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元山岳部部長の登山講座

登山とヒグマ対策2~ヒグマを避ける方法

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前回はヒグマの習性について説明しました。

今回はヒグマに出会わないようにするためにはどうするかについて説明します。

 

ヒグマを避ける基本

まずは、ヒグマの痕跡に気づくことが大切です。

けもの臭、ヒグマの糞、木の幹へのマーキングの跡(爪跡など)、足跡などに気づいたらヒグマとの距離が比較的近いと思わなければなりません。

強いけもの臭がしたり、真新しい糞(表面が光っている)を見たら付近にヒグマがいる可能性が高いので、慎重に行動するか、場合によっては登山を中止します。

ヒグマの糞。食べ物(草)が多量に混入している。表面がやや乾いているので数日経過したものと思われる。(中札内7月撮影)

 

ヒグマの痕跡に気をつけるのと同時に、登山中は鈴、ラジオ、ホイッスルなどの音響で人間の存在を知らせる方法が有効です。

一方で、知床半島など、ヒグマの多い一部地域では人間の近くにはおいしい食べ物があると認識してしまったヒグマにとっては、鈴の音は逆にヒグマを誘引するということもあるようなので要注意です。

どこの山であってもヒグマの生息数が多いと言われている山域(知床、大雪、日高など)に入山する前にはヒグマの出没情報など地元の役場や山岳会などに問い合わせてみることもよいと思います。

 

ヒグマの寄り付き

ヒグマの人間への寄り付きについて少し書きます。

ヒグマにとって人間の食べ物はとてもおいしいらしく、あまった食糧や残飯などを山で捨てたりすることは絶対にしてはいけません!

山中で幕営中も不用意にテントの外に食糧のはいったザックやコッヘルを置いたまま就寝したりもしない方がよいです。

人間の食べ物はおいしいと認識してしまったヒグマは非常に危険な存在です。

中には、道端に出没した野生のヒグマに餌を投げ与えてる観光客がいると聞いたことがありますが、それはとんでもないことです。

山の実りが悪かった年の秋などにも里に下りてきたヒグマが農作物を食い荒らし、味をしめたヒグマは人里を徘徊するようになる。

結果的に人間とヒグマの距離が近くなり、ばったりと人間に出会ったヒグマはとっさに人間に危害を加えたりとヒグマによる事故が発生する。

寄り付きグマになってしまったヒグマはもとに戻らないと言われています。

その結果は残酷ですが現在のところ射殺という方法以外にはないようです。

ヒグマに人間の食料の味を教えることは、人間にとってもヒグマにとっても不幸な結果しかもたらさないという事を覚えておくべきです。

 

ヒグマと遭遇

次に、出会ってしまった場合の対策について書こうと思います。

味を覚えた寄り付きグマは別として、普通のヒグマと出会ってしまうことは風向きや沢音などの影響でヒグマが人間の接近に気付かず、出会い頭に遭遇することがしばしばあると聞きます。

これは私の山の師匠の体験ですが、その昔斜里岳(1547m)の新道でヒグマに出会ったといいます。

その時、風はクマの方から吹いており、人間の臭いに気づかなかったのではないかと言っていました。

その距離数十メートル。

師匠は立ち止り、ヒグマも立ち止った。

師匠は黙ってヒグマを見て、目をそらさずにいたらしい。

しばらく沈黙した後ヒグマは目をそらし、立ち去ったという。

この方法はばったり出会った場合の対処方法としては模範解答です。

 

ばったり出会った場合、やってはいけないのは背を向けて逃げること

追いかけられることになるからです。

山で全力疾走してもヒグマの方が足が速い。

とても逃げ切れるものではありません。

クマのと距離が遠い場合(50m以上)ある場合で人間に気づいていない場合は声を出してこちらの存在を知らせます。

 

また、至近距離でばったり出遭った場合は、いきなり大声で叫んだり、急な動きをしてはいけません。

クマがびっくりしてとっさに襲いかかる場合があるといいます。

 

ヒグマが接近してきた

では、寄り付きグマや出会ったヒグマが接近してきた場合どうするか?

木や岩など高い場所に登って逃れた例はありますが、確実ではありません。

大きなクマは木登りがあまり得意ではないようですが、若クマは木登りが得意です。

太い幹があれば、幹を挟んクマの反対側の位置をキープしながら攻撃をかわすのは有効とされています。

接近してくるクマから逃れる良い方法としては、

背を向けず後ずさりしながらヒグマの気をそらすために帽子や軍手、ティッシュなど、なんでもいいから、何かを投げることが有効です

ヒグマは好奇心が強いから投げ捨てたものに興味を示すからです。

その隙に距離を離す。

追って来たらまた違うものを投げる。

それを繰り返しながら逃げ切るしかありません。

 

次に、死んだふりはどうか?

その場合はうつ伏せになり、頭部を抱え込んで頭を保護することがいい言われています。

手足などを負傷しても頭部をガードすれば致命傷は避けられる場合があると言われているからです。

その場合クマが飽きて立ち去るまでいたぶられる事になりますが・・・。

 

ある文献に死んだふり(無抵抗)と、ナタで応戦した場合の生還率を比較したものがありました。

結果はナタで応戦したほうがやや生還率が高かったようです。

ちなみにナタでヒグマを殺すことはできません。

ナタで応戦する場合、鼻付近を集中的に狙うのが有効です。

ヒグマも痛みで襲うのを諦めるみたいです。

 

次はクマよけスプレーはどうか?

