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那須スキー場高校山岳部雪崩遭難~事故を分析する

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那須スキー場高校山岳部雪崩遭難~事故を分析する

3月27日午前8時30分ころ、栃木県の那須ファミリースキー場のコース外において、登山合宿訓練中の高校生と教員が雪崩に巻き込まれ、8名が死亡、40名が重軽傷を負うという遭難事故が発生しました。

この事故について、現在警察が業務上過失致死容疑で強制捜査をしている最中なので、事故の全容がわかるまでにはまだまだ時間がかかりそうです。

今回は、現時点で報道などから読み取れる情報をもとに、雪崩事故の原因を探っていきます。

 

事故の概要

栃木県内の高校山岳部7校62名が3月25日から3日間の予定で那須町茶臼岳周辺において高体連主催の春山安全講習会を行っていた。

3月26日午前10時32分、那須町に大雪、なだれ、着雪注意報発令。

3月27日午前6時、降雪が多いことから予定していた茶臼岳(1915m)登山を中止した。

午前7時30分、那須ファミリースキー場第2ゲレンデ付近でラッセル訓練に変更を決定。55名(高校生46名、教員9名)がラッセル訓練に参加した。

スキー場ロッジを出発し、大田原高校パーティーを先頭に5班に分かれた参加者達は1列になりスキー場第2ゲレンデ付近上部の斜面(コース外)に取りついた。

午前8時30分ころ、ロッジから400~500mほど歩いた斜面において、参加者は上部で発生した雪崩に巻き込まれる。

雪崩により、先頭を登っていた大田原高校の1,2年の生徒7名、教員1名が雪崩により圧死したほか、40名が重軽傷を負った。

午前9時20分、110番通報。自衛隊、警察、消防などが出動。

 

事故現場の地形図

上は茶臼岳周辺の地形図です。

詳しい遭難位置は発表されていませんが、報道内容などから推測すると概ね、標高1350m~1400m付近の赤マルの位置になると思います。

ネット上で冬期の登山ルートを見ると、ほとんどの登山者は、大丸温泉付近からロープウエイ山麓駅を経由し、茶臼岳の北側からアプローチしています。

通常、雪山は安全ならどこを登っても構わないものですが、山頂の南側からアプローチしている登山者は少ないようです。

雪崩は条件がそろえば、どの方向の斜面でも発生しますが、一般論では南側斜面は日射の影響を受け、雪面が融けたり凍ったりしますので、北側より不安定な要素が多いと言えます。

上の地形図は現場付近の拡大図です。

この地形図を見ると、第2ゲレンデの西側斜面は南東を向いていて、日射が当たります。

標高1400m~1500mまではかなりきつい急斜面なのがわかります。(等高線の間隔は10m、太い等高線は50m間隔です)

この付近の植生は背の低い、はい松のマークがあり、雪が積もれば真っ白な雪崩斜面になることが予想出来ます。また、第2ゲレンデ北西の1450m等高線にはガケのマークもあり、地形図を見る限り、第2ゲレンデの西側斜面上部は大量の積雪があると雪崩の危険が生じるのではないかと予測できます。

雪崩は標高1500m付近で発生し、160m以上雪崩れたと報道されています。

第2ゲレンデの上部、標高1500m付近で発生したとすれば、発生点は青で囲んだ辺りではないかと思います。

青で囲んだ辺りで雪崩が発生したとすると、3本の青矢印で示したような走路で雪崩れることが予想されます。

地形図を見る限り、危険そうな場所は3本ある青矢印のうち、①の矢印付近と思われます。

この斜面は等高線が特に混んでいて、若干沢地形になっていますので登山者としては避けたい場所です。

この付近は実際に、講習会の責任者が危険だと判断していたようです。

そうなると、参加者が登った斜面は①の青矢印の斜面より南側を登ったと思われます。

赤マルの位置は、標高1500m付近から160m以上あり、ロッジから400~500mの付近という情報と合致しますので、この付近が推定遭難位置ではないかと思われます。

赤マルの推定遭難位置で雪崩に遭ったとすれば、雪崩は②の矢印のように流れ、参加者達を襲ったのではないかと推定されます。

上は第2ゲレンデ付近から西側斜面の上部を見上げた写真です。

青矢印と赤マルは地形図で示した雪崩の走路と推定遭難位置です。

写真で見ると、左側は樹林帯、右側は急な沢地形とガケがあり、上部は潅木が生えていない真っ白な斜面(いわゆる雪崩斜面)になっていることがわかり、地形図の情報と合致します。

一般的に樹林帯にいれば雪崩は安全と言われていますが、上部に雪崩斜面があると安全とは言えません。

仮に②の青矢印のように雪崩れたとすると、赤マル付近は樹林帯ですが、雪崩斜面の下部になりますので危険地帯ということになります。

なだれ注意報とは?

