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元山岳部部長の登山講座

登山とヒグマ対策2~ヒグマを避ける方法

前回はヒグマの習性について説明しました。

今回はヒグマに出会わないようにするためにはどうするかについて説明します。




ヒグマを避けるための基本

まずは、ヒグマの痕跡に気づくことが大切です。

ヒグマの糞、木の幹へのマーキングの跡(爪跡など)、足跡、獣臭などに気づいたら、ヒグマとの距離が比較的近いと思わなければなりません。

真新しい糞(表面が光っている)を見たら、付近にヒグマがいる可能性が高いので、慎重に行動するか、場合によっては登山を中止します。

真新しいヒグマの糞。表面につやがあり、柔らかい。

数日経過したと思われるヒグマの糞。食べ物(草)が多量に混入している。表面がやや乾いている。

ヒグマの痕跡に気をつけるのと同時に、登山中は鈴やホイッスルなどの音を鳴らして人間の存在を知らせる方法が有効です。

ヒグマは、基本的に人との接触を避けようとしますので、人の存在に気づくと熊の方から逃げてくれます。

また、ごく稀なケースですが、人間の近くにはおいしい食べ物があると学習してしまったヒグマは、人に気づいても逃げず、逆に近づく場合があるとされているので注意が必要です。

ヒグマの生息数が多いと言われている山域(知床、大雪、日高など)に入山する前には、ヒグマの出没情報などを地元の役場に問い合わせてみることも良いでしょう。

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人間に寄り付く危険なヒグマを作るのは人間

ヒグマにとって、人間の食べ物はとてもおいしいと感じるらしく、あまった食糧や残飯などを山で捨てたりすると、ヒグマがそれを食べてしまう可能性があります。

人間の食料の味を覚えたヒグマは、徐々に行動をエスカレートさせ、人を恐れず、人の周辺に寄り付つようになります。

残飯やゴミは絶対に山に捨てない、幕営中はテントの外に食糧やザック、コッヘルなどを放置しないなど、登山者は食料やゴミはきちんと管理しなければなりません。

山の実りが悪かった年の秋などに、里に下りて来たヒグマが農作物を食い荒らし、人里を徘徊するようになってしまうこともありますが、まずは、食料やゴミの管理を徹底し、不用意に人に寄り付く危険ヒグマを作らないことが大切です。

一旦、人に寄り付くようになってしまったヒグマは、もう普通のヒグマには戻らないとされていますので、このようなヒグマは、駆除の対象となってしまいます。

ヒグマに人間の食料の味を教えることは、人間にとってもヒグマにとっても不幸な結果をもたらすことになります。



ヒグマと近距離でバッタリ遭遇した場合

ヒグマと遭遇しないよう気をつけていても、風向きや沢音などの影響で熊鈴が聞こえなかったり、ヒグマが何かに夢中になっている場合、ヒグマが人間の接近に気付かず、出会い頭に遭遇することがしばしばあります。

筆者は日高山脈の稜線で、ヒグマとバッタリ遭遇をし、にらみ合いになったことがあります。

1967峰からピパイロ岳の肩に向かう途中のハイマツ帯の稜線の脇、約20mの距離に若グマ(体長1.5mくらい)が突然現れ、お互いに見合って硬直状態になりました。

筆者はザックに熊鈴を付けていたのですが、熊は食事に夢中だったようで、音に気づかなかったようです。

にらみ合いから15秒くらい経ったころと思いますが、熊が一度、左右を向いて目をそらしたので、こちらも1回横を向き、目をそらせました。

そして正対しながら、1,2歩後ずさりしてみましたが、その瞬間、熊はチャンスと思ったのか、思い切りジャンプしながら反転し、藪の中に逃げて行きました。

また、筆者の父も、ヒグマにバッタリ遭遇していますが、斜里岳の新道コース、熊見峠付近で、約20mの距離でにらみ合いになっています。

熊の側が風上だったので、熊が人間の音や臭いに気づかなかったようです。

立ち止まって、黙って熊を見て、目をそらさずにいると、しばらくしたら、熊は目をそらし、立ち去ったといいます。

二つの例は、近距離でバッタリ遭遇した場合の典型的な例で、熊は逃げたいけど、どうしてよいかわからず、パニックになるようですので、冷静に対処し、走って逃げる、大きな音を出す、急な動きをするなど、無用に熊を刺激するようなことはせず、熊に逃げるチャンスを与えることがポイントだということがわかります。

