山登り初心者とステップアップしたい経験者の方へ登山講座

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元山岳部部長の登山講座

初心者のための冬山入門3

初心者のための冬山入門3

~実戦訓練、そして憧れの冬山へ~

今回は実際の冬山で訓練をしたあと、春山に挑戦。

そして初めての冬山登頂を目指します。

(前回までの記事はこちらから→冬山入門冬山入門2




冬山低山で訓練

山に十分に雪が積もったら、夏山で目星をつけておいた場所に出かけ、次に紹介するような訓練を行います。

練習する山は、山頂の標高が森林限界程度の山が丁度良い感じです。

 

つぼ足による登行~キックステップ

図1 キックステップ

図1 キックステップ

つぼ足による登行はキックステップが基本です。

キックステップとはつま先、かかと、靴底のエッジを雪面に蹴り込んで足場を作りながら歩行する技術で、雪がある程度締まっている斜面で使う歩行技術です。

図1を見て下さい。

直登する時は膝を中心に膝から下を振り子のようにして思い切ってつま先を雪面に打ち込みます。

雪が硬くてつま先が少ししか入らなかったら、ステップが安定する深さまで再度蹴り込んでステップを作ります。

後続の人も同じステップに足を入れますので、歩幅はあまり広すぎないようにします。

下りはかかとのエッジを雪面に垂直に突き刺すように、ステップを切ります。

腰が引けないようにし、体重を思い切り乗せてかかとを垂直に突き刺すのがコツです。

トラバース(斜登)の場合は、靴底の山側のエッジを雪面に蹴り込みます。

蹴り方は直登の時と同じように膝から下を振り子のようにして、靴のサイドエッジを雪面に蹴り込みます。

図のように、谷足を蹴る時は足をクロスします。

キックステップはけっこうな硬い雪でもステップさえ切れれば安定して登れる基本的な技術ですから、しっかりマスターしておきます。

 

スノーシュー、わかん、アイゼンの登行

図2 スノーシュー、わかんの登行法

図2 スノーシュー、わかんの登行法

 

わかんとアイゼンを併用(わかんを裏返す)

スノーシュー、わかん

スノーシューやわかんを装着した歩行ですが、深雪斜面では図2のように、登り、下り、トラバースともに重力に対して垂直に足を置きます。

雪面が硬い場所をスノーシューで歩く時は垂直ではなく、図3のアイゼン登高と同じ要領で斜面に対してフラットになるように歩きます。

雪が硬い斜面をわかんをつけたまま歩く場合、わかんの爪はあまり効かないので、アイゼンを装着したうえに、わかんを裏返して装着する方法もあります。(上の写真参照)

この場合、クラスト斜面をトラバースするとわかんのフレームが斜面に当たって滑り、危険なので、このような場合はわかんをはずしてアイゼンのみで歩くなど臨機に対応します。

アイゼン

図3 アイゼン登行

図3 アイゼン登行

アイゼン登高は図3のように斜面に対してフラットが原則です。

トラバースの時は谷足を若干ハの字に開くと安定します。

直登で斜度がきつい時は両足を逆ハの字にすると足首が楽になります。

更に斜度がきつい場所では、つま先の出歯を使いキックステップの要領で直登する方法もあります。

アイゼンの爪は鋭いので、雑に歩くとズボンやスパッツを鍵裂きにしたりしますので注意が必要です。

また湿った雪の上を歩く時はアイゼンの裏側に雪がだんごのようにくっつき、アイゼンの爪が効かなくなってしまいます。

こんな時はピッケルの柄でアイゼンを叩いてだんご落としをしなければいけません。

雪のない岩場を歩く時は岩の割れ目にアイゼンの爪が刺さり込むと、転倒する危険があるので注意が必要です。

 

山スキーのシール登行

図4 山スキーのシール登行

図4 山スキーのシール登行

山スキー

山スキーのシール登高ですが、直登は斜面に対し滑走面をフラットにします。

直登もトラバースも滑走面は正面から見て常に水平に保ち、前足のブーツの真下に体重を乗せるように歩くことで、スキーの滑走面全体に体重がほど良くかかります。

正面から見て、スキーが左右に傾いたまま体重を乗せると雪面を押す力が横に逃げてしまいます。

これでは、シールの摩擦力が小さくなりますし、シールがはがれやすくなります。

このほか、急斜面で直登できない場合はジグザグに切り返しながら登る、キックターンという技術があります。



雪上歩行用具の脱着のタイミング

つぼ足、わかん、スノーシュー、山スキー、アイゼンの使い分けは積雪の深さや雪質によって決まります。

山麓から登りはじめ、山頂に達するまでに目まぐるしく雪質は変化するものです。

その時々の雪の状況によって、使用する用具を替えながら登山することになりますが、脱着のタイミングは慣れが必要です。

例えば、つぼ足で登っていたけども、アイゼンが必要な状況になったとします。

しかしアイゼンを着けようとした時は斜面が急で、交換作業がしづらく、もう少し早めに替えておけばよかったなあ、みたいなことはよくあります。

スノーシューで歩いていて、アイゼンに換えたのにすぐに深雪になってしまって、アイゼンに取り替えなければ良かったなあ、みたいなこともあります。

かといって、交換が面倒だから用具を替えずに歩いていて危険な目に遭ってしまっては意味がありません。

このように、用具の交換のタイミングは雪質の予測と見極めが肝心です。

 

