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元山岳部部長の登山講座

作業用透湿レインウエア「ブリザテック」は登山に使えるのか?

以前の記事で、安い作業用の透湿性レインウエア(弘進ゴム ジャバラン)は日帰りの低山に限定すれば、登山に使用できそうだという検証記事を紹介しました。→(ゴアじゃない安い作業用透湿性カッパを着てみた!

今回は、前回紹介したものよりも、さらに透湿性能の高い「東レ ブリザテック」を使用した作業用透湿性レインウエア「アーバン ブリザテック♯9000」を実際の登山に使用してみたところ、良好な成績でしたので詳細について紹介します。




「ブリザテック」と他のブランドのスペックを比較

他社の作業用透湿レインウエアと比べて上位クラス

透湿性レインウエア(カッパ)は大きく分けて「ゴアテックスを使用したもの」「アウトドアメーカー独自素材を使用したもの」「作業用品メーカー独自素材を使用したもの」の3種類があります。

カタログスペックを比較した場合、「ゴアテックス>アウトドアメーカー独自素材>作業用品メーカー独自素材」と、一般的には作業用品メーカーが一番下位になりますが、最近では必ずしもそうではなく、作業用品メーカーでも、ゴアやアウトドアメーカーの性能に近いか同等と思われる商品も出てきました。

透湿性レインウエアを選ぶ場合、まずは耐水圧や透湿度の数値、価格、丈夫さなどを比較し、さらに用途によって使いやすいデザインかどうかで決めるわけですが、代表的なレインウエアの耐水圧、透湿度は以下のとおりになっています。

  • ゴアテックス
    ゴアテックス3レイヤー
    耐水圧50000mm 透湿度25000g/㎡/24h(B1法)上下¥31000程度
    ゴアテックス3レイヤーCニット
    耐水圧50000mm 透湿度35000g/㎡/24h(B1法)上下¥38000程度
    ゴアテックス2レイヤーパックライト
    耐水圧50000mm 透湿度44000g/㎡/24h(B1法)上下¥41000程度
    ゴアテックス2レイヤーインフィニアム
    耐水圧30000mm 透湿度43000g/㎡/24h(B1法)上下¥26000程度
    ゴアテックスシェイクドライ
    耐水圧50000mm 透湿度80000g/㎡/24h(B1法)上のみ¥26000程度
  • アウトドアメーカー
    ドライエッジティフォン(ミレー)
    耐水圧20000mm 透湿度50000g/㎡/24h(方法不明)上下¥58000程度
    ブレステックプレミアム(オンヨネ)
    耐水圧30000mm 透湿度20000g/㎡/24h(B1法)上下¥18000程度
    ベルグテック(ミズノ)
    耐水圧30000mm 透湿度16000g/㎡/24h(B1法)上下¥16000程度
    ドライテック3レイヤー(モンベル)
    耐水圧20000mm 透湿度15000g/㎡/24h(B1法)上下¥18000程度
    エバーブレス(ファイントラック)

    耐水圧20000mm 透湿度10000g/㎡/24h(A1法)上下¥43000程度
  • 作業用品メーカー
    ディアプレックス(三菱)
    耐水圧20000~40000mm 透湿度16000~30000g/㎡/24h(方法不明)上下¥18000程度
    イナレム(ワークマン)
    耐水圧20000mm 透湿度25000g/㎡/24h(方法不明)上下¥4900程度
    ブリザテック(東レ)
    耐水圧10000mm 透湿度10000g/㎡/24h(A1法)上下¥6000程度
    エントラント(東レ)
    耐水圧10000mm 透湿度10000g/㎡/24h(方法不明)上下¥6000程度
    その他ほとんどの作業用品メーカー
    耐水圧10000~20000mm 透湿度2000~5000g/㎡/24h上下¥4000~¥6000程度

上記について説明します。

耐水圧とは、生地に水圧をかけてどのくらい水漏れに強いかを表すもので、数値が高いほど水圧に強いことになります。

暴風雨など過酷な条件で使用する場合がある登山用のカッパでは、耐水圧が20000mm以上のものが良いとされていますが、一般的には耐水圧が10000mmあれば、様々な用途に使用できるとされています。

透湿度とは、生地が水蒸気を通す能力を表すもので、数値が高いほど蒸れないということになります。

カッパを着用して激しい運動をする場合、カッパの透湿度は概ね12000g/㎡/24h以上は必要になり、登山のような激しい運動では、どんなに高価な透湿性レインウエアを着ても全く蒸れないということはありません。透湿度は高ければ高いほど有利ということになります。

