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元山岳部部長の登山講座

遭難対策~雪崩はどんな時に起きるのか

遭難対策~雪崩はどんな時に起きるのか

雪山を登る限り、雪崩の危険は常に伴います。

「雪崩はどうやって発生するのか」、「雪崩遭難の対策」の2回に分けて書いていきます。

今回は、「雪崩はどのような時に発生のするのか」について、雪崩の形態別に説明していきます。




雪崩の種類

図1 旧雪崩の分類

雪崩には種類があり、その分類の仕方は、過去の文献を見ると、図1のように、「表層雪崩」「全層雪崩」「氷雪崩(氷河雪崩)」の大きく三つに分け、更に「表層雪崩」を「点発生型」と「面発生型」に分けていました。

図2 現在の雪崩の分類

現在では、雪崩を図2のように、雪崩発生の形態(点発生か、面発生か)、雪崩層に水気を含んでいるかどうか(乾雪か、湿雪か)、滑り面の位置(全層雪崩か、表層雪崩か)の各要素を組み合わせて、計8種類に分類しています。これは、1998年(平成10年)に日本雪氷学会が定めたものです。

点発生乾雪表層雪崩、面発生乾雪表層雪崩、面発生湿雪全層雪崩などが典型的な例であり、点発生全層雪崩(点発生乾雪全層雪崩と点発生湿雪全層雪崩)は観測事例が少なく稀なものとされています。

雪崩には上記の分類のもののほかに、スラッシュ雪崩、氷河雪崩、ブロック雪崩などがあります。



種類別の雪崩発生の仕組み

雪崩発生の仕組みについて、点発生表層雪崩、面発生表層雪崩、全層雪崩の大きく3つに分けて説明します。

点発生表層雪崩

図3 点発生表層雪崩

点発生表層雪崩は傾斜がきつい急斜面で多く発生します。

ある一点が雪崩れ出し、周囲の雪を巻き込みながら雪崩れますので、雪崩の跡の形は発生点を頂点に三角形状になります。(図3参照)

落雪、木の枝、岩などが落ちたことがきっかけに発生することが多いとされています。

規模は小規模なものが多く、この雪崩は一般的にはそんなに危険ではないと言われています。

この雪崩は乾雪で発生するタイプ、湿雪で発生するタイプ、大粒のあられで発生するタイプなどがあります。

乾いた雪で発生するタイプ(点発生乾雪表層雪崩)は、風が弱い時に積雪があった時に発生します。

風が弱い時の降雪は、雪の結晶が崩れずに、ふわっと積もるので、降雪後も雪同士の結合が弱い状態になります。

このタイプの雪は閉まり雪になりづらく、一定以上の降雪があると点発生型として雪崩を起こします。

降雪したあと閉まり雪になりやすいのは、強風で雪の結晶が砕けた状態で積もった雪や、雪の結晶に水滴がついた状態で積もった湿り雪などです。

閉まり雪になりやすい雪では、めったに点発生表層雪崩を起こすことはありません。

湿った雪で発生するタイプ(点発生湿雪表層雪崩)は、降雪があった後に日射が当たったり、気温の急激な上昇で、表面の雪が溶けて水分を含んだざらめ雪に変わり、急斜面を滑りだし、雪崩を起こすとされています。

大粒のあられで発生するタイプのものは、あられは結合が弱く、閉まり雪になりませんので数cm以上積もると点発生表層雪崩を起こすとされています。

面発生表層雪崩

図4 面発生表層雪崩

面発生表層雪崩は積雪の上層が板状に滑り出して起こる雪崩です。

面発生表層雪崩は下層の雪の表面が日射や雨で溶けたあとに凍結し硬くなった雪面(サンクラスト、レインクラストという)の上にまとまった降雪があって、上層の下層の積雪の接着が悪いために起こるタイプもありますが、ほどんどの場合、積雪の断面に「弱層」と呼ばれる結合の弱い雪の層が作られることによって起こります。(図4参照)

下層に閉まり雪があり、その上に弱層が形成されたあと、まとまった降雪や吹き溜まりが積もって、上層が重みに耐えられなくなった時に雪面にクラックが入り雪崩が起こります。

