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遭難対策~雪崩遭難!対策の仕方

遭難対策~雪崩遭難!対策の仕方

雪崩遭難についての2回目です。今回は、雪崩の予測の仕方や雪崩に遭ってしまった場合の対処法などについて説明します。

1回目の「遭難対策~雪崩はどんな時に起きるのか」はこちらです。




言い伝えによる雪崩の常識は本当なのか?

日本の雪崩研究は、ヨーロッパに比べると遅れていると言われています。

太い木が生えている場所は安全」、「気温が低い午前中までは雪崩が起きにくい」、「大雪が降ったあとはすぐに入山しない」など、先輩達から教わった雪崩を避けるための教訓や言い伝えがあります。

雪崩学の専門書を読めば、雪山で雪崩の危険がない場所は、ほとんどないということがわかります。

言い伝えは部分的に合っているとまでしか言えず、全面的に信じて雪山に入山するのは危険です。

これらの言い伝えと雪崩学の研究を照らし合わせながら、雪崩対策について考えていきます。



雪崩発生の予測の仕方

それぞれの雪崩の形態別に、予測の仕方について説明します。

1 ある程度予測がしやすい点発生表層雪崩と全層雪崩

点発生表層雪崩

点発生表層雪崩は傾斜のきつい斜面で起こりやすく、ある一点の雪が崩れ、周囲の雪を巻き込みながら雪崩れるもので、原因の多くは、落雪、木の枝、岩などが落ちたことがきっかけになります。

このタイプの雪崩には、乾いた雪で発生するもの(点発生乾雪表層雪崩)、湿った雪で発生するもの(点発生湿雪表層雪崩)、大粒のあられで発生するものなどがあります。

乾いた雪で発生するタイプは、風が弱い時に、舞い降りるように降り積もった雪は、雪同士の連結が弱いので一定以上の積雪があると点発生表層雪崩を起こします。

湿った雪で発生するタイプは、まとまった雪が降ったあとに、日射、急激な気温上昇、雨が降るなどで積雪が水分を含んだ結合力の弱いざらめ雪に変化すると、点発生表層雪崩を起こします。

大粒のあられで発生するタイプは、あられ同士の連結が弱いので、これも一定以上の積雪があると点発生表層雪崩を起こします。

湿った雪で発生するタイプ(点発生湿雪表層雪崩)については、前兆現象として、小さな雪玉が自然に斜面を転がる「スノーボール現象」というものがあります。

スノーボールが発生していれば、乾いていた積雪が日射などで湿気を含んだことになります。

湿気を含んだかどうかを知る方法としては、斜面に雪玉を投げてみる方法があります。

雪玉を投げてみて、すぐに止まれば雪は湿気を含んでいないということがわかり、雪だるまのように転げ落ちていけば、湿気を含んでいることがわかります。

言い伝えによる「大雪が降ったあとはすぐに入山しない」は点発生表層雪崩のどのタイプにも当てはまりそうです。

「気温が低い午前中までは雪崩が起きにくい」については、湿った雪で発生するタイプ(点発生湿雪表層雪崩)の雪崩を避けるためには当てはまると思います。

点発生表層雪崩のまとめ
・弱風時に一定以上の降雪があった時
・降雪後に日射や温度上昇があった時(スノーボールが発生していれば危険)
・大粒のあられが降った時

全層雪崩

全層雪崩は地面から上の積雪がすべて雪崩れるタイプの雪崩です。

春の気温上昇で雨や雪解け水が積雪の下層に浸透して、地面付近が滑りやすくなり雪崩が起こるタイプ(面発生湿雪全層雪崩)や、北海道の笹で覆われた斜面では、ドカ雪のあと、雪の重みで笹が寝てしまうことにより、地面付近が滑りやすくなって発生するタイプ(面発生乾雪全層雪崩)などがあります。(※笹の斜面では春、真冬を問わず全層雪崩が起きやすい。)

