26Apr

失敗しないクマよけスプレーの選び方
秋と雪解けシーズンは毎年のようにクマの目撃ニュースが多く報じられます。
登山や山菜取りで山に入る場合は、クマとの接触に備えることが必要です。
今回は、クマに襲われそうになった場合、現在一番有効な対処法とされている「クマよけスプレー」の選び方と使用方法について説明します。
熊に遭わないようにする。出会ったら背を向けて逃げない
北海道にはヒグマ、本州にはツキノワグマが生息しています。
成獣の体格はヒグマの方がツキノワグマの2倍程度大きいですが、習性や食性、走る早さなどはほぼ同じと考えられています。
従って、ヒグマやツキノワグマに遭遇した場合の対処はどちらも同じ方法をとることになります。
まずは、クマに遭わないようにしなければいけません。
まったく警戒心を持たないで山に入る人と、クマの存在に気をつけている人では大きな差があります。
過度に警戒する必要はありませんが、誰にでもわかるような真新しいクマの痕跡を見つけたら、登山や山菜取りを中止するなどして、クマとの接触を避けるようにします。
山菜取りなどに夢中になっていると、クマが残した、糞、足跡、木の幹の爪痕、獣の臭いなどに気づけないことがあります。
子熊の存在にも気をつけます。
子熊の近くには必ず母熊がいるからです。
いくらクマの痕跡に気をつけていても、出会い頭に遭遇することもあります。
万一、クマに出会ってしまったら、絶対に背を向けて逃げてはいけません。
クマは背を向けて逃げるものを襲う習性があります。
クマの目を見てじっと動かずにいれば、クマの方から立ち去ってくれるケースが比較的多いと言います。
クマが立ち去らずに接近してきたら、持っている帽子や釣り竿など、何でも良いから物を投げるとクマはその物に興味を示すので、その隙に距離を取る、これを繰り返しながら逃げ切る方法もあります。
それでも、接近してきて襲われそうになったら、最終的にはナタなどの武器で格闘する(比較的生還率はあります)覚悟を決めなければなりませんが、現在では「クマよけスプレー」を噴射して撃退する方法が有効ですので、ナタは最後の最後ということになります。
クマよけスプレーの効果
販売されているクマよけスプレーのほとんどは、北米のグリズリーに対して効果のあるものなので、当初はヒグマやツキノワグマへの効果については懐疑的な部分もありましたが、登別クマ牧場での実験や、ヒグマ研究家やツキノワグマの研究家による野生のヒグマ、ツキノワグマへの使用例では忌避効果が報告されております。
現在のところ、クマに接触して襲われそうになった場合の一番有効な手段だと言えます。
ナタで鼻付近を集中的に叩いたり、切りつける方法で生還した例も複数ありますが、死亡例もあります。
今のところ、クマよけスプレーの使用例は少ないですが、使用したけど襲われたという報告例もありません。
ナタで格闘するのは最後の手段として、その前にクマよけスプレーで撃退するのが現実的です。
(ヒグマが残す痕跡、遭遇した時の対処法、ナタの効果などについて詳しくは「最新ヒグマ対策のまとめ~対処法を知って楽しい登山」を読んでみて下さい)
クマよけスプレーの選び方と正しい使用法
クマ類全般に効果があるとされているクマよけスプレーで、現在多く出回っているのは、「カウンターアソールト」「ガードアラスカ」「ベア―アタック」「UDAP」の4つです。
このほかに、効果がやや弱く、ツキノワグマにしか効かないとされている「ポリスマグナム」というクマよけスプレーもあります。
いずれもトウガラシを成分とするスプレーで、噴射距離、噴射時間がそれぞれ違います。
また、有効期限は3年程度ですので購入時はよく確認して、間違って古いものを買わされないよう気をつけます。

カウンターアソールト(本体底部に有効期限が表示)
使い方はどれも一緒で、プラスチック製の安全装置をはずし、引き金を押すだけです。

引き金に誤射防止用の白い安全装置がはめてある

安全装置を手前方向にスライドして外す

引き金があらわれる

クマの顔面めがけて引き金を押す
スプレーは大きく広がらず、直進性があります。
クマの顔面に正確にヒットさせる必要がありますので、約5mくらいまでクマを引きつけてからよく狙って一気に全量をスプレーします。
クマが風上にいる時には、スプレーが自分に返ってきて自分の目がやられてしまいますので要注意です。
また、横風が強い時やヤブの中では、噴射距離の短いスプレーでは5mも届かないことが考えられます。
使用に際しては、これらのことを十分考慮し、普段からイメージトレーニングしておく必要があります。
カウンターアソールト
カウンターアソールトは現在市販されているクマよけスプレーの中では噴射距離、噴射時間、刺激度ともに最高クラスと言われているスプレーです。
カウンターアソールトには「カウンターアソールト」と「カウンターアソールト ストロンガー」があります。(筆者は現在、ストロンガーを使用しています。)
ストロンガーの方が噴射距離、噴射時間が長くなっています。
専用ホルダーは、ふたがバックル式になっているものと、マジックテープ式のものがあります。
バックル式のホルダーは非常にしっかり作られており、藪こぎをしてもホルダーのふたが外れて誤射するようなことはなく、登山向きと言えます。

