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元山岳部部長の登山講座

登山とスズメバチ対策。アナフィラキシーから身を守れ!

山は野生動物が住む領域なので、様々な動物について知っておく必要があります。

登山中に注意しなければならない動物はいくつかありますが、その中でも「スズメバチ」は特に注意が必要です。

今回は「スズメバチ」について説明します。




山の動物で一番こわいもの

登山中の動物による事故の中で、特に警戒が必要なものがスズメバチです。

野生動物による死亡事故は、ヒグマやツキノワグマによるものが年間0件~数件、毒ヘビによるものが数件~10件前後なのに対して、スズメバチによるものは、毎年20件前後発生しています。

スズメバチ

スズメバチの活動が活発になるのは7月~10月で、この時期はスズメバチの攻撃性が高まります。

その中でも、夏の終わりころから秋にかけて事故が多発しています。

スズメバチが恐れられている理由は、刺されると蜂の毒でアナフィラキシーショックを起こし、死亡したり、行動困難に陥ることがあるからです。

そして、山の中では、スズメバチの巣の位置がわかりづらいというところが最も厄介です。

通常、巣の周辺には周囲を警戒をするスズメバチが数匹いて、一定エリアに人が入いると、2匹くらいのスズメバチが羽音をたてたり、カチカチとあごを鳴らして威嚇してきます。

警戒中のスズメバチから威嚇を受けた場合は、静かにその場から離れます。

退避する際は、低い姿勢の方が有利とされています。

手で振り払ったりすると蜂が怒り、刺されることになります。

スズメバチは地面に巣を作ることもあり、うっかり巣の近くを踏んでしまうと、いきなり総攻撃を受けることもあります。



アナフィラキシーショックとは

食物アレルギー、薬物アレルギー、蜂毒アレルギーなど、アレルギーを持っている人の体内に、アレルギーを起こす物質が入るとアナフィラキシーショックを起こす場合があります。

アナフィラキシーショックの症状は30分以内に現れ、薬物アレルギーの場合は5分程度、蜂毒アレルギーの場合は15分程度、食物アレルギーの場合は30分程度で心停止するとされています。

アナフィラキシーの症状は、じんましん、息苦しさ、しびれ、めまい、喉の渇き、吐き気、腹痛、下痢、頭痛などですが、重症だと呼吸困難、意識低下、血圧低下、けいれんなどが起こります。

スズメバチに2回刺されると死ぬと言う話をよく聞きます。

これについてですが、初めてスズメバチに刺された場合、アナフィラキシーを起こすことはないのですが、初めて刺された時に、約20%の人が蜂の毒によるアレルギー体質になってしまい、このような人が、2回目に刺された場合、その10~20%の人にアナフィラキシー症状が出て、そのうち数%がアナフィラキシーショックを起こし、死亡する場合があると言うことです。

また、2回刺されて大丈夫な人が、3回目以降にアナフィラキシーを起こす場合があったり、初めて刺された場合でも、多数のスズメバチに刺されるとショック死する場合もあったり、過去にアシナガバチに刺されたことがある人が、初めてスズメバチに刺された場合、アナフィラキシーを起こすこともあります。(スズメバチとアシナガバチの毒の成分が似ているので、アシナガバチに刺された時にできた、蜂毒アレルギーによってアナフィラキシーを起こすというもの)

このように、スズメバチに刺されたことによるアナフィラキシーには、色々なパターンがあるのですが、蜂毒アレルギーを持っている場合、アナフィラキシーを起こす可能性があるので注意が必要です。

蜂毒アレルギーがあるかどうかについては、病院でアレルギー検査を受ける必要があります。

 

スズメバチの攻撃対象~「黒い物」「ひらひらするもの」

攻撃

スズメバチ対策として、覚えておきたいことは2つあります。

ひとつはスズメバチは「黒いもの」を攻撃すること、もうひとつは「ひらひらと動くもの」にも攻撃をするということです。

黒いものは狙われる

黒

スズメバチは黒い瞳や髪の毛など、黒いものを襲う習性があるとされています。

筆者が黒い色の車を運転していた時のことですが、2回ほどスズメバチに襲われています。

8月の天塩岳(1558m)の登山口で、たくさんのスズメバチがクルマを取り巻き、クルマのボディに体当たりを始め、いつまで経ってもいなくならないので、登山を中止したことがあります。

