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失敗しないクマよけスプレーの選び方!

失敗しないクマよけスプレーの選び方

秋と雪解けシーズンは毎年のように熊の目撃ニュースが多く報じられます。

登山や山菜取りで山に入る場合は、熊との接触に備えることが必要です。

今回は、熊に襲われそうになった場合、現在一番有効な対処法とされている「熊よけスプレー」の選び方と使用方法について説明します。




熊に遭わないようにする。出会ったら背を向けて逃げない

北海道にはヒグマ、本州にはツキノワグマが生息しています。

成獣の体格は、ヒグマの方がツキノワグマより2倍程度大きいのですが、習性や食性などはほぼ同じと考えられています。

従って、ヒグマやツキノワグマに遭遇した場合の対処は、どちらも同じ方法をとることになります。

まずは、熊に遭わないようにしなければいけません。

まったく警戒心を持たずに山に入る人と、熊の存在に気をつけている人では大きな差があります。

過度に警戒する必要はありませんが、誰にでもわかるような真新しい熊の痕跡を見つけたら、登山や山菜取りを中止するなどして、熊との接触を避けるようにします。

山菜取りなどに夢中になっていると、熊が残した、糞、足跡、木の幹の爪痕、獣の臭いなどに気づけないことがあります。

子熊の存在にも気をつけます。

子熊の近くには必ず母熊がいます。

いくら熊の痕跡に気をつけていても、出会い頭に遭遇することもあります。

万一、熊に出会ってしまったら、絶対に背を向けて逃げてはいけません。

熊は背を向けて逃げるものを襲う習性があります。

熊の目を見て、じっと動かずにいれば、熊の方から立ち去ってくれるケースが比較的多いと言います。

熊が立ち去らずに接近してきたら、持っている帽子や釣り竿など、何でも良いから物を投げると、熊はその物に興味を示すので、その隙に距離を取る、これを繰り返しながら逃げ切る方法などもあります。

それでも、接近して来て襲われそうになったら、最終的にはナタなどの武器で格闘する(比較的生還率はあります)覚悟を決めなければなりませんが、現在では「熊よけスプレー」を噴射して撃退する方法が有効です。

 

熊よけスプレーの効果

市販されている熊よけスプレーのほとんどは、アメリカ製であり、アメリカの熊(グリズリーなど)に対して効果が認められているものなので、当初は日本のヒグマやツキノワグマへの効果については懐疑的な意見もありましたが、登別クマ牧場での実験や、ヒグマ、ツキノワグマの研究家達による野生のヒグマ、ツキノワグマへの使用例では忌避効果が確認されております。

熊よけスプレーは、現在のところ、熊に襲われそうになった場合の、一番有効な撃退手段のひとつだと言えます。

ナタで熊の鼻付近を集中的に叩いたり、切りつける方法で生還した例も複数ありますが、死亡例もあります。

今のところ、一般人による、熊よけスプレーの使用例は少ないようですが、使用したけど襲われたという報告例もありません。

ナタで格闘するのは最後の手段として、その前に熊よけスプレーで撃退するのが現実的です。

(ヒグマと遭遇した時の対処法、ナタや武器の効果などについて詳しくは「最新ヒグマ対策のまとめ~対処法を知って楽しい登山」を読んでみて下さい)

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熊よけスプレーの選び方と正しい使用法

クマ類全般に効果があるとされている熊よけスプレーには、「カウンターアソールト」「ガードアラスカ」「ベア―アタック」「UDAP」などがあります。

このほかに、効果がやや弱く、ツキノワグマにしか効かないとされている「ポリスマグナム」というスプレーもあります。

いずれもトウガラシを成分とするスプレーで、噴射距離、噴射時間、スコビル値(刺激度)などがそれぞれ違います。

また、有効期限は概ね3~4年程度ですので、購入時はよく確認して、古いものを買わされないよう気をつける必要があります。

カウンターアソールト(本体底部に有効期限が表示)

