7Jun

前回はヒグマの習性について説明しました。
今回はヒグマに出会わないようにするためにはどうするかについて説明します。
ヒグマを避ける基本
まずは、ヒグマの痕跡に気づくことが大切です。
ヒグマの糞、木の幹へのマーキングの跡(爪跡など)、足跡、獣臭などに気づいたらヒグマとの距離が比較的近いと思わなければなりません。
真新しい糞(表面が光っている)を見たら付近にヒグマがいる可能性が高いので、慎重に行動するか、場合によっては登山を中止します。

ヒグマの糞。食べ物(草)が多量に混入している。表面がやや乾いているので数日経過したものと思われる。(中札内7月)
ヒグマの痕跡に気をつけるのと同時に、登山中は鈴、ラジオ、ホイッスルなどの音響で人間の存在を知らせる方法が有効です。
一方で、知床半島など、ヒグマの多い一部地域では人間の近くにはおいしい食べ物があると認識してしまったヒグマにとっては、鈴の音は逆にヒグマを誘引するということもあるようなので要注意です。
どこの山であってもヒグマの生息数が多いと言われている山域(知床、大雪、日高など)に入山する前にはヒグマの出没情報など地元の役場や山岳会などに問い合わせてみることもよいと思います。
ヒグマの寄り付き
ヒグマの人間への寄り付きについて。
ヒグマにとって人間の食べ物はとてもおいしいらしく、あまった食糧や残飯などを山で捨てたりすることは絶対にしてはいけません。
山中で幕営中も不用意にテントの外に食糧のはいったザックやコッヘルを置いたまま就寝したりもしない方がよいです。
人間の食べ物はおいしいと認識してしまったヒグマは非常に危険な存在です。
中には、道端に出没した野生のヒグマに餌を投げ与えてる観光客もいたりしますが、それはとんでもないことです。
山の実りが悪かった年の秋などにも里に下りてきたヒグマが農作物を食い荒らし、味をしめたヒグマは人に寄り付くクマとなり、人里を徘徊するようになったりします。
人に寄り付くクマになってしまったヒグマは、もとには戻らないと言われています。
このようなクマは、人間に危害を加える可能性があるということで、射殺という方法が多くとられています。
ヒグマに人間の食料の味を教えることは、人間にとってもヒグマにとっても不幸な結果しかもたらさないという事を覚えておくべきです。
ヒグマとの遭遇
次に、出会ってしまった場合の対策について書こうと思います。
味を覚えた寄り付きグマは別として、普通のヒグマと出会ってしまうことは風向きや沢音などの影響でヒグマが人間の接近に気付かず、出会い頭に遭遇することがしばしばあります。
これは筆者の山の師匠の体験ですが、斜里岳(1547m)の新道でヒグマにばったり出会ったといいます。
その時、風はクマの方から吹いており、人間の臭いに気づかなかったのではないかと言っていました。
クマとの距離は約20メートル。
師匠は立ち止り、ヒグマも立ち止った。
師匠は黙ってヒグマを見て、目をそらさずにいました。
しばらく沈黙した後、ヒグマは目をそらし、立ち去ったといいます。
この方法はばったり出会った場合の対処方法としては模範解答です。
ばったり出会った場合、やってはいけないのは背を向けて逃げること。
追いかけられることになるからです。
山で全力疾走してもヒグマの方が足が速く(時速50kmで走ります)とても逃げ切れるものではありません。
クマのと距離が遠い場合(50m以上)で人間に気づいていない場合は声を出してこちらの存在を知らせます。
また、至近距離でばったり出会った場合は、いきなり大声で叫んだり、急な動きをしてはいけません。
クマがびっくりしてとっさに襲いかかる場合があります。
ヒグマが接近してきた
では、故意に人間に寄り付くヒグマや、ばったり出会ったヒグマが接近してきた場合どうするのか?
木や岩など高い場所に登って逃れた例はありますが、確実ではありません。
大きなクマは木登りがあまり得意ではないようですが、若クマは木登りが得意です。
太い幹があれば、幹を挟んクマの反対側の位置をキープしながら攻撃をかわすのは有効とされています。
接近してくるクマから逃れる良い方法としては、
背を向けず後ずさりしながらヒグマの気をそらすために帽子や軍手、ティッシュなど、なんでもいいから、何かを投げることが有効です。
ヒグマは好奇心が強いから投げ捨てたものに興味を示すからです。
その隙に距離を離す。
追って来たらまた違うものを投げる。
それを繰り返しながら逃げ切るしかありません。
次に、死んだふりはどうか?