全層雪崩は、表層雪崩のように突然発生することは少なく、いずれのタイプも前兆現象があり、雪崩斜面の上部に「雪割れ」という亀裂が発生していたり、雪崩斜面の下部がしわのようにうねった「雪しわ」が見られますので、予測がしやすいとされています。

全層雪崩のまとめ
・雪崩斜面の上部に雪割れ、下部に雪しわが発生している。

2 予測が難しい面発生表層雪崩には弱層テスト

面発生表層雪崩は一般的に積雪の層に「弱層」と呼ばれるもろい層があることによって、上層の積雪が滑り出すために発生するものがほとんどです。

ほかに、日射や雨で溶けたあとに凍結して硬くなった雪面(サンクラスト、レインクラストという)の上にまとまった降雪があり、下層と上層の結合が弱いために上層が滑り出すタイプのものもあります。

面発生表層雪崩は雪崩を引き起こす弱層の存在が、見た目ではわかりませんので、予測することが困難です。

そこで、弱層の有無を知る方法として「弱層テスト」というものがあります。

弱層テストは、100%確実に雪崩を予測できるものではありませんが、雪崩予測のための最も効果的な情報となります。

弱層テストは、面倒であっても、斜面の向き、斜面の幅、傾斜、植生などが変わるたびに行うのがベストです。

また、午前と午後では雪質が変化ますので、一度行った場所でも行うようにします。

行動時間との兼ね合いもあると思いますが、テストは回数が多ければ多いほど正確性は上がり、30回も行えば、かなり正確に雪崩の予測ができるとされています。

弱層テストには何種類かの方法がありますが、一番簡単な「ハンドテスト」は1回10分未満で行うことができます。

弱層のハンドテストのやり方

まず、雪面に直径約40cmの円柱を手で掘り、雪が硬くなったらスコップを使ってさらに掘り、高さ約70cmの円柱を掘り出します。

直径40cmの円柱を描く。

70cmの円柱を掘り出す。

円柱ができた。

次に、円柱の上部を両手で抱え込んで、ゆっくりと次第に強く、円柱を手前に引きます。

抱え込んでゆっくりと引っ張ってみる。

上部が折れなければ、順次下に移動して円柱を引き、弱層を探します。

弱層があれば、円柱は弱層面から刃物で切ったようにすっぱりと折れます。

円柱がパックリ折れて弱層が現れる。

今回は腰の力で折れたので安全そうだ。

円柱は、手首だけの力で折れれば、かなり弱い弱層で「かなり危険」、ひじの力で折れれば「やや危険」、肩の力で折れれば「ほぼ安全」、抱え込んで腰の力でやっと折れれば「安全」と判断します。

同じ強さの弱層であっても、上層の雪が多いほど、また傾斜がきついほど雪崩の危険は大きくなります。

弱層の寿命

弱層ができたとしても、積雪は次第に焼結、圧密して、雪同士の結合が強くなりますので、弱層はいつかはなくなります。

弱層の種類(前回記事「遭難対策~雪崩はどんな時に起きるか」参照」)によって寿命は異なりますが、調査の一例によると、

  • 雲粒付き降雪結晶による弱層 約10日
  • 表面霜による弱層      約20日ものと、40日以上のもの
  • 霜ざらめ雪による弱層    40日以上

となっています。



雪崩発生斜面の角度、雪崩の到達範囲

欧州の調査では、雪崩が発生する斜面の角度は、30度~50度で危険とされ、特に35度~45度(核心部分は38度)までの斜面が一番雪崩の危険が大きいとされています。

斜度は45度をこえると、積雪は小規模雪崩を頻繁に繰り返すため危険が少なくなるといいます。

雪崩は、自分のいる場所が一見安全だと思われても、その上部に危険地帯があれば雪崩に巻き込まれる可能性があります。

雪崩の権威、高橋喜平氏の研究によれば、自分のいる位置から雪崩の発生点を見上げた時の角度が、表層雪崩で約18度以上、全層雪崩で約24度以上あれば、デブリの末端が到達するとしています。(高橋の18度法則)