透湿度には試験方法が何種類かあり、多くのメーカーでは「B1法」を採用してますが、ブリザテックやエバーブレスなどは「A1法」を採用しています。

このように、メーカーによって試験方法が違っていたり、試験方法が不明なものも多くあるので、この場合、透湿度の正確な比較できません。

ちなみに、A1法とB1法を比較した場合、A1法の数値の方が低く出る場合が多いとされていますので、両者を比較する場合は、このことを頭に入れておけば良いでしょう。(耐水圧と透湿度について詳しくは「カッパ(レインウエア)の耐水性・透湿性・強度とは?」を読んでみて下さい。)

価格についてですが、上記に記載したものは、おおよその参考価格です。

ゴアテックスについては、多くのメーカーから販売されており、価格には結構なばらつきがありますので、比較的価格の低いモンベル製品の価格を参考にしました。

なお、ゴアテックスシェイクドライについては、透湿度80000g/㎡/24hという驚異的な数値をたたき出していますが、これについては、トレラン用などに開発されたもので、メンブレンと呼ばれる極薄の透湿素材がむき出しになっている(他の透湿性レインウエアでは外側がナイロン等の生地、内側がメンブレンになっている)ため、岩や枝などにウエアを引っ掛ける機会の多い通常の登山には適していないと言えます。

さて、ブリザテックの性能を見ていきますと、耐水圧10000mm、透湿度10000g/㎡/24hと一見平凡な数値に思えますが、発売元であるアーバンのHPによれば、透湿度の試験方法は「A1法」とのことですので、B1法だと10000g/㎡/24h以上の透湿性が期待できます。

同じ価格帯の作業用のカッパのほとんどは、透湿度5000g/㎡/24h程度だということを考えると、作業用のカッパとしては高級品に分類されます。

耐水圧10000mmについては、登山用としては物足りないと思いますが、暴風雨以外のほとんどの場面では対応できる数値ですので、日帰り登山などに限定して使用すれば十分な性能なのではないかと思います。

同じ作業用品メーカーのディアプレックスやイナレムについてですが、透湿度の試験方法は不明ですが、仮にB1法だった場合、ゴアやアウトドアメーカーと同等クラスということになります。

ディアプレックスについては、アウトドアメーカー並みに価格が高いので、登山用として考えた場合、アウトドアメーカーの製品を選ぶことになりそうですし、今年(令和3年)ワークマンから発売されたばかりのイナレムについては、びっくりするような高性能、低価格なのですが、登山用として見た場合、現在のラインナップでは、「フードが絞れない、ズボンの裾にファスナーがない」など、デザインにやや難がありますので、登山に適した商品の登場を待っているところです。

ブリザテックは性能がそこそこで、値段が安いため、軽登山のためのレインウエアを選ぶ場合、選択肢のひとつに入ってくるのではないかと思います。

次に、ブリザテックのデザイン性などについて見ていきます。



今回使用した「ブリザテック」を紹介

ブリザテックのパッケージ。

今回購入したブリザテックは「アーバン製ブリザテック♯9000」という商品です。

ネットの楽天市場で購入したのですが、価格は3Lサイズで5630円(送料無料)でした。

アマゾン アーヴァン ブリザテック#9000上下 収納袋付
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ブリザテック上下と収納袋。

パッケージを開いたところです。

購入したサイズは3Lです。

生地にストレッチ性はありませんので、ゆとりのあるサイズを選びました。

筆者の身長(173cm)では、ややゆとりがあり、丁度よい大きさです。

重さは620g(Lサイズ)と書いてありますが、3Lの場合680gで、厚手の登山用レインウエアよりやや重めです。

黒い収納袋が付いていますが小さめです。丁寧に畳めば3Lは収まります。

生地の厚さ(デニール)の表示はありませんが、カッパとしては中厚~厚めで丈夫な部類だと思います。転んだりしてもすぐには破れない印象です。

上位モデルによくある、蒸れ防止用の大きなベンチレーションなどは一切ありませんが、作業用のカッパとしてはシンプルかつ最低限必要なものは付いているという印象で、まずまずのデザインだと思います。