また、林道で車がスタックした時に数匹のスズメバチがクルマを取り巻いたため、クルマから出られなくなったこともあります。

スズメバチが黒いものを襲うという習性があるために、黒いボディーのクルマが狙われたのではないかと思います。

スズメバチは、白くて動かないものには攻撃しないようです。

実際、蜂関係の業者は白い防護服を着用しています。

スズメバチの視覚は白黒で見えると言いますので、黒以外の色でも白黒にすると暗く見える色は狙われやすくなります。

登山では明るい色の服装が良いでしょう。

ひらひらするもの

スズメバチは黒いものだけではなく、動くものも攻撃するとされています。

実際の話ですが、9月の雄阿寒岳(1370m)でオオスズメバチに襲われたことがありますが、その時、パーティーの中で刺されたのはひとりだけでした。

その人とほかのメンバーの服装には違いがありました。

その人だけ白い毛皮の尻当てをしていて、歩く度に尻当てがひらひらしていたために、お尻付近を刺されたようです。

その事故があった翌週、再び雄阿寒岳を訪れたのですが、今度は筆者が右手を刺されました。

刺されたのはメンバーの中で筆者だけでした。

刺された時、筆者とほかのメンバーでは服装と行動に違いがありました。

筆者だけ白い軍手を着けていて、腕を大きく振りながら歩いていたということです。

白い軍手が前後する動きにスズメバチが反応したではないのかと思います。

この2つの共通点は「ひらひら動くもの」を襲っているということです。

まとめると、スズメバチのいる場所では、黒い服装を避ける、ひらひらするものを身に着けたり、大きな動きをしないということです。

もし登山道でスズメバチに出くわし、威嚇されたら、「それ以上巣に近づくな」という意味ですので、急な動きは避け、ゆっくりとスズメバチから距離をとることが有効です。

なお、登山ではあまり馴染みがありませんが、香水や整髪料、ジュースの甘い匂いなどは、スズメバチを誘引するとされていますので、これらについても注意が必要です。



スズメバチに刺されたら~まずは毒を出す!

もし、いきなり刺されてしまったら、患部はしつこく口で毒を吸い出したり、水で洗い流したりします。

(ただし、口の中に傷がある場合は傷から毒が入りますので注意が必要です。)

そして、その日の登山は中止することです。

筆者は下山中に刺されましたが、右手を刺されて約30分でわずかな呼吸の苦しさと右半身にしびれが来ました。

刺された時の痛さは、例えるなら、竹串で手を貫通させたような感じの痛みで、ものすごく痛いです。

お尻を刺された人は、登りの途中だったのですが、その後体調が悪くなり、あぶら汗をかきながら登山をしていました。

蜂にさされたら、「ポイズンリムーバー」と呼ばれる注射器のような形をした携帯用毒吸いポンプが登山用品店などで購入できますので、口で毒を吸えない場合には非常に有効です。

蜂の毒以外にも、蚊やブヨなどに刺された場合の毒吸いには有効で、早くかゆみがおさまります。

プラスチック製でとても軽く、値段も高くないので、登山用の救急セットに加えても実用性は十分あります。


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蜂毒アレルギー検査で体質を把握する!

一度スズメバチに刺されると、次刺されたら死ぬかもしれないという恐怖が生まれます。

不安を払拭するためには、蜂毒アレルギー検査を行うと良いでしょう。

皮膚科やアレルギー科のある病院などで検査ができ、大概はスズメバチ、アシナガバチ、ミツバチの3種類についての検査になります。

費用は、保険が効くと3000円くらいですが、保険が効かない場合は1万円くらいかかります。

蜂に刺されたことがある場合は保険が効きますが、ない場合は10割負担になります。

こんな感じで検査結果がもらえます

上の検査結果は筆者がスズメバチに一度刺されたあと、アナフィラキシーが心配になり、皮膚科で検査した時の結果です。

検査方法は血液検査です。

採血して後日結果を聞きにいきます。

クラス0は陰性、クラス1は疑陽性、クラス2以上は陽性です。

筆者の場合、一度刺されましたが、クラス0、スズメバチアレルギーはなしとのことでした。

人によっては、2回以上刺されてからアレルギーが出ることもあります。

ですので、スズメバチに刺された場合、その都度アレルギー検査をする方が無難だと思います。



スズメバチによる死亡事故は防げるのか?~自己注射製剤「エピペン」とは

スズメバチの巣の位置が事前にわからない限り、事故を防止するのはなかなか難しい問題です。

アレルギーを持っている人は、山林など蜂がいそうな場所に行かないということが一番の対策ですが、どうしても山林に入りたい場合もあると思います。

アナフィラキシーショックによる死亡事故を防ぐ最も有効な方法は、30分以内に「アドレナリン」を注射することです。

重症のアナフィラキシーショックの場合、病院に搬送してからでは手遅れのことが多いため、現場において自分の判断でアドレナリンを注射できるよう、病院でアドレナリン自己注射製剤「エピペン」を処方してもらうこともできます。