事故発生の前日に、大雪、なだれ、着雪注意報が発令されていますが、気象台が発表するなだれ注意報は「気温が高い」、「一定以上の降雪があった」など、一定条件に当てはまれば事務的に発令するという程度のもので、予報官が現場の雪質などを解析し、雪崩が発生しやすい状況になっているのか実際に観測しているわけではありません。

単純になだれ注意報が発令されているのに訓練を敢行したのはけしからんと言っているニュースショーや無知なコメンテーターが多すぎます。

なだれ注意報の発表基準は地域によって異なります。

栃木県のなだれ注意報の基準は、

①24時間に降雪の深さが30cm以上

②40cm以上の積雪があって日最高気温が6℃以上

となっています。

このどちらかに当てはまるときにはなだれ注意報が発令されます。

気温が上がる春には、なだれの危険があろうとなかろうと毎日のようになだれ注意報が発令されるのはこういう理由です。

実際の雪崩の予測はそんな単純なものではまったくありません。

気温上昇や大量降雪はもちろん関係ありますが、地形や斜面の向き、数日前からの気象状況や雪質の変化などを観察し、場合によっては、現場で雪崩の危険がないかどうか、雪質のテストを行ったりしながら総合的に判断するのが雪山登山です。

なだれ注意報が出ていなくても、雪崩の危険が高い場合もありますし、注意報が出ていても安全な雪質の場所はあります。

なだれ注意報は気温上昇と大量降雪という二つの要素しか含んでいないということを知らなければなりません。

なだれ注意報はあくまでも判断材料の一部であり、雪崩の予測は実際に雪山に入っている登山者自信が現場で判断することなのです。

行くか、行かないかは現場のリーダーの豊富な経験と見極め、危険を察知できるかどうかにかかっているのです。

雪崩発生のメカニズムについて、詳しく知りたい方は「遭難対策~雪崩はどんな時に起きるか」「遭難対策~雪崩遭難!対策の仕方」を読んでみて下さい。

 

雪崩発生までの気象変化

雪崩が発生するまで、現場付近の雪質はどのように変化していったのか、気象データを見ながら予測してみます。

現場に1番近いアメダスの観測点は那須高原(標高749m)です。

気温は標高が100m上昇すれば約0.5℃下がりますので、雪崩が発生したとされる標高1500m地点では那須高原の気温に約3.7℃をマイナスする必要があります。

那須高原の3月の前半は日に1~4cmの降雪のある日が10日間ほどあり、事故当日の3月27日以外に大雪が降った形跡はありません。

3月中の気温ですが、おおむね、最高気温は10℃未満、最低気温はー6℃以上という日が多いようです。

1500m地点でも、日中は雪が融け、夜間は凍るということの繰り返しをしていたことが予想できます。

那須高原の3月20日~3月27日までの気温と天気の変化ですが、

20日 

  • 最高気温8.4℃
  • 最低気温0.3℃
  • 日照時間9.9時間

21日

  • 最高気温5.0℃
  • 最低気温1.8℃
  • 日照時間0時間
  • 降水20mm

22日

  • 最高気温3.6℃
  • 最低気温ー2.2℃
  • 日照時間6.8時間

23日

  • 最高気温4.1℃
  • 最低気温ー1.4℃
  • 日照時間1.8時間

24日

  • 最高気温1.6℃
  • 最低気温ー2.9℃
  • 日照時間3.4時間
  • 降雪1cm

25日

  • 最高気温6.9℃
  • 最低気温ー3.6℃
  • 日照時間9.8時間
  • 降雪1cm

26日

  • 最高気温3.7℃
  • 最低気温ー1.1℃
  • 日照時間 0時間

27日

  • 最高気温2.5℃
  • 最低気温ー0.9℃
  • 日照時間 0時間
  • 降雪35cm

となっています。

20日、21日、25日に気温の上昇が見られ、21日は雨が降っています。標高1500m地点でも日中の気温はプラスになり、夜間はマイナスになっていたことが予測できます。

