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登山用レインウエア(カッパ)の選び方~透湿性だけで選ぶと失敗する

登山用レインウエア(カッパ)の選び方~透湿性だけで選ぶと失敗する

登山では、雨が降らなくてもカッパ(レインウエア)を常時携帯するのが基本です。

カッパにはジャケットとズボンに分かれた「セパレートタイプ」、ズボンがなくて、ジャケットの裾が長い「レインコートタイプ」、頭からすっぽり被る「ポンチョタイプ」があります。

登山用として機能的なのは「セパレートタイプ」で、実際に販売されている登山用のカッパはすべて「セパレートタイプ」です。

セパレートタイプの難点は「蒸れる」ことですので、登山用のカッパではゴアテックスに代表される、「防水透湿素材」が使用されるのが標準的です。

今回は、カッパ選びをする時の着眼点について説明します。




カッパ選びは耐水性、透湿性、強度、価格、寿命で決まる

カッパにはビニール製やゴム引きなどの水や水蒸気を一切通さないものがあり、ゴアテックスが一般庶民に普及する前は蒸れ放題で登山をしていました。

現在ではゴアテックスなどの防水透湿性素材のカッパを着るのが標準となり、随分と快適になりました。

雨を通さず、汗の水蒸気を外に透過させる素材にはゴアテックス、イーベント、ドライQエリート、エバーブレス、ドライテック、ハイベント、N2NO、ベルグテック、エントラント、ブリザテックなど様々な素材が出ています。

どの商品を選べばよいのかということですが、耐水性、透湿性、強度、価格、寿命などの要素を考えて、自分の登山スタイルに合ったものを選ぶことになります。

透湿性が高くてコスパの良いものを選びがちですが、素材によって寿命の長い、短いがありますので、単純に透湿性と価格だけで選ぶと結局高くつく場合もありますので注意が必要です。

耐水性

耐水性とは、カッパがどの程度の水圧に耐えられるかの性能で、1平方センチメートルあたりにかかる耐水圧で表され、単位はmmで表示します。

標準的なカッパの耐水圧は10000mm程度ですが、過酷な登山では20000mm以上のものが適しているとされています。

登山メーカーから出ているカッパは、知る限りすべて20000mm以上の性能を有しています。

安い作業用の透湿性のカッパで耐水圧10000mmという商品が出ていますが、10000mmでも日帰りの低山程度ならほとんど問題なく使用できます。

透湿性

透湿性とはカッパが一定時間に水蒸気をどのくらい透過させられるかの性能で、1平方メートルあたり24時間で透過した水蒸気の重さ(透湿度)で表され、単位はg/㎡/24hで表示します。

激しい運動をしている時の発汗量は毎時1000g程度です。

仮にこの汗をすべて水蒸気として透過させるとすれば、カッパの表面積を2平方メートル程度と考えると、12000g/㎡/24hほどの性能が必要になります。

ゴアテックスでは25000g/㎡/24h以上と高性能ですが、各登山メーカーから出ているカッパの多くは、概ね15000g/㎡/24h以上のスペックが標準的です。

安い作業用の透湿性のカッパでは透湿度10000g/㎡/24hという商品が出ていますが、日帰りの低山程度ならほぼ問題なく使用できます。

なお、透湿度はJISの試験方法によって数値が変わりますが、残念ながらすべてのメーカーで試験方法は統一されていません。詳しくは「カッパ(レインウエア)の耐水性・透湿性・強度とは?」を読んでみて下さい。

強度

防水透湿素材はメンブレンと呼ばれる薄い防水透湿素材(水を通さず水蒸気を通す)にナイロン(水も水蒸気も通します)などの生地を張り合わせるか、コーティングしてできています。

メンブレンの外側に生地を1枚張り付け(ラミネートといいます)メンブレンの内側をメッシュで保護したものを「2層(2レイヤー)」、外側に生地1枚を張り付け、内側をコーティングしたものを「2.5層(2.5レイヤー)」外側も内側も生地を張り付けたものを「3層(3レイヤー)」と言います。

外側に張り付けた生地に使用した糸の太さによって、生地の厚さが変わりますが、これをD(デニール)という単位で表します。

一般的には数値が高いほど生地は厚く丈夫になりますが、薄くても強度の高い生地もありますので、単純にデニールだけでカッパの丈夫さが決まらないこともあります。

メーカーでは、薄くて軽いものは低山やトレラン用、生地が丈夫なものはオールラウンド用としています。

(※耐水性、透湿性、強度の詳しい説明は「カッパ(レインウエア)の耐水性・透湿性・強度とは?」を読んでみて下さい。)

価格

ゴアテックスはとにかく「高い」です。

上下揃えると3万~5万は覚悟しなければいけません。

比較的価格が安いのは、モンベルやプロモンテのゴアで、モンベルが上下4万円台、プロモンテは上下2~3万円程度で購入できます。

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ゴア(50000mm、25000g/㎡/24h以上)でなくてもいいという人にはメーカー独自開発の防水透湿素材が断然安いです。