この法則によれば、雪崩が到達する可能性がある場所は予想以上に多いことが想像できます。

下図は、高橋の18度法則を模式的に描いたものです。

発生点を見上げて18度以上あれば危険、それ以下であれば安全ということですが、現場で18度を知る方法として、ストックを利用する方法があります。

ストックを四分割して印を付け、下図のように3:1になるようにクロスした時、ストック先端の見通し線は約18度になります。

高橋の18度法則とストックで18度を知る方法。

 

雪崩に遭わないためのルート取り

雪山の多くの場所は、雪崩に遭遇する危険があると思うと、雪山には登れなくなってしまいます。

実際の雪山では、なるべく雪崩のリスクが少ない場所を選んで登ることになります。

「太い木が生えている場所」は絶対安全とまでは言い切れませんが、一般的には雪崩のリスクが少ない場所と考えられます。

(太い木が生えていても、想定外の場所まで雪崩が到達して被害に遭った事例もあります。詳しくは「過去の遭難に学ぶ-札内川十の沢大雪崩事故」を読んでみて下さい。) 

なので、この言い伝えは全面的に信じてはいけないということになります。

木がまったく生えていない斜面や、樹齢の若い木しか生えていない斜面は、毎年のように雪崩が通過していると考えられるので、雪崩のリスクが高い斜面であると思わなければなりません。

また、雪崩は一般的に尾根地形より沢地形の方が発生しやすいとされています。

これらのことを念頭に、自分の歩くルートが雪崩を発生しやすい場所なのか、あるいは上部に雪崩が発生しやすい場所があるのかどうかを見極めながらルートを決めることになります。

上の図はルート取りの考え方の一例です。

沢地形よりも、尾根上を歩く、木の生えていない場所よりも、樹林帯を歩く、上部に雪崩斜面がない場所を歩くという原則に従うと、図上では一般的にこのようなルートを取ることになります。

図では、向かって右の山頂を目指そうとしていますが、Aルートは沢地形を横切ることになります。

Bルートは樹林帯を歩こうとしていますが、ルートのすぐ上部には木のない雪崩斜面があります。

Cルートは樹林帯に沿って歩き、沢地形を避け、雪崩斜面を遠ざけていますので、この図の中では一番安全なルート取りだと言えます。

実際の雪山では上記に加え、天気や気温、雪質、数日前からの積雪状況、弱層テストなど様々な要素を総合的に判断してルートを決めることになります。



自分が雪崩に巻き込まれたら

雪崩は、爆風を伴って太い木をなぎ倒しながら猛スピードで通過するものもあり、巻きこまれてしまったら何もできない場合が多いと思われますが、万一雪崩に巻き込まれてしまった時は、生還することを諦めずに冷静に行動しなければなりません。

雪崩に巻きこまれてしまった場合にするべき行動は次のとおりです。

  • 雪崩に遭遇した場所が雪崩の発生点だったら発生点の上部へ必死に逃げる。
  • 雪崩に流されてしまったら、泳ぎながら、埋没しないように上へ上へ浮上するよう必死にもがく。
  • 雪崩は、走路の中央部より外側の方が速度が遅く、また、木や岩のある周辺では速度が遅くなるので、なるべく雪崩の外側に移動するか、木や岩の周辺に移動するようにもがく。
  • ザック、ストックなどは雪崩が止まったあとに抵抗になって脱出を困難にするので放棄する。
  • 雪で窒息しないよう、手で顔を覆い、雪と顔の間に隙間を作る。
  • 雪崩が止まったあと、デブリ(雪崩の堆積物)は急速にコンクリートのように硬くなり、身動きが取れなくなるので、その前に呼吸が出来るよう顔の周りに隙間を確保する。

なお、雪山では、テントごと雪崩に埋められた時は、テントを切り裂かなければ脱出が困難になるため、行動中、就寝中問わず、常時小型ナイフ(スイスアーミーなど)を携帯するようにします。



仲間が雪崩に巻き込まれたら

1 生存率

仲間が雪崩に巻き込まれたら、救助を要請することよりも先に自分が仲間を捜索し、救出することを優先します。

欧州で調査した、雪崩に埋没した場合の経過時間と生存率のデータがあります。

  • 埋没から15分後の生存率  約93%
  • 埋没から30分後の生存率  約40%
  • 埋没から45分後の生存率  約26%
  • 埋没から130分後の生存率 約 3%