それ以外の日でも、1500m地点では最高気温がー2℃~0℃程度、最低気温がー7℃~ー5℃程度になりますので、日射が当たる南向き斜面では日中は表面の雪が融け、夜間は凍るということを繰り返していたことが予測できます。

これらの気象の変化によって、27日の大量降雪がある前の雪質がどうであったかを予測するのは難しいことですが、融けては凍りを繰り返していたとすれば、雪はだんだんと閉まり雪になっていき、日中は雪が柔らかく、夜間や早朝は表面が硬くなっていたのではないかと思われます。

 

事故当日のアメダス

那須高原のアメダスを見ると、事故の前夜、26日午後9時から27日午前1時まで間に5mm程度の雨が降っています。

27日午前2時から雪に変わり、午前9時までの7時間で33cm降り積もっています。

27日のアメダス

02:00 

  • 北の風2.8m
  • 降雪3cm
  • 気温0.0℃

03:00 

  • 風向風速不明  
  • 降雪8cm 
  • 気温ー0.2℃

04:00 

  • 風向風速不明  
  • 降雪4cm 
  • 気温ー0.3℃

05:00 

  • 風向風速不明  
  • 降雪3cm 
  • 気温ー0.3℃

06:00 

  • 風向風速不明  
  • 降雪6cm 
  • 気温ー0.5℃

07:00 

  • 風向風速不明  
  • 降雪4cm 
  • 気温ー0.5℃

08:00 

  • 風向風速不明  
  • 降雪3cm 
  • 気温ー0.3℃

09:00 

  • 風向風速不明  
  • 降雪2cm 
  • 気温0.2℃

標高1500m付近では気温は概ね、ー4~ー5℃と予測され、前日の26日午後9時に雨が降り出した時には、現場付近は雪になっていたと考えられます。

従って、現場の積雪は那須高原の33cmより多かったと推定されます。

風向風速は不明の時間が多いのですが、仮に那須高原で風速3m/s前後だったとしても、標高1500m付近は森林限界の上で、風をさえぎるものはありませんので、吹雪だったと考えるのが妥当でしょう。

 

雪崩はどのようにして発生したのか?

さて、どのように雪崩が発生したのかを予測するのは、現時点では情報が少なく、難しいことです。

報道では、単に「表層雪崩」といっていますが、全層雪崩じゃない限り、表層雪崩に決まっています。

全層雪崩とは地面から上の雪が全部雪崩れる種類のもので、発生の前兆現象がわかりやすい雪崩です。

表層雪崩ですが、同じ表層雪崩でも「点発生型表層雪崩」と「面発生型表層雪崩」に分かれます。

点発生型表層雪崩は降り積もった雪同士の結合が不安定なために、積雪の一部が雪崩れ出し、周囲の雪を巻きこんで雪崩れるタイプです。

このタイプの雪崩は一般的に急斜面で起きやすく、雪崩の規模は小さいものが多く、面発生型に比べると予測がつきやすいので被害が少ないと言われています。

点発生型表層雪崩のイメ-ジ

一方、面発生型表層雪崩は上層と下層の雪の間に「弱層」と呼ばれるもろい雪の層があって、雪庇の崩壊や登山者、スキーヤーが雪に衝撃を与えるなど、様々なきっかけで弱層が崩壊し、上層の雪が板状に雪崩れるタイプで、予測が困難で被害も大きいとされています。

面発生型表層雪崩のイメージ

面発生型表層雪崩は弱層の崩壊以外に、下層の雪の表面がクラスト(氷化した硬い雪)している上に積雪があると、下層の雪の表面と降り積もった上層の雪との接着が悪く、上層の雪が滑りだすタイプもあります。

複数の報道番組では、事故の数日前の気温上昇と夜間の冷え込みによって、下層の雪が融けて凍り、表面がつるつるに氷化したところに、新雪が降り積もったから上層の雪が雪崩れたという説明がされていました。