カウンターアソールト

カウンターアソールトストロンガーとバックル式ホルダー
- 内容量 230g(ストロンガー290g)
- 噴射距離 9m(ストロンガー10.5m)
- 噴射時間 7.2秒(ストロンガー9.2秒)
- スコビル値(刺激度) 約32万SHU
- 油性
- 有効期限 4年
- 価格 10000円程度(ストロンガー13000円程度)
- 専用ホルダー 3000円程度(ホルダーはストロンガーと共用です)
→OUTBACK 熊撃退スプレー カウンターアソールト・ストロンガー 携帯ホルスターセット
ガードアラスカ
カウンターアソールトよりも噴射距離はやや短く、刺激度はかなり押さえられています。
- 内容量 255g
- 噴射距離 5~8m
- 噴射時間 5~7秒
- スコビル値(刺激度) 約20万SHU
- 油性
- 有効期限 3年
- 価格 10000円程度
- 専用ホルダー 3000円程度
→ガードアラスカ®コンボパック/ FreeベルトループBallisticホルスター
ベア―アタック
こちらも、カウンターアソールトより噴射距離がやや短くなっています。
スコビル値(刺激度)は公表されていませんので、他社のスプレーと性能を比較できないのが残念ですが、値段はお手ごろです。
- 内容量 220g
- 噴射距離 5~8m
- 噴射時間 5~7秒
- スコビル値(刺激度) -
- 油性
- 有効期限 3~4年
- 価格 9000円程度(専用ホルダー付き)
→【BEAR ATTACK/ベアーアタック】 クマ撃退スプレー(専用ケース付)
UDAP ペッパーパワー
噴射距離、刺激度ともにカウンターアソールトに迫る強力な商品ですが、その割に価格が安いのが魅力です。
専用ホルダーは引き金部が覆われていませんので、藪こぎなどをする場合には、誤射に気をつける必要があるでしょう。
- 内容量 260g
- 噴射距離 9m
- 噴射時間 -
- スコビル値(刺激度) 約30万SHU
- 油性
- 有効期限 5年
- 価格 9000円程度(専用ホルダー付き)
→UDAP 熊撃退スプレー ホルスター付 (アメリカ森林警備隊採用品)正規輸入品
ポリスマグナムB-610
もともと対人用に設計されたスプレーです。
名前は強そうですが、他社のクマよけスプレーより刺激度が弱いため、ツキノワグマ用として販売されています。
ヒグマに対しては、効果が弱いとされていますので注意が必要です。
水性なので効果の持続時間は油性より劣ります。
- 内容量 250g
- 噴射距離 5~9m
- 噴射時間 8秒
- スコビル値(刺激度) 約18万1千SHU
- 水性
- 有効期限 3年以上
- 価格 11000円程度(専用ホルダー付き)
→熊撃退スプレー 大型 ホルスター付 (全国の複数の国公立機関・地方自治体正式採用品) B-610-CS
有効期限について
クマよけスプレーの有効期限は、概ね3~5年程度とされています。
これは、中身の成分はほどんど変質しませんが、ガス圧が下がり噴射距離が落ちるなどが考えられるために、有効期限を短めに表示していると言われています。
保存状態がよければ、10年経っても使用可能とも言われています。
筆者は購入から10年(その間、月1回以上は登山に携行)を経過した「ガードアラスカ」の自宅の前でテストしてみました。
テストの結果、噴射距離は目測で4~5m程度で、スプレーには直進性があり、赤い帯状の成分がまっすぐに噴射されました。
10年経ってもガスはほどんど抜けていないということです。
そして、噴射した赤い帯状の成分が散ってしまう前に、目を開けてその中に顔を突っ込んでみましたが、途端に目の痛み、涙、鼻水で視界が奪われ、家の玄関までやっとの思いでたどりつくほどでした。
10年経っても、見てわかるほどの成分の劣化はないようです。
おそらくクマに対しても使用可能ではないかと推測します。
個人的には3~5年で買い替えは少々もったいないと考えます。
5年程度で買い替えるのが安全圏だと思いますが、筆者は5年を超えたらテストをして噴射距離を確認し、大丈夫なら10年目で買い替えを行っています。
(期限切れカウンターアソールトの噴射実験をしました。詳しくは「実験!期限切れ熊よけスプレーは使えるのか?」を読んでみて下さい。)
ヒグマ用のクマよけスプレーをツキノワグマに使用してはいけないのか?