ちょうど、積雪と積雪の間の接着剤が剥がれて、上の積雪層が一気に雪崩れるようなイメージです。

このタイプの雪崩は規模も大きく、見た目には弱層の存在がわからないので、雪崩の予測も難しく、現在までたくさんの遭難者を出しています。

弱層形成には以下のような5種類があります。

・霜ざらめ雪の形成による弱層

まず、下層の閉まり雪の上に1~3cmの雪が積もります。

次に日中の日差しで雪面が温められ、積雪の中の温度が上昇します。

夜になり放射冷却で雪面は冷やされますが、新雪は空気を含み断熱性が良いので、雪の中の温度は高いままです。

温度の高い下層の積雪面では蒸発が起こり、蒸発した水分は放射冷却で冷やされた上層で凝結し、「霜ざらめ雪」が形成されます。

下層の閉まり雪の上に積もった数cmの新雪が一晩ですべて「霜ざらめ雪」に変化することもあります。

この「霜ざらめ雪」は結合が非常に弱いので「弱層」になります。

「霜ざらめ雪」が形成されたあとに、多量の降雪があると積雪の下に弱層が隠れることになります。

・表面霜の形成のよる弱層

下層の閉まり雪の表面に霜が成長することで弱層が作られます。

高い湿度、夜の放射冷却、風速2~3m/sの3つの条件がそろうと、一晩で数mm~1cm程度の表面霜が形成されます。

表面霜は雪の表面がきらきら輝いて見えます。

その後に多量の降雪があると弱層が隠れることになります。

・雲粒なし降雪結晶による弱層

雪の結晶が雲の中を通過する際、雲粒(0.1mm以下の水滴)に接すると、結合力の高い雲粒付き降雪結晶となりますが、雲粒と接することなく、かつ、風の弱い時に舞い降りてくる雪の結晶は、雲粒が付かず、形が崩れないまま降り積もります。

このような雪を雲粒なし降雪結晶といい、降雪後に閉まり雪になりづらく、弱層になります。

このあとに多量の降雪があると弱層が隠れることになります。

・大粒のあられによる弱層

大粒のあられは硬く、あられ同士の接触面積が少ないので降雪後にしまり雪にならず、弱層になります。

こちらも、このあと多量の降雪があると弱層が隠れることになります。

・濡れざらめ雪による弱層

下層の閉まり雪の表面が強い日射や急激な温度上昇で雪の粒が溶けて「濡れざらめ雪」となり弱層を作ります。

濡れざらめ雪が凍って硬くなる前に、多量の降雪があると弱層が隠れることになります。



全層雪崩

全層雪崩は地面から上の積雪がすべて雪崩れるもので、「底雪崩」とも言われます。

全層雪崩と言うと、春先の温度上昇で雨や雪解け水が積雪の下層に浸透して、地面付近が滑りやすくなって発生するもの(面発生湿雪全層雪崩)を指す場合が多いと思いますが、湿った雪が多い北陸の低山などでは、春先ではなく、真冬に発生することも珍しくありません。

また、北海道の笹で覆われた斜面では、ドカ雪のあと、雪の重みで笹が寝てしまうことにより、地面付近が滑りやすくなって発生するもの(面発生乾雪全層雪崩)などがあり、これらも真冬に発生します。(※笹の斜面では春、真冬を問わず全層雪崩が起きやすい。)

全層雪崩は表層雪崩のように突然発生することは少なく、いずれのタイプも前兆現象があり、雪崩を予測しやすいので、比較的大きな遭難事故は発生していません。

次回の「雪崩遭難!対策の仕方」では、雪崩の予測や遭遇してしまった場合の対策などについて説明します。

参考文献:「山と渓谷社 最新雪崩学入門 北海道雪崩事故防止研究会編」「山と渓谷社 雪崩リスクマネジメント ブルース・トレンバー著)





プロフィール

フリーランサー。元船員(航海士)
学生時代に山岳部チーフリーダーを経験し、阿寒、知床、大雪を中心に活動。
以来、北海道の山をオールシーズン、単独行にこだわり続け35年。
現在は主に日高山脈をフィールドにしている山オタクのライター。

※他サイトにおいて元山岳部部長を名乗る個人・団体が存在しますが、それらは当サイトとは一切関係ありませんのでご了承ください。



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