データからは、埋没から45分後まで、生存率が急速に落ちる傾向がわかります。

遭難者は急いで掘り起こさなければならず、救助を呼ぶ余裕はありません。

なお、45分以降の生存者は口の周りに呼吸ができる隙間がある場合と推定されています。

2 遭難現場での救助の方法

仲間が雪崩に遭ったら、まず遭難者が雪崩に巻き込まれた場所を記憶します。そして遭難者を見失わないようにします。

次に遭難者が流されながら見えなくなった場所をよく記憶しておきます。

遭難者は雪崩に巻き込まれた場所(遭難点)と流されながら見えなくなった場所(消失点)を結んだ延長線上のデブリの中にいる可能性が高いとされていますので、雪崩がおさまったら、遭難点と消失点に目印を立て、おおよその埋没位置を予測します。

ストックなど遭難者の装備品が発見された場合、軽い物は上層に、重いものは下層に埋没する傾向にあります。

遭難者はこれらの発見された装備品の延長上の下層に埋没している可能性があります。

このようにして、概ねの埋没位置を推測したあと、遭難者も捜索者も雪崩ビーコンを持っていれば、ビーコンを使用して遭難者の位置を特定します。

また、ゾンデ(プローブ)と呼ばれる雪崩捜索用の長い棒があれば、推定される埋没位置の雪面にゾンデを刺しながら、遭難者の埋没位置を捜索(ゾンデーレンと言います)します。

ゾンデの先が遭難者に当たることで、埋没位置がピンポイントでわかりますので、雪崩ビーコンとゾンデを併用するとさらに効果的です。

埋没位置がわかったら、デブリを掘ることになりますが、スコップがないと非常に効率が悪く、1立方メートルのデブリを掘るのにスキー板と手で掘ると約40分かかりますが、スコップを使用すれば、わずか8分で掘ることができるとされています。

雪崩対策のためには、最低でもスコップを携帯することが求められます。


ゾンデ Black Diamond(ブラックダイヤモンド) クイックドロープロプローブ280 BD43077


スノースコップ mont-bell(モンベル) アルパインスノーショベル 1124576 サンセットオレンジ(SSOG)

3 雪崩ビーコンの有効性

雪崩ビーコンにはアナログ式、デジタル式、アナログ・デジタル切り替え式があり、機種にもよりますが、受信範囲が40m~80mほどで、取扱いに慣れると、50m四方で深さ1mの埋没者を5分以内で探し当てることが出来ます。現在はデジタル式が多く普及しています。

アナログ式は受信感度は良いですが、取り扱いに習熟していなければならず、デジタル式は受信感度は落ちますが取り扱いが簡単です。

雪崩ビーコンはゾンデを使用して捜索するのとは雲泥の差があり、一刻を争う雪崩遭難の救出には欠かせない装備です。

雪崩ビーコンは持っていればよいのではなく、普段から雪崩ビーコンを使用した捜索訓練を積んでおく必要があります。

(雪崩ビーコンについて詳しくは「雪崩対策!~雪崩ビーコンの選び方を読んでみて下さい。)


MAMMUT(マムート) 雪崩埋没者捜索 アバランチビーコン Barryvox 271000150

 参考文献:「山と渓谷社 最新雪崩学入門 北海道雪崩事故防止研究会編」「山と渓谷社 雪崩リスクマネジメント ブルース・トレンバー著)






プロフィール

フリーランサー。元船員(航海士)
学生時代に山岳部チーフリーダーを経験し、阿寒、知床、大雪を中心に活動。
以来、北海道の山をオールシーズン、単独行にこだわり続け35年。
現在は主に日高山脈をフィールドにしている山オタクのライター。

※他サイトにおいて元山岳部部長を名乗る個人・団体が存在しますが、それらは当サイトとは一切関係ありませんのでご了承ください。



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