「エピペン」は重大な食物アレルギーを持っている人やスズメバチに刺されやすい林業関係などの人のために開発されました。

「エピペン」はアレルギーの初期症状が出た場合や、過去にアナフィラキシーを起こしたことのある場合に、本人か保護者が自己判断で注射をします。

薬剤と注射器が一体になっていて、太ももの外側に注射をします。緊急時は服の上から注射することもできます。

エピペンの入手方法ですが、エピペン処方医師に登録されているお医者さんでなければ処方できませんので、まずはエピペンを処方できるかどうかを病院に問い合わせる必要があります。

次に、アレルギー検査を行います。

過去にアナフィラキシーショックを起こしたことがあるか、前述のようなアレルギー検査をして陽性が出れば、お医者さんの判断でエピペンが処方されます。

検査が陰性でも、登山日数が多いなど、スズメバチに刺される蓋然性が高い場合は処方してくれる場合もあるようです。

エピペンは価格が1万円程度しますが、平成23年(2011年)から保険が効くようになりましたので3割負担で入手できます。

薬剤の有効期限は1年です。

なお、エピペンにより現場で一命をとりとめたとしても、必ず病院にいきましょう。

アナフィラキシーショックは数時間後に現れる場合もありますので注意して下さい。

アナフィラキシーショックを起こした体験

スズメバチではありませんが、筆者は薬剤によってアナフィラキシーショックを起こした経験があります。

病院で薬剤を注射後、約5分後に突然息が苦しくなり、看護婦さんに「助けて」と一言伝えたあと、突然意識を失いました。

薬剤が合わなかったらしく、アナフィラキシーショックを起こし、血圧が急降下したようです。

倒れた場所が病院でしたので、すぐにアドレナリンを注射して意識を回復しました。

このように、重いアナフィラキシーショックを起こすと、なすすべもなく倒れてしまうのです。

一刻も早くアドレナリンを投与できるのかどうかが、生死を分けます。

 

虫除けスプレーや殺虫剤は効果があるのか?

スズメバチの忌避専用に作られたスプレーは今までありませんでしたが、現在、スズメバチの攻撃本能を消失させる忌避スプレー「スズメバチサラバ」が販売されています。


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このスプレーは、高知大学で研究開発されたもので、攻撃態勢に入った、スズメバチやアシナガバチに対して即効性があり、スプレーを吹きかけると、蜂が嫌がり、攻撃しなくなるというものです。

殺虫成分はなく、100mlと300mlが販売されています。

殺虫剤については、スズメバチ用の強力殺虫スプレーが各社から販売されており、これらの殺虫スプレーには、殺虫成分やハチの攻撃を無力化する成分などが含まれています。


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いずれも、即効性があり、スズメバチの巣の駆除などに使用されるものです。

一般的な殺虫スプレーより噴射の勢いは強く、飛んでいるスズメバチをほぼ一撃で落とします。

殺虫スプレーを使いきる前に安全な場所に退避できるのなら、スズメバチの攻撃をかわせるのかも知れません。

スズメバチサラバや殺虫スプレーは、不意なスズメバチの攻撃に対しては、一定の効果が期待できそうですが、熊よけスプレー同様、すぐに噴射が可能な位置にスプレーを携帯しておく必要がありそうです。




看板(下)



プロフィール

フリーランサー。元船員(航海士)
学生時代に山岳部チーフリーダーを経験し、阿寒、知床、大雪を中心に活動。
以来、北海道の山をオールシーズン、単独行にこだわり続け35年。
現在は主に日高山脈をフィールドにしている山オタクのライター。

※他サイトにおいて元山岳部部長を名乗る個人・団体が存在しますが、それらは当サイトとは一切関係ありませんのでご了承ください。



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