バッタリ遭遇した場合、絶対にやってはいけないのは背を向けて逃げることです。

ヒグマは背を向けて逃げるものを追う習性がありますので、必ず襲われることなります。

ヒグマは足が速く、時速約50kmで走ることができますので、とても逃げ切れるものではありませんので、落ち着いて熊の様子を見ながら冷静に対処することが肝心です。



ヒグマが接近してきた場合

ヒグマが接近してきた場合は、熊との間に岩や立ち木などの障害物をはさむことが有効です。

大きな熊ほど木登りが苦手なので、相手が若グマでない時は、場合によっては、木に登ることも有効なことがあります。

また、熊が接近してきた場合、大きな声を出したり、笛を吹いたり、爆竹を鳴らすなど、大きな音を出すことが有効な場合もあります。

接近してくる熊から逃れる良い方法としては、背を向けず、後ずさりしながら熊の気をそらすために帽子や軍手、ティッシュなど、なんでもいいから、何かを投げ捨て、熊が投げ捨てたものに興味を示している隙に距離を離し、それを繰り返しながら逃げ切る方法があります。

次に、死んだふりについては諸説ありますが、熊から逃げきれない場合で、反撃の手段がない場合、合理的な死んだふり(うつ伏せ防御)は、一定の効果があるとされていますが、食害目的など、極めて攻撃的な熊に対しては通用しないとする説もあります。

うつ伏せ防御をする場合は、致命傷となる頭部や内蔵を守るために、ザックを背負ったまま、両手で頭をガードし、熊を無用に興奮させないよう無抵抗を徹底します。

その場合、ある程度の負傷は覚悟しなければなりません。

ナタなどの武器による反撃については、熊に襲われた場合の最後の手段として有効であるとされています。

昭和45年(1970年)~平成11年(1999年)に起きた、狩猟中以外のヒグマ事故31件について、武器を携帯していた例は12件で、うち死亡は2件、武器不携帯は19件で、うち死亡は8件となっており、ナタなどの武器の使用がある程度有効であることがわかります。

ナタで応戦する場合、ヒグマの鼻と上唇の境目付近を集中的に狙うのが有効です。

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熊よけスプレーなら十分に効果を期待できる

熊よけスプレーについてですが、市販されているほとんどのものはアメリカ製ですが、研究者により、日本のヒグマやツキノワグマにも効果が実証されており、現在のところ、ヒグマに遭遇した場合の一番有効な撃退方法だと言えます。

市販されている熊よけスプレーは数種類あり、噴射距離や成分濃度などに違いがありますが、価格はどのスプレーも大体1万~1万数千円程度です。

どれを購入するか悩むところですが、アメリカでは有効成分などに基準が設けてあり、EPA(米国環境保護庁)に登録されているもののみを使用することになっていますので、本体にEPA登録番号が表示されているかどうかがスプレー選びのポイントのひとつになります。

また、同じEPA登録品であっても、噴射距離はなるべく長いものを選んだ方が有利だと言えます。

筆者が知っている熊よけスプレーで、噴射距離が最長のものは「カウンターアソールト ストロンガー(EPA登録品)」という熊よけスプレーで、噴射距離は12.2mとなっており、北海道警察もこのスプレーの導入実績があります。


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筆者も現在、カウンターアソールトストロンガーを使用しています。

上記のように専用のホルダーもあり、腰などに装着でき、いざという時にすぐに使用できます。

熊よけスプレーを使用する場合は、風向きを把握し、やむを得ない場合を除いて、向かい風では使用しないようにします。

スプレーが自分の目に入ると、一時的に行動不能になりますので注意が必要です。



ヒグマ事故を避けるために

ヒグマが登山者を襲い、死亡した例は、昭和45年(1970年)のカムエク事故以来、一度も発生していません。

ヒグマは基本的には人を避けており、ヒグマが人を襲うことは稀であることが、数字からもわかると思います。

ですが、ヒグマの人身事故は少ないとは言え、定期的に発生していますので、山に入る場合は、ヒグマの気配や痕跡に注意をし、熊鈴を付ける、必要に応じホイッスルを鳴らす、ゴミや食料の管理を徹底するなどした上で、熊よけスプレー、場合によってはナタなどの武器を携帯するなどが、ヒグマ事故を避けるためには有効です。

登山者の熊よけスプレーの携帯率は極めて低いようですが、北海道の山を目指す登山者は、ヒグマの生息域で行動しているということを常に意識し、事故が起こらないよう万全を期したいところです。

次回「登山とキタキツネ対策」の記事では、キタキツネによるエキノコックス対策について紹介したいと思います。




看板(下)



プロフィール

フリーランサー。元船員(航海士)
学生時代に山岳部チーフリーダーを経験し、阿寒、知床、大雪を中心に活動。
以来、北海道の山をオールシーズン、単独行にこだわり続け35年。
現在は主に日高山脈をフィールドにしている山オタクのライター。

※他サイトにおいて元山岳部部長を名乗る個人・団体が存在しますが、それらは当サイトとは一切関係ありませんのでご了承ください。



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