オンヨネの独自素材ブレステック(20000mm、20000g/㎡/24h)は上下で18000円程度、モンベルの独自素材ドライテック(20000mm、15000g/㎡/24h)は上下18000円程度、ミズノの独自素材ベルグテック(30000mm、16000g/㎡/24h)で上下13000円~18000円程度で購入できます。

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これらは、初心者用という向きで売られているようですが、長く登山を続けるなら最初からゴアを買うのがおすすめです。

ザック、登山靴、登山服をそろえると5~6万はかかってしまいますので、その上、ゴアのカッパに数万円も出すのか?と思ってしまいます。

そこで、安価なベルグテック(メーカーでは富士登山者着用ナンバー1とのこと)やドライテックなどのメーカー独自素材のものに手を出してしまうのはわかりますが、透湿素材には寿命がありますので、慎重に考えなければ後々損をする可能性があります。

寿命

登山用のカッパの良し悪しを語るとき、透湿性と価格を比較して決める場合が多いと思いますが、最近のメーカー独自開発の防水透湿素材はゴアテックスよりかなり安く、性能もゴアに迫っています。中にはゴアより蒸れないという商品も出てきています。

同じ蒸れないなら安いものがいいに決まってますが、ここが落とし穴で、メーカー独自開発の防水透湿素材の殆どは、メンブレンに「ポリウレタン」を使用しています。

ポリウレタンといって真っ先に思い出すのが、軽登山靴のミッドソールや、ザックの内側の防水コーティングです。

経年劣化でソールが剥がれる、ザックの内側がベトベトになる話はよく知られています。

ポリウレタン製の防水透湿素材も例外ではありません。使用環境にもよりますが、数年で劣化する場合もあります。

一方、ゴアテックスのメンブレンは「フッ素樹脂(ePTFE)」を使用していますので、物理的に破壊しない限り半永久的を劣化しないとされています。

最近ゴアの性能を凌ぐと噂されている「イーベント」や「ドライQエリート」もフッ素樹脂を使用しています。

また、ファイントラックの独自素材「エバーブレス」はポリカードネードを使用しているので、ポリウレタンより長持ちするとされています。

ここで、考えなくてはならないのがランニングコストです。

例えば、メーカー独自素材のカッパ(メンブレンがポリウレタン製のもの)を2万円で購入し、一方で、ゴアテックス製のカッパを4万円で購入したとします。

仮に、メーカー独自素材のカッパの寿命が5年で、ゴアテックスの寿命が10年だとすれば、両者のランニングコストは同じになりますが、ゴアテックスの寿命が10年以上ですと、ゴアテックスの方がランニングコストが安くなります。

筆者の経験では、ノースフェイスの3層ゴアテックスのカッパをかれこれ15年以上使用していますが、未だ劣化はみられなく20年はいけるのではないかと思います。

使用環境やメンテナンスの良し悪しにもよりますが、複数の登山仲間の話を聞けば、ゴアテックスのカッパの寿命は短くても10年以上はありそうです。

ポリウレタン製の防水透湿素材が実際何年もつかは定かではありませんが、仮に4,5年しかもたなかったとしたら、おおむね1万円以下じゃないとランニングコストではゴアには勝てません。

長く登山を続けたいのなら、はじめからゴアテックスを買ってしまった方がお得な場合が多いのではないかと思います。

アウトドアメーカーで、価格が1万円以下の透湿レインウエアはほぼありませんが、作業用品メーカーが販売している透湿性のカッパの中には数千円で購入できるものがあります。

例えば、作業用のカッパ、東レ ブリザテックは耐水圧10000mm、透湿度10000g/㎡/24hとアウトドアメーカーに迫る性能でありながら、価格は上下で6000円程度です。

6000円で買えるなら、数年で劣化してもゴアを買うより安くつきますし、初心者でも買いやすい値段です。(作用業のカッパについて実験しました。詳しくは「作業用透湿レインウエア「ブリザテック」は登山に使えるのか?を読んでみて下さい。)

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まとめ~日帰り登山なら作業用のカッパでも

カッパを買うなら、やはりゴアテックスということになりそうです。

ゴアを買うなら、価格的にはプロモンテかモンベルが財布にやさしいと言えます。

日帰りの低山しか登らないような登山者なら、コスパの良いアウトドアメーカー独自の防水透湿性のカッパでも良いと思いますが、値段が高いとランニングコストではゴアより高くついてしまう場合がありますので注意が必要です。

その点、東レのブリザテックなどの防水透湿性の作業用のカッパは、アウトドアメーカーよりも性能はやや劣る場合が多いのですが、日帰り登山程度に使用するのであれば、価格も安く、カッパ選びの選択肢のひとつに入れても良いのではないかと思います。






プロフィール

フリーランサー。元船員(航海士)
学生時代に山岳部チーフリーダーを経験し、阿寒、知床、大雪を中心に活動。
以来、北海道の山をオールシーズン、単独行にこだわり続け35年。
現在は主に日高山脈をフィールドにしている山オタクのライター。

※他サイトにおいて元山岳部部長を名乗る個人・団体が存在しますが、それらは当サイトとは一切関係ありませんのでご了承ください。



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