なお、日本には熊よけスプレーの品質に関する基準はありませんが、アメリカの基準では、米省庁間グリズリーベア委員会(IGBC)のガイドラインで、熊よけスプレー(ベアースプレー)は米環境保護庁(EPA)に登録されたもののみを使用するようにとなっています。

EPA登録品かどうかは、本体ラベルに「EPA registration No.」があるかどうかで確認することができます。

カウンターアソールトのラベル下部にあるEPA Registrationナンバー。

使い方は、一部の商品を除いてほぼ同じ作りになっており、プラスチック製の安全装置をはずし、発射レバーを押すだけです。

引き金に誤射防止用の白い安全装置がはめてある

安全装置を手前方向にスライドして外す

発射レバーがあらわれる

熊の顔面めがけて発射レバーを押す

スプレーは大きく広がらず、ある程度の直進性があります。

熊の顔面に正確にヒットさせる必要がありますので、約5mくらいまで熊を引きつけてから、よく狙って一気に全量をスプレーします。

熊が風上にいる時には、スプレーが自分に返って来て、目や粘膜がやられてしまい、熊の撃退どころではなくなってしまいますので要注意です。(少量でも顔面に浴びてしまうと、焼けるような痛みと咳込みで、最低5分~10分は行動不能になります。)

また、横風が強い時や、ヤブの中では、噴射距離が短くなる場合も考えられます。

使用に際しては、これらのことを十分考慮し、普段からイメージトレーニングしておく必要があります。

 

熊よけスプレー(ベアスプレー)の紹介

カウンターアソールト

カウンターアソールトは現在市販されている熊よけスプレーの中では噴射距離、噴射時間、スコビル値(刺激度)ともに最高クラスのスプレーのひとつです。

カウンターアソールトには「カウンターアソールト(CA230)」と「カウンターアソールト ストロンガー(CA290)」があり、ストロンガーの方が、噴射距離と噴射時間が長くなっています。(筆者はストロンガーを使用しています。)

専用ホルダーは、ふたがバックル式になっているものと、マジックテープ式のものがあります。

バックル式のホルダーは非常にしっかり作られており、藪こぎをしてもホルダーのふたが外れて誤射するようなことはなく、登山向きと言えます。

カウンターアソールト(CA230)

カウンターアソールトストロンガー(CA290)とバックル式ホルダー

  • 内容量 230g(ストロンガー290g)
  • 噴射距離 9m(ストロンガー10.5m)
  • 噴射時間 7.2秒(ストロンガー9.2秒)
  • スコビル値(刺激度) 320万SHU
  • 有効期限 4年
  • 価格 10000円程度(ストロンガー13000円程度)
  • 専用ホルダー 3000円程度(ホルダーはストロンガーと共用です)
  • EPA登録品

アマゾン OUTBACK 熊撃退スプレー カウンターアソールト・ストロンガー 携帯ホルスターセット

メース  ガードアラスカ

今回紹介したものの中では、噴射距離が一番短いですが、値段はお手頃です。

スコビル値は公表されていません。

また、有効期限について明記している販売店は見当たりませんでしたが、メース社の公式HPによると、メースブランドのスプレーの有効期限は製造から4年となっています。

  • 内容量 255g
  • 噴射距離 6m
  • 噴射時間 9秒
  • スコビル値(刺激度) ー
  • 有効期限 4年
  • 価格 8000円程度(専用ホルダー付き)
  • EPA登録品

アマゾン→mace(メース)大型動物・熊撃退スプレー ガードアラスカ【ホルスター付き】 (1本)

 

ベア―アタック

こちらも噴射距離がやや短く、スコビル値は公表されていませんが、ホルダー付きで約1万円とお手ごろな価格です。

  • 内容量 220g
  • 噴射距離 7~8m
  • 噴射時間 5~7秒
  • スコビル値(刺激度) ー
  • 有効期限 3~4年
  • 価格 10000円程度(専用ホルダー付き)
  • EPA登録品

アマゾン→【BEAR ATTACK/ベアーアタック】 クマ撃退スプレー(専用ケース付) 

 