その場合はうつ伏せになり、頭部を抱え込んで頭を保護することがいい言われています。
手足などを負傷しても頭部をガードすれば致命傷は避けられる場合があると言われているからです。
その場合クマが飽きて立ち去るまでいたぶられる事になります。
ある調査で死んだふり(無抵抗)と、ナタで応戦した場合の生還率を比較したものがありましたが、ナタで応戦したほうがやや生還率が高かったようです。
ちなみにナタでヒグマを殺すことはできません。
ナタで応戦する場合、鼻付近を集中的に狙うのが有効です。
ヒグマも痛みで襲うのを諦めるようです。
次はクマよけスプレーはどうか?
海外のクマ(グリズリー)には効果があります。登別クマ牧場のヒグマにも効果が認められています。
では、野生のヒグマに効果があるのかどうか?
一般人が使用した実例が見当たりませんでしたが、あるヒグマ研究者の著書では、実際に野生のヒグマに使用して何度もヒグマが逃げたと書いてありましたので、クマよけスプレーは野生のヒグマにも有効であることがわかります。
クマよけスプレーにもいろいろあり、射程距離や成分の濃度によって値段も変わりますが大体1万円前後です。
どれを購入するか悩むところですが、アメリカでは射程距離や有効成分に基準が設けてあるらしく、射程距離は7.5m以上必要であるという基準があるそうです。
この基準に満たない商品もあればこれ以上の強力な商品もあります。
私が知る限りですが、「カウンターアソールト ストロンガー」というクマよけスプレーが最強で射程10.5mもあります。
OUTBACK 熊撃退スプレー カウンターアソールト・ストロンガー アルデ携帯ホルスターセット 熊よけ
筆者もこれを携帯しています。
上記のように専用のホルダーもあり、腰に装着でき、いざという時にすぐに使用できます。
クマよけスプレーは正確にクマの顔面にヒットさせる必要があるので射程が長い方が有利です。
以前使用していた「ガードアラスカ」というクマよけスプレーは射程約5~8mでした。
重要な風向き
クマよけスプレーの使用で注意しなければならないのは風向きです。
向かい風で使用すれば自分の目に入ります。
これではクマよけどころではありません。
以前筆者は購入から10年経過した「ガードアラスカ」を家の外で試射して有効かどうか試したことがあります。
射程は目測で5m弱に見えました。(10年経ってもガス圧がほとんど低下してなかったと思われます)
空中に直線の赤い帯が見えました。(成分はトウガラシです)
成分が放射状に広がるのではなく、スプレーに指向性があることが確認できました。
そして赤い帯が消えてなくなる前に目を開けてその赤い帯の中に頭を突っ込んでみたら・・・・・
激痛と涙で目が開けられなくなり歩くことさえできなくなりました。
悶絶しながらやっと玄関にたどり着いたのを覚えています。
期限切れの「ガードアラスカ」でも、たぶんクマよけには十分な効果はあるだろうと感じました。
クマよけスプレーは生涯、実戦で使用することはないと思いますが、安心料として投資するには十分なお値段だと思います。
登山中、ヒグマがどうしても気になる人には「カウンターアソールト」をおすすめします。
(洞爺湖サミットの時、北海道警察がヒグマ対策でカウンターアソールトを大量に購入しました。)
今でもヒグマが多い山域に入る時にはお守りがわりにカウンターアソールトを携帯しています。
クマよけスプレーなら十分に効果を期待できる
クマに出会っても、クマよけスプレーなら十分に効果を期待できるだろうと思います。
先ほどナタで応戦する話が出ましたが、以前は筆者も山ナタを携帯して歩いていましたが年齢と共に重たいと感じるようになり、現在ではヒグマの気配が濃そうな山に入る時にはザックのサイドの手の届く位置に山菜取り用のナイフを着けています。
クマよけスプレーを使ういとまもなくクマに襲われた場合の最後の抵抗のつもりで携帯しています。
ヒグマと人間
いろいろとヒグマ対策について列挙してきましたが、
基本的にザックには鈴をつけ、(鈴もあんまりうるさいと逆に周囲の音がわかりづらくなるのでザックにつける位置は工夫したい)
沢や風音で周囲の音が聞こえない場所や、見通しのきかない場所を通過する際にはホイッスルを吹くなどして、ヒグマと鉢合わせしないように気をつけるしかないでしょう。
古来からアイヌ民族はヒグマのことを「キムンカムイ」と呼び神様として敬っています。
時代が変わっても、大自然と原生林があり、野生のヒグマが生息しているということは素晴らしいことです。
私達はヒグマの生息域に入り、登山させてもらっているという謙虚な気持ちを忘れてはいけないと思います。
最後に、山にはヒグマがいるから登山は危ない!というような極端なヒグマ恐怖症の人に知ってほしいこと。
昭和45年以降、現在まで登山者がヒグマに襲われた例はありません。(ヒグマ事故のほとんどは、狩猟中と山菜取り中です)
登山中にヒグマに襲われ死亡する確率は非常に低いと言えます。
ヒグマに襲われる人よりも、滑落や道迷いで命を落とす人の方がはるかに多いのです。
次回はキタキツネについて書くことにしたいと思います。
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