつける場合、登山靴の底が剥がれた場合についてそれぞれ即興でやってみました。

即興なので、もっとスマートな結び方はあるはずです。しかし、とりあえず素早くできて、ゆるまず、解く時にも結び目が硬くなりすぎないやり方をしてみました。

使用した結び方のほとんどは、もやい結び巻き結びです。ほかにエイトノットやツーハーフヒッチも覚えていればほとんどの場面でロープワークの実務は可能です。

この4つの結び方だけで、驚くほどなんでも縛ることができます。

実際に船で船員が実務で使用する結び方はこれらが最も多く、ほかにマニアックな結び方もたくさんあり、使用しないわけではありませんが、だいたいは数種類の結び方を組み合わせて色々な場面で使用しています。

クライミングのロープワークは別物としても、登山一般で使用するロープワークは船舶で行っているような考え方で十分なはずです。

たくさんの結び方を覚えるよりも、性質の違う結び方を何種類か覚えて、頭を柔らかくして、自在に扱えることのほうが実戦的であると言えます。

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プロフィール



初登山は雌阿寒岳。

学生時代に山岳部リーダーを経験し、阿寒、知床、大雪を中心に活動。

以来、北海道の山を舞台にオールシーズン単独行にこだわり続け30年。

現在は主に日高山脈をフィールドにしている山オタクのアマチュア登山者。



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