UDAP ペッパーパワー

噴射時間は公表されていませんが、噴射距離、スコビル値ともにカウンターアソールトに迫る強力なスプレーで、スペックの割には価格が手ごろです。

専用ホルダーは引き金部が覆われていないので、登山に携帯する場合には、確実な誤射防止のため、別途、フタのある他社製の汎用ホルダーなどを探す必要があるでしょう。(ホルダーに関して詳しくは「熊よけスプレー~ホルダーと取付位置は?」を読んでみて下さい。)

  • 内容量 260g
  • 噴射距離 9m
  • 噴射時間 -
  • スコビル値(刺激度) 300万SHU
  • 有効期限 3年
  • 価格 9000円程度(専用ホルダー付き)
  • EPA登録品

アマゾン→UDAP 熊撃退スプレー ホルスター付 (アメリカ森林警備隊採用品)正規輸入品

ポリスマグナムB-610

ツキノワグマ用として販売されているスプレーで、EPA登録品かどうかは確認できません。

スコビル値は低めであり、ヒグマ用には適さないとされています。

  • 内容量 250g
  • 噴射距離 野外5~9m(室内10.5m)
  • 噴射時間 8秒
  • スコビル値(刺激度) 181万SHU
  • 有効期限 3年以上
  • 価格 11000円程度(専用ホルダー付き)

アマゾン→熊撃退スプレー 大型 ホルスター付 (全国の複数の公立機関正式採用品) B-610-CS

 

有効期限について

熊よけスプレーの有効期限は、概ね3~4年程度とされています。

これは、中身の成分はほどんど変質しませんが、ガス圧が下がり噴射距離が落ちるなどが考えられるために、有効期限を短めに表示しているとも言われます。

保存状態が良ければ、10年経っても使用可能な場合もあります。

筆者は購入から10年(その間、月1回以上は登山に携行)を経過した「ガードアラスカ」の自宅の前でテストしてみました。

テストの結果、噴射距離は目測で4~5m程度で、スプレーには直進性があり、赤い帯状の霧がまっすぐに噴射されました。

10年間で、ガス圧は少しだけ落ちたようですが、実用上はぎりぎりの噴射距離だと思います。

そして、噴射した赤い帯状の霧が散ってしまう前に、目を開けてその中に顔を突っ込んでみましたが、途端に目の痛み、涙、鼻水で視界が奪われ、家の玄関までやっとの思いでたどりつくほどでした。

10年経っても、見てわかるほどの成分の劣化はないようです。

おそらく熊に対しても使用可能ではないかと推測します。

個人的には3~4年での買い替えは、少々もったいないような気がします。

有効期限が切れる前に買い替えるのが一番安全ですが、筆者は5年を超えたらテストをして噴射距離を確認し、大丈夫なら10年目で買い替えを行っています。

(期限切れカウンターアソールトの噴射実験をしました。詳しくは「実験!期限切れ熊よけスプレーは使えるのか?」を読んでみて下さい。)



ヒグマ用の熊よけスプレーをツキノワグマに使用してはいけないのか?

ヒグマに効果のある熊よけスプレーは、ツキノワグマにも十分な効果があります。

一部に、ヒグマ用の熊よけスプレーは、ヒグマ(成獣の体長200~230cm、体重150~250kg)より体格の小さいツキノワグマ(成獣の体長110~150cm、体重80~120kg)に使用した場合、効果が強すぎるので、動物愛護や環境保護の観点から使用してはいけないとする意見があるようです。

北海道で実際に発生したヒグマによる死亡事故について言えば、加害グマは、2,3歳のいわゆる「若グマ」の割合が多く、登山や釣り山菜取りなど、狩猟中以外に発生した死亡事故の約7割は「若グマ」によるものです。

ヒグマの若グマの平均体格は、体長158~165cm、体重90~120kgであり、ツキノワグマの成獣の平均体格(体長110~150cm、体重80~120kg)と、ほぼ同じくらいのサイズです。