滑落停止動作

図5 滑落停止動作

図5 滑落停止動作

 

滑落停止訓練

滑落した場合、ピッケルを使用した停止方法が何種類かありますが、代表的なものを説明します。

図5のように、滑落しながら仰向け姿勢でピッケルを保持します。

ピッケルの上部(ヘッド)を左右どちらかの手でブレードを握ります。(長くて尖がった方をピック、短くて平たい方をブレードといいます)

次にブレードを握った側へ体を一気に回転させてうつ伏せ姿勢になると同時に体重を乗せてピック部分を雪面に突き刺して停止させます。

この時、腕が万歳のように伸びてしまわないよう、しっかりと胸の付近でピックを突き刺します。

頭から滑落してしまった時は、まず頭を上にもどしてから滑落停止動作をします。

頭の戻し方は、ピッケルのピックを雪面に刺せば、落ちながら自然に体が回転し頭が上になります。

(詳しくは「冬山の滑落停止法とは~素早く止めるのがミソ」を読んでみて下さい。)

滑落停止動作で肝心なのは滑落したらどんな方法でもいいからスピードがついてしまわないうちにさっさと停止することです。

スピードが乗ると、何をしても止まりません。

また、クラスト斜面で滑落し、スピードが乗ってしまった時にアイゼンの爪が雪面に当たると足首がおかしな方向に曲がり、足首を骨折したりアキレス腱が切れたりします。

滑落方向に危険な障害物がなく、命が助かりそうなら足を上げ、アイゼンと雪面は離して停止するまで待ちましょう。

訓練は滑落方向に障害物がなくて、万一止まらなかった時にも絶対怪我をしないような場所を選んで行って下さい。

冬山ではとにかく滑落しないことが前提です。

滑落停止動作を覚えたからといって安心してはいけません。

止まれるのは基本的に運のいい人だけなのです。

(滑落についての体験記事です。「冬山の滑落事故。止まらないアイスバーン」

 

まずは春山から~そして憧れの冬山へ

ここまで十分に訓練したらいよいよ実際の雪山登頂を計画します。

基本的にはじめての雪山は春山から始めます。

日帰り出来る低山で山肌の一部が見えはじめるころが、雪が締まって登りやすい時期だと思います。

もちろん、天気が安定している日を選びます。

はじめて、積雪期の山頂に立つというのは感動しますし、自信がつきます。

この時期、雪が溶けるまでの間、何回か同じ山を訪れて、雪や地形に十分慣れておきましょう。

ここでの春山経験が次の冬山へとつながります。

春が終わり、夏が来て、再び山に雪が降ります。

1年がかりの準備を経て、さあ、はじめての冬山へ。

気象判断は夏山以上に大切です。

晴れて風のない時と、吹雪の時は天国と地獄の差があります。

必ず、気圧が安定し、しばらく晴れている時をねらって下さい。

大量に積雪があった直後などは、晴れていても雪崩のリスクが高まります。

大雪のあとは数日して雪が安定してからのほうがリスクが少なくなります。

冬山の初登山は気力も体力も充実している時に行いましょう。

 

この章では3回に分けてはじめての冬山に登るための記事を紹介しました。

この記事は冬山に登るためのごく基本的なことしか書いていません。

実際の雪山ではここでは書ききれないようなたくさんのアクシデントに出くわします。

たくさん胆を冷やした分、確実に実力がついていきます。

絶対に無理はせず、少しずつ経験を積みながらステップアップしていって下さい。

なお、装備の購入の記事でGPSを紹介しませんでしたが、吹雪の中では、ホワイトアウトしたり、自分の歩いたトレースは休憩している間に消えていきます。

そんな時にGPSがあるのとないのとでは安心感が全然違います。

冬山を続けたい方はハンディGPSの購入も検討し方が良いでしょう。






プロフィール

フリーランサー。元船員(航海士)
学生時代に山岳部チーフリーダーを経験し、阿寒、知床、大雪を中心に活動。
以来、北海道の山をオールシーズン、単独行にこだわり続け35年。
現在は主に日高山脈をフィールドにしている山オタクのライター。

※他サイトにおいて元山岳部部長を名乗る個人・団体が存在しますが、それらは当サイトとは一切関係ありませんのでご了承ください。



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