アメダスのデータを見る限り、そういう可能性もあると思います。

しかし、雪崩の種類や発生のメカニズムは複雑で多岐にわたります。

新雪が大量に降った直後の急斜面で発生したことを見れば点発生型とも思えますが、48名もの被害者が出ていることを考えると、雪崩の規模が大きいはずですので面発生型ではないかと思います。

面発生型だとして、新雪が凍った下層の雪の上を滑ったのか、あるいは、新雪が積もる直前に下層の雪の表面に弱層が形成されていた可能性もあります。

面発生型表層雪崩は一般的に弱層の崩壊によるものがほとんどです。

ここで、アメダスのデータに戻りますが、24日と25日に那須高原で積雪が1cmあります。

標高1500mでは積雪はもう少し多かったと考えられます。

この積雪が日射と夜間の放射冷却の影響で「霜ざらめ雪」という弱層特有の非常にもろい雪質に変化していたとしたら、その直後の26日夜半からまとまった降雪がありましたので、積雪の下に弱層が隠されたことになります。そして大量の降雪の重みが弱層が崩壊させ、典型的な面発生型表層雪崩を起こしたとも考えなれるのではないでしょうか。

どちらにしても、上層と下層の積雪の接着が悪くて雪崩を誘発したことには変わりありませんが、どのようにして雪崩が起きたのかについては、同種の遭難事故防止のためにも調査研究が必要な部分です。

 

雪崩ビーコンについて

マスコミは、なぜ雪崩ビーコンを持たせなかったのか?という責任論を展開させていますが、雪崩ビーコンを全員が装備していれば、助かる命もあっただろうということは誰にでも言えます。

筆者は高校山岳部のOBですが高校時代は冬山は禁止、高体連の大会は6月の残雪期と9月の新人戦だけでしたので、部として行う山行はゴールデンウイークの春山が一番冬山に近い状況でした。

5月といえども低気圧がくれば、山は真冬と同じ状態になりますので、冬山の基本的な技術や知識は必要です。

春山でも基本的に冬山と同じ装備を持ち歩きますが、高価な雪崩ビーコンを全員分購入している学校は知っている範囲では聞いたことがありません。

そんな状況なので、当然のことながら、春山にいったとしても、雪に降られたらすぐさま撤退をよぎなくされました。

そもそも高校山岳部では雪崩ビーコンを必要とするような山行はしないというのが前提なので、今回の事故でビーコンを持っていなかったことに特別な違和感はありません。

雪崩ビーコンが必要となるような雪崩斜面に接近したのに、ビーコンを持っていなかったことが問題なのであって、ビーコンを持っていないこと自体は重大な問題ではありません。

ビーコンがないのなら、そのような危険な斜面に接近しないのが雪山の常識です。

さらに言えば、ビーコンよりもスコップの方が雪崩対策の優先順位が高い装備です。

ビーコンで埋没位置がわかっても、スコップがなければ短時間で救出できません。

埋没から30分後の生存率は50%を下回り、45分後ではわずか26%です。

ビーコンの不携帯のことをいうのなら、スコップやゾンデ(埋没者捜索用の長い棒)を持っていたのかどうかも問わなければいけません。

顧問の先生達に雪崩の危険があるのかどうかを見極める目があったのかどうかが一番問題なのです。

ラッセル訓練を開始しても、途中で危険と判断できていたのなら引き返しているはずです。

少なくとも、直前に大量の降雪があったのに斜面に取りつき、森林限界付近まで登ったこと、急こう配で木の生えていない雪崩斜面の直下にいたことの二つは、雪崩を避けるための常識からはずれているということになると思います。

8名が亡くなっていますので、当時、注意義務があった者が罰せられることになるのは当然ですが、この事故が責任論に終わることなく、客観的に雪崩遭難の原因を解明していただきたいと思います。




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プロフィール



初登山は雌阿寒岳。

学生時代に山岳部リーダーを経験し、阿寒、知床、大雪を中心に活動。

以来、北海道の山を舞台にオールシーズン単独行にこだわり続け30年。

現在は主に日高山脈をフィールドにしている山オタクのアマチュア登山者。



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