ヒグマ用のスプレーが、ツキノワグマには効果が強すぎて動物虐待になるのなら、2,3歳のヒグマにも効果が強すぎると考えるのが妥当です。

熊の体格の差を理由に、スプレーを使い分けなければならないとすれば、ヒグマの成獣にはカウンターアソールト、若グマにはポリスマグナムといった具合に、咄嗟に使い分けなければならないことになり、あまり現実的とは言えません。

また、ヒグマは凶暴で、ツキノワグマは大人しいというイメージが一般にありますが、両者による全国での死亡事故を比較すると、1980年~2006年の27年間で、ヒグマによるものが6名、ツキノワグマによるものが22名とツキノワグマの方が3倍以上多くなっています。

両者の正確な生息数は定かではありませんが、本州の面積が北海道の面積の約3.5倍あることを考えると、ヒグマもツキノワグマも死亡事故の発生頻度は大きく変わらないことが予想され、「ヒグマよりツキノワグマは大人しい」という説は根拠が乏しく感じられます。

このようなことから、対象がヒグマであれ、ツキノワグマであれ、命の危険がある場合、より確実性の高い撃退方法を取るというのが現実的だと思います。

確実性ということで言うと、カウンターアソールトについては、国内で研究者により実際に使用され、ヒグマやツキノワグマに忌避効果があったことが確認されていますが、その他のスプレーについては、スペックを見て効果の有無を判断する必要あります。

環境省自然環境局が出している、「クマ類出没対応マニュアル」には、熊よけスプレーはクマ類(ヒグマ、ツキノワグマ)に対して実績と効果が認められているとした上で、熊よけスプレーの例として「カウンターアソールト」を紹介していますが、ツキノワグマに対する熊よけスプレーの使用が、動物愛護や環境保護に悪影響があるなどの記載はありません。

ヒグマやツキノワグマに対する、各スプレーの使用が動物虐待に当たるのかどうかについては、十分な研究とデータが示されたうえで検討すべき問題なのではないかと思います。

熊に襲われそうになった場合、身を守るために適切に熊よけスプレーを使用する分においては、現在のところ、どの熊よけスプレーを使用しても理解されると言ったところでしょう。

 

まとめ

ヒグマやツキノワグマは、時速40~50kmで走ることができるとされています。

筆者は、野生のヒグマと何度も遭遇していますが、姿からは想像できないような俊敏な動きをします。

熊の運動能力を考えると、約5mでスプレーを噴射するというのはかなりの恐怖がありますが、絶対に慌てず、落ち着いて対処しなければなりません。

確実にスプレーをヒットさせるには、構え方の練習やイメージトレーニングはもちろんのこと、噴射距離、噴射時間の長いものがより有利だと言えます。

横風が吹いている場合やヤブの中では、カタログスペックにある噴射距離より短くなることを考慮しなけらばなりません。

熊よけスプレーは、ザックにしまっておくと、いざという時に役に立ちませんので、ホルダーの使いやすさも選ぶポイントになります。

(ホルダーについて詳しくは「熊よけスプレー~ホルダーと取付位置は?」を読んでみて下さい)

予算、噴射距離、噴射時間、専用ホルダーの形状などを見て、自分が出かけるフィールドに見合ったものを選びましょう。

ハイキングなどでお守り程度に持ち歩きたいのなら、「ガードアラスカ」「ベア―アタック」「UDAP」が価格的にも手頃ですが、熊の多い山域で活動する場合には、噴射距離、噴射時間ともに長く、国内では使用実績もあり、ホルダーもしっかりしている「カウンターアソールトストロンガー」は特におすすめです。


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プロフィール

フリーランサー。元船員(航海士)
学生時代に山岳部チーフリーダーを経験し、阿寒、知床、大雪を中心に活動。
以来、北海道の山をオールシーズン、単独行にこだわり続け35年。
現在は主に日高山脈をフィールドにしている山オタクのライター。

※他サイトにおいて元山岳部部長を名乗る個人・団体が存在しますが、それらは当サイトとは一切関係ありませんのでご了承ください。



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