今回、カラーは白にしましたが、山ではすぐにズボンが汚れてしまい、洗濯してもなかなか落ちませんので登山用なら白以外が良いと思います。

上着の前面。ファスナーの浸水防止用のフラップはボタン止め。

前面のファスナーは上位モデルによくある、止水ファスナーではなく、従来型のファスナーですので、ファスナーから浸水しないようにするためのフラップ(水切り)が左右についていて、フラップはベルクロ止めではなく、プラスチックのスナップボタンで止める方式です。

ポケットは比較的高い位置にあるのでポケットの上半分はザックのウエストベルトに干渉しない。

上着のポケットは左右に付いています。

登山ではザックを背負うとカッパのポケットが、ザックのウエストベルトに干渉するので、登山用のカッパのポケットは高い位置にあるのが通常です。

このカッパのポケットの取り付け位置は、そんなに高いわけではなく、ウエストベルトを締めるとポケットの下半分が干渉してしまいますが、上半分は干渉しませんので、とりあえずポケットは使えるという感じです。

上着のポケットにも浸水防止のフラップがある。

ポケットのファスナーです。

こちらも、止水ファスナーではありませんので、浸水防止用のフラップが付いています。

ポケットのフラップはベルクロ止めです。

内側はメッシュになっている。

上着の内側です。汗などが直接生地に触れないようにするためのメッシュが施されています。ズボンの内側も同じくメッシュになっています。

フードはドローコードで絞れる。

フードは、大きすぎず、小さすぎず、丁度良い大きさで、ヘルメット着用でも問題ありません。

登山中の暴風雨対策として大事な要素の一つである、フードを絞るためのドローコードが左右についてます。

ダブつき防止のベルクロ。

フードの上部には、フードのダブつき防止のためのベルクロがついてます。

フードを収納した状態。

フードを使わない時は、襟に収納できます。

袖口の状況。

袖口はベルクロで絞れるようになっています。

上着の裾も絞れる。

上着の裾にはドローコードが入っていて、裾が絞れるようになっています。

ズボンのゴムの状況。

ズボンのゴムは幅広でしっかりとしたゴムです。緩み防止用のドローコードも付いています。

ズボン前面の空気穴。

ズボンの前面上部には、蒸れ防止用の小さな空気穴が2つ付いています。

この穴による蒸れ防止の効果は体感できるほどではなく、ないよりはマシと言った感じです。

ズボンのスリット。

ズボンの裾です。

登山に使用するカッパの重要な要素の一つである、裾のスリットが付いています。

作業用のカッパには、これがないモデルが多いので、ここは重要なチェックポイントです。

スリットは25cm。何とか靴を履いたままズボンが履けそう。

スリットの長さは25cmで、ファスナーにはフラップが付いています。

フラップはベルクロ止めで、先端はプラスチックのスナップボタンで止めるようになっています。

スナップボタンのメス側は2か所あり、ズボンの裾幅は2段階選べます。

スリットはもう少し長さが欲しいところです。

あとで検証しますが、登山靴を履いたままでも何とかズボンの脱ぎ履きができそうです。



実験!雨の日に登山をしてゴアテックスと比較。

やはり暑い時はゴアもブリザテックも同じく蒸れる

実験中の筆者(ブリザテック)

実験中のTさん(ゴアテックス3レイヤー)

実験は9月の樽前山(1041m)で行いました。

実験方法は、筆者(ブリザテック着用)と登山クラブのTさん(ノースフェイス製ゴアテックス3レイヤー着用)がカッパを着た状態で登山をし、蒸れの具合を体感で比較する方法で行いました。

実験時の天気は小雨、風は約3m/s、気温は17℃でした。

まずは靴のままズボンを履けるのか?

靴のまま何とか履けた。

登山前に登山靴を履いたまま、カッパのズボンが履けるかどうかの確認です。

筆者の登山靴の全長(外寸)は30cmありますが、スリットを全開の状態で靴を脱がずになんとかズボンを履くことが出来ました。

これよりも大きな登山靴では、靴を履いたままのズボンの着用は厳しいと思います。

透湿性は?