ヒグマに効果のあるクマよけスプレーはツキノワグマにも十分な効果があります。
一部に、ヒグマ用のクマよけスプレーはヒグマ(成獣の体長200~230cm、体重150~250kg)より体格の小さいツキノワグマ(成獣の体長110~150cm、体重80~120kg)に使用した場合、効果が強すぎるので、動物愛護や環境保護の観点から使用してはいけないとする意見があります。
北海道で実際に発生したヒグマによる死亡事故について言えば、加害グマは、2,3歳のいわゆる「若グマ」の割合が多く、登山や釣り山菜取りなど、狩猟中以外に発生した死亡事故の約7割は「若グマ」によるものです。
2、3歳の若グマの平均体格についてですが、体長158~165cm、体重90~120kgですので、大きめのツキノワグマとほぼ同じということになります。
ヒグマ用のスプレーが、ツキノワグマには効果が強すぎて動物虐待になるのなら、2,3歳のヒグマにも効果が強すぎると考えるのが妥当です。
成獣のヒグマとツキノワグマの体格の差を理由に、スプレーを使い分けなければならないとすれば、ヒグマに対しては、ヒグマ用(カウンターアソールトなど)とツキノワグマ用(ポリスマグナム)の2本を携帯し、成獣にはカウンターアソールト、若グマにはポリスマグナムと、咄嗟に使い分けなければならないということになり、あまり現実的とは言えません。
クマによる死亡事故については、1980年~2006年の27年間で、ツキノワグマによるものが22名、ヒグマによるものが6名となっています。
生息域の面積を考えると、ヒグマもツキノワグマも事故の発生頻度は大きく変わらないと言えますが、発生件数だけで見るとツキノワグマの事故の方がはるかに多いことがわかります。
対象がヒグマであれ、ツキノワグマであれ、仲間や自分が殺されそうになった場合、より確実性の高い方法をとることになります。
確実性ということでいうと、カウンターアソールトについては、国内で研究者により実際に使用され、ヒグマやツキノワグマに忌避効果があったことが確認されていますが、その他のスプレーについては、効果があるのだろうということまでしか言えません。
動物愛護は大切ですが、死亡事故を防ぐことはもっと大切です。
環境省自然環境局が出している、「クマ類出没対応マニュアル」にはクマよけスプレーはクマ類(ヒグマ、ツキノワグマ)に対して実績と効果が認められているとしたうえで、クマよけスプレーの例として「カウンターアソールト」を紹介していますが、クマよけスプレーの使用が、動物愛護や環境保護に悪影響があるなどの記載は一切ありません。
ヒグマやツキノワグマに対する、各スプレーの使用が動物虐待に当たるのかどうかについては、十分な研究とデータが示された後に検討すべき問題なのだと思います。
切羽詰まった状況で、身を守るために適切にクマよけスプレーを使用する分においては、現在のところ、どのスプレーを使用しても理解されると言ったところでしょう。
まとめ
ヒグマやツキノワグマは時速40~50kmで走ることができると言われています。
クマの運動能力を考えると、約5mでスプレーを噴射するというのはかなりの恐怖がありますが、失敗は許されず、確実性が必要です。
確実にスプレーをヒットさせるには、練習はもちろんのこと、噴射距離、噴射時間の長いものがより有利だと言えます。
横風が吹いている場合やヤブの中では、カタログスペックにある噴射距離より短くなることを考えればなりません。
クマよけスプレーはザックにしまっておいても役に立ちませんので、専用ホルダーの使いやすさも選ぶポイントになります。
(専用ホルダーについて詳しくは「熊よけスプレー~ホルダーの取付位置は?」を読んでみて下さい)
予算、噴射距離、噴射時間、専用ホルダーの形状などを見て、自分が出かけるフィールドに見合ったものを選びましょう。
ハイキングなどでお守り程度に持ち歩きたいのなら、「ベア―アタック」や「UDAP」が価格的にも手頃ですが、クマの多い山域で活動する場合には噴射距離、噴射時間ともに長く、国内では使用実績もあり、ホルダーもしっかりしている「カウンターアソールトストロンガー」は特におすすめです。
OUTBACKカウンターアソールト・ストロンガー携帯ホルスターセット
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