海外のクマ(グリズリー)には効果があります。登別クマ牧場のヒグマにも効果が認められています。

では、野生のヒグマに効果があるのかどうか?

一般人が使用した実例が見当たりませんでしたが、あるヒグマ研究者の著書では、実際に野生のヒグマに使用して何度もヒグマが逃げたと書いてありましたので、クマよけスプレーは野生のヒグマにも有効であることがわかります。

 

クマよけスプレーにもいろいろあり、射程距離や成分の濃度によって値段も変わりますが大体1万円前後です。

どれを購入するか悩むところですが、アメリカでは射程距離や有効成分に基準が設けてあるらしく、射程距離は7.5m以上必要であるという基準があるそうです。

この基準に満たない商品もあればこれ以上の強力な商品もあります。

私が知る限りですが、「カウンターアソールト」というクマよけスプレーが最強で射程9m、有効成分も基準より濃くつくられています。

私もこれを携帯しています。

 

記のように専用のホルダーもあり、腰に装着でき、いざという時にすぐに使用できる工夫がされています。

クマよけスプレーは正確にクマの顔面にヒットさせる必要があるので射程が長い方が有利に決まっています。

 

以前使用していた「ガードアラスカ」というクマよけスプレーは射程約5mでした。

当時1万円でお釣りがきたので購入しましたがヒグマを5m以内に引きつけて顔面にヒットさせるのは想像すると結構恐いものです。

 

重要な風向き

クマよけスプレーの使用で注意しなければならないのは風向きです。

向かい風で使用すれば自分の目に入る。

これではクマよけどころではありません。

 

以前私は購入から10年経過した「ガードアラスカ」を家の外で試射して有効かどうか試したことがあります。

射程は目測で5m弱に見えました。(10年経ってもガス圧がほとんど低下してなかったと思われます)

空中に直線の赤い帯が見えました。(成分はトウガラシです)

成分が放射状に広がるのではなく、スプレーに指向性があることが確認できました。

そして赤い帯が消えてなくなる前に目を開けてその赤い帯の中に頭を突っ込んでみたら・・・・・

激痛と涙で目が開けられなくなり歩くことさえできなくなりました∑(× д ×)

悶絶しながらやっと玄関にたどり着いたのを覚えています。

期限切れの「ガードアラスカ」でも、たぶんクマよけには十分な効果はあるだろうと感じました。

 

クマよけスプレーは生涯、実戦で使用することはないと思いますが安心料として投資するには十分なお値段だと思います。

ヒグマがどうしても気になる人は「カウンターアソールト」をおすすめします。

(洞爺湖サミットの時、北海道警察がカウンターアソールトを大量に購入したそうです。)

今でもヒグマが多い山域に入る時にはお守りがわりにカウンターアソールトを携行しています。

 

クマよけスプレーなら十分に効果を期待できる

たとえ寄り付きクマに出会ってもクマよけスプレーなら十分に効果を期待できるだろうと思います。

先ほどナタで応戦する話が出ましたが、以前は私も山ナタを携帯して歩いていましたが年齢と共に重たいと感じるようになり、

現在ではヒグマの気配が濃そうな山に入る時にはザックのサイドの手の届く位置にスパスパに砥いだ軽量のマキリ(山菜取りのナイフのような刃物)を着けています。

クマよけスプレーを使ういとまもなくクマに組伏された場合の最後の抵抗のつもりで携帯しています。

 

ヒグマと人間

いろいろとヒグマ対策について列挙してきましたが、

基本的にザックにはカウベルをつけ、(カウベルもあんまりうるさいと逆に周囲の音がわかりづらくなるのでザックにつける位置は工夫したい)

沢や風音で周囲の音が聞こえない場所や見通しのきかない場所を通過する際にはホイッスルを吹いて、

どこかにいるであろうヒグマと鉢合わせしないようにしています。

 

古来からアイヌ民族はヒグマのことを「キムンカムイ」と呼び神様として敬っています。

そして、時代が変わっても、大自然と原生林があり野生のヒグマが生息している。

こんな素晴らしいことはありません。

私達はヒグマの生息域に入り、登山させてもらっているという謙虚な気持ちを忘れてはいけないと思います。

 

最後に、山にはヒグマがいるから登山は危ない!というような極端なヒグマ恐怖症の人に知ってほしいこと。

昭和45年以降、現在まで登山者がヒグマに襲われた例はありません。(ヒグマ事故のほとんどは、狩猟中と山菜取り中です)

登山中にヒグマに襲われ死亡する確率は非常に低いと言えます。

ヒグマに襲われる確率よりも、帰り道で交通事故に遭い死傷する確率の方がはるかに高いのです。

帰宅するまで気を抜かないようしましょう。

 

次回はキタキツネについて書くことにしたいと思います。

看板(下)

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平成28年6月

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プロフィール



初登山は雌阿寒岳。

学生時代に山岳部リーダーを経験し、阿寒、知床、大雪を中心に活動。

以来、北海道の山を舞台にオールシーズン単独行にこだわり続け30年。

現在は主に日高山脈をフィールドにしている山オタクのアマチュア登山者。



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