登山口から中斜面の上りが続きます。

登山開始から5分ほどで筆者、Tさん共に体が汗ばみ出しましたが、両者共にまだ蒸れは感じません。

開始から15分経ったところで、体が温まり、汗が多くなってきました。

カッパ内はやや蒸れ出しましたが、不快なほどではない感じです。

Tさんに状況を聞くと、同じく発汗が多くなり、やや蒸れてきたとのことでした。

それ以降はどんどん蒸れ出し、開始から30分後経ったところで、カッパ内は完全に蒸れ、中に着ていた服は汗でぐっちょりになりました。

Tさんに状況を聞くと、同じく完全に蒸れて、服は汗まみれで不快だとのこと。

蒸れ具合を確認するために、カッパの上着の内側を手で触れてみたところ、透湿できなかった汗がべっとりと付いています。

Tさんのカッパの内側を確認させてもらうと、同じく汗で濡れていて、内側の汗濡れの程度は筆者と同じぐらいでした。

これ以上歩いても蒸れ放題になりますので、下山を開始しました。

下山を開始するとすぐに発汗がおさまり、下山開始後5分ほどで蒸れはほとんど感じなくなり、以後登山口に着くまで快適に歩くことができました。

Tさんに尋ねると、同じく5分ほどで蒸れを感じなくなり、以降は快適だったとのことでした。

下山直後、登山口でカッパの内側を確認すると、下山前に汗濡れしていたカッパの内側は筆者、Tさん共に乾いておりました。

今回の蒸れの実験については、ブリザテックとゴアテックス3レイヤーでは、性能の差は確認できませんでした。

前回の実験でもそうだったように、気温が高い時や登行中など、盛んに汗をかいている時には、ゴアテックスも他社製品もこれとわかるほどの差は出ないようです。

耐水性は?

1分間、水たまりに膝をついてみる。

表面は滲みるが内側への浸水はない。

体重75kgの人が膝をついた時にかかる圧力は11000mm程度とされているので、このことを利用して耐水圧の実験をしてみます。

1分間、水たまりに膝をついて、水が滲みてくるかどうか試してみます。

結果は、生地の表面はやや水が滲み込みましたが、内側への浸水はまったくありませんでした。

撥水性は?

ところどころ撥水は残っている。

撥水が落ちてしまった部分もある。

下山後にカッパの撥水性について確認しました。

約1時間の行程でしたが、撥水が保たれている部分と、撥水がなくなってしまっている部分は概ね半分半分でした。

撥水性能については、今後はニクワックスなどの漬け置きタイプの撥水剤など、強力なものを使用することで解決できそうです。

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お手入れ方法は?

取説によれば、

  • 中性洗剤を使用し手洗いすること。
  • 強い摩擦や強く揉んだりしないこと。

と書かれています。

中性洗剤なら何でも良いと受け取れますが、ゴアテックスに代表される防水透湿性素材の多くは、中性で、かつ撥水性を損なわせないために、柔軟成分、漂白成分、蛍光成分が入っていない洗剤の使用が推奨されていますので、ブリザテックについてもゴア用の洗剤を使用するのがベストな選択ではないか思います。

なお、ゴアテックス用の専用洗剤には中性と弱アルカリ性の両方が存在します。詳しくは→「ゴアテックスに使用できる洗剤は?(専用洗剤編)」を読んでみて下さい。



軽登山用としては合格点。

ファッション性を気にしなければ値段が安く、エントリーモデルとしては良い出来。

ブリザテックを着てみての感想ですが、この価格帯でこれだけの性能なら、日帰り登山なら十分過ぎるぐらいの出来だと思います。

問題があるとすれば、一般的な登山用のモデルと比べて耐水圧の数値が低いというところですが、風圧で歩くのがぎりぎりくらいの暴風雨に遭遇した場合、どんなに耐水圧が高くてもフードと顔面の隙間、あるいはファスナーから浸水し、中に着ている服が濡れてしまうものです。

ですので、暴風雨の中では耐水性の高いモデルとブリザテックでは衣類の濡れに差が出ないのかも知れませんが、実際の暴風雨の中で比較実験しなければわかりませんので、ブリザテックの使用は日帰り登山程度と考えるのが妥当ではないかと思います。

アウトドアメーカーから出ている登山用レインウエアは、安いものでも15000円以上はしますので、とりあえず日帰り登山用にカッパが欲しいという登山者にとっては、カラーやデザインを気にしなければ、価格、性能ともに満足のいく商品だと思います。

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プロフィール

フリーランサー。元船員(航海士)
学生時代に山岳部チーフリーダーを経験し、阿寒、知床、大雪を中心に活動。
以来、北海道の山をオールシーズン、単独行にこだわり続け35年。
現在は主に日高山脈をフィールドにしている山オタクのライター。

※他サイトにおいて元山岳部部長を名乗る個人・団体が存在しますが、それらは当サイトとは一切関係ありませんのでご了承ください。



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