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冬山の滑落停止法とは?~素早く止めるのがミソ

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冬山の滑落停止法とは?~素早く止めるのがミソ

雪山で滑落し、スピードがつくと何をやっても止まりません。

滑落したらどのような方法でも良いので、少しでも早く止めなくてはなりません。

今回は雪山での滑落停止法について考えてみます。

 

滑落停止には様々な方法があり、技術書に書かれているものから、登山者の滑落体験に基づくものまで多様です。

滑落といっても、雪質、滑落時の姿勢、ピッケルの有無、ザックの重さなどによって、有効な停止法は変わってきますので、ひとつだけ覚えておいても、実際の滑落では対処できない場合があります。

この方法ならどんな滑落でも絶対に止まるというものはなく、ケースに応じて最短距離で止まれる動作を咄嗟に出せることが重要です。

そのためには、色々な状況を想定して練習するしかありませんが、まずは広く認知されている滑落停止法を学び、応用していくのが良いと思います。



定番の滑落停止法

これは昔から知られている方法で、正式な名称はないようですが、反転式、伝統的滑落停止法などと呼ぶ場合があります。

  • ① ピッケルのヘッドとシャフトを握り、ヘッドを持った側へ一気に反転すると同時に胸の前でピックを雪に突き刺し、体重を乗せます。
  • ② 腕が伸びて万歳にならないよう、脇はしっかり締めます。
  • ③ 足はアイゼンの爪が引っ掛からないよう上げておきます。

筆者はアイスバーンで滑落したことがありますが、この時、ピックを突き立てた姿勢のまま、スピードが乗った状態でアイゼンの出刃を雪面に引っ掛けてしまい、足首骨折、アキレス腱断裂をしたことがあります。(滑落体験記事「冬山の滑落事故・止まらないアイスバーン」)

このように、固雪でスピードが乗った状態では、基本どおりに足を上げておかないとアイゼンが引っ掛かり大怪我をすることがあります。

しかし、雪がある程度柔らかい場合や、スピードが乗る前は、靴底のサイドエッジを効かせて制動すると有効な場合があります。(アイゼン装着時は雪が固いと体をはじかれる可能性があります。)

また、雪が柔らかすぎる場合、ピックを突き立てても効きませんので注意が必要です。

 

吉尾式滑落停止法Ⅰ

登山家の吉尾弘氏が提唱した停止法には二種類あり、反転式より早く制動動作に移れるという特徴があります。

吉尾式Ⅰは、深雪で滑落した場合に有効とされています。

  • ① 両足を大きく開き、ピッケルのヘッドとシャフトを保持し、グリセードのようにピッケルのシャフトを体側に突きます。
  • ② 腰を浮かせ、ピッケルのシャフトを突き立てて荷重し、両足のサイドエッジを効かせます。この時、ヘッドを持った腕の肘から下とシャフトが一直線になるようにします。

やってみるとわかりますが、柔らかい雪では両足を広げるだけでも雪が足の間にたまって、止まれることがあります。

雪質によっては、手や足を広げることで雪の抵抗ができ、制動効果を生む場合があることも覚えておきましょう。

 

吉尾式滑落停止法Ⅱ

次は比較的固い雪での停止法です。

  • ① 両足を大きく開き、ピッケルのヘッドとシャフトを保持します。
  • ② ヘッドを持っている側に上体をねじり、上体をピッケルのヘッドに覆いかぶせるようにして、ピックを突き刺して制動します。シャフトを持つ手の方は腿のつけ根付近で保持します。

動作としては、反転式にやや似ていますが、反転せずに体をねじって制動をかけますのでタイムラグが生じません。

この方法は、滑落スピードが早いとアイゼンの爪が引っ掛かり、体がはじかれる場合があります。

アイゼンの引っ掛かりを少なくするためにも、両足を大きく開くと言われています。

実際の滑落は尻もち姿勢とは限らない

反転式も吉尾式も尻もち滑落の場合を想定していますが、吉尾式の方が初期制動までに要する時間が短くて済みます。

制動までの時間が短いということはその分、滑落スピードを押さえることができます。

そういう意味では吉尾式の方がより実戦的と言えそうです。

しかし、実際の滑落ではどのような姿勢で落下するかわかりませんので、色々な状況を想定しておく必要があります。

ザックが重いと更に困難

筆者が体験した事故では、全荷を背負ったままアイスバーンで尻もち滑落→ザックの重みで頭が下へ、ザックの厚みでピックが届かず→反転してうつ伏せに→ピックを刺して頭を上へ、胸の前でピックを刺して制動・・とやっているうちにスピードが乗ってしまい、胸の前でピックを突き刺したまま加速していきました。

この事例では仰向けのまま、頭が下を向いてしまったので、態勢を戻すまでに時間がかかり、スピートが乗ってしまったのが失敗の原因です。

尻もち滑落でザックが重い場合は頭が下を向きやすいので注意が必要です

また、ザックが重いとうつ伏せに反転するのが困難になります。

転んだらすぐにピッケルを突き刺すなどして、頭が下を向かないような工夫が必要です。

一旦スピードついてしまうと何をやっても無駄です。

このように、滑落といっても頭から先にいく場合もありますし、転げ落ちる場合など、色々な状況が考えられます。

どのような場合でも瞬時に初期制動ができて、スピードさえ乗らなければ助かる可能性は高くなります。

次に滑落中、頭が下を向いてしまった場合の対処法について2つ紹介します。

頭から滑落したら(うつ伏せ滑落)

  • ① ピッケルのヘッドとシャフトを保持し、頭上付近にピックを突き刺します。
  • ② 体はピックを中心に回転し、頭が山側を向きます。(この例では時計まわりに回転します)
  • ③ ピックを胸の前に突き立て制動します。

この方法は、固雪でも柔らかい雪でも、比較的容易に体を回転させることができます。

頭から滑落したら(仰向け滑落)

  • ① ピッケルのヘッドとシャフトを保持し、やや横向きの姿勢をとりながらヘッドを持っている側の雪面にピックを突き刺します。
  • ② 体はピックを中心に回転し、頭が山側を向きます。(この例では反時計まわりに回転します)
  • ③ 頭が山側を向くと同時に、横向きの姿勢からうつ伏せになり、ピックを胸の前に突き立て制動します。

ザックが重くて、厚みがある場合はピックが届かないばかりか、横を向くのも大変になります。

ザックが重たい場合、このような姿勢で滑落すると、対処が非常に困難になりますので、十分に注意しなければなりません。

 

まとめ

滑落時の雪質、ピッケルの有無、ザックの軽重、滑落姿勢、アイゼン装着の有無などで、最適な滑落停止法は変わります。

なので、あらゆる状況を想定して練習しておく必要があります。

練習はここで紹介した方法をベースに、臨機応変な制動方法を取りつつ、どんな状況でも最短距離で止まることができるようにしておかなければなりません。

練習を行う場所は、軟雪、固雪など様々な場所で試すのが良いのですが、練習中に絶対怪我をしないよう障害物がなく、失敗しても自然に停止できるような斜面を選びます。

滑落事故は最初の数秒間で初期制動ができるかどうかで決まると言われています。

形にとらわれることなく、応用と工夫をしながら、最短時間、最短距離で確実に止まれる技術を身に付けることが大切です。



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プロフィール

フリーライター。元船員。
学生時代に山岳部リーダーを経験し、阿寒、知床、大雪を中心に活動。
以来、北海道の山をオールシーズン、単独行にこだわり続け30年。
現在は主に日高山脈をフィールドにしている山オタクのライター。



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