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元山岳部部長の登山講座

夏山の遭難対策~台風と低気圧の怖い話

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8月は連続して台風がやってきて各地で被害が出ましたが、

登山者はみんな警戒しているのか、台風に伴う遭難などのニュースは幸いなかったようです。

台風の接近と通過

今更ですが、台風が接近している時には入山してはいけません。

登山と天気でも書きましたが、麓では平穏でも山頂ではとんでもない状況になっていることは普通にあります。

台風の接近といっても、どのくらい台風が近づいたら危ないのでしょうか?

台風が遠いからまだ大丈夫だろう、台風が通過したからもういいだろうというような軽率な判断はとても危険です。

 

悪天候を実際に・・・

以前私は、東大雪石狩岳(1966m)から入山し、沼の原、五色ケ原を経て表大雪黒岳(1984m)まで4日間の縦走計画をしました。

入山前に南方洋上に台風が発生していることはわかっていて、台風の規模や進路とスピード、天気予報などを見て、台風の影響が出る前に下山できると判断し縦走を開始しました。

ところが、3日目の目的地である白雲岳キャンプ指定地(標高1990m)に到着した時、翌朝には台風は九州南岸まで到達し、同時に北海道付近を前線を伴った低気圧が通過することがわかり、判断を迫られる状況になりました。

白雲岳避難小屋の管理人さんからも遅くとも明日中には下山するよう各登山者に指示がありました。

翌朝、雨と風の中を出発し、予定どおり黒岳まで行くか、エスケープして銀泉台に下りるか迷いました。

北海岳(2149m)まで進出してみて、大丈夫そうなら一気に黒岳(1984m)まで行こうと思いましたが、出発から標高が100mちょっと上がった稜線(白雲分岐2130m)に出ただけで、暴風雨となり、風に飛ばされた小石が顔にパチパチと当たり、突風の時は耐風姿勢を取らなければ体を持って行かれそうになりました。

風速は20m/s以上あったと思います。

気温は低かったですが、ぶるっとくるほどでもありませんでした。

カッパのフードをきつく締めても顔から雨が入り込んで、頭や上半身が濡れ始める有様となり、北海岳手前で引き返し、白雲分岐から銀泉台へエスケープすることにしました。

赤岳(2078m)を通過し、標高が2000mを切ったころから急に風はおさまり始め、駒草平(1840m)に着いたころには、嘘のように風はおさまり銀泉台まで無事下山しました。

基本的なことですが、悪天候に見舞われたらとにかく標高を下げることです。

この時の天気図を作成しました。

H15.8.8天気図

台風はけっこう強めのやつでした。

この台風の影響で暴風雨にあったのか、寒冷前線の影響で暴風雨にあったのかは気象のプロではないのでなんとも言えませんが、両方とも影響したのではないかと思っています。

台風は列島を縦断しながら二日後に北海道に達し、この低気圧と合体するような感じで温帯低気圧に変わり東に抜けて行きました。

この時の旭川市(標高120m)の天気は南南東の風4.4m/s、雨、気温23.5℃です。

 

過去の死亡遭難事故が起こった時の天気図

以前に登山と日本百名山の光と影でも触れた事故ですが、台風や前線の通過の時に起きた北海道の山岳遭難の例を3つ上げます。

いずれも暴風雨の中で起きた低体温などによる死亡事故です。

事故発生の時の天気図を作成したので、事故概要と天気図を見ながら検討します。

事例1

平成11年9月25日、台風通過直後にツアー登山の団体が後方羊蹄山(1898m)に登り、山頂付近で50代と60代の女性2名が行動不能になり、疲労凍死で亡くなっています。

この日の天気図です。

H11.9.25天気図

このあと台風は東へ抜け温帯低気圧に変わりますが、台風通過後も北海道付近は等圧線が混んでおり、後方羊蹄山付近では西または北西寄りの強風が吹いていたと思われます。

北海道の2000m級の山では9月中下旬に初冠雪します。

山頂付近はかなり寒かったのではないでしょうか。

この時、麓の倶知安町(標高176m)の天気は西の風13m/s、雨、気温20.1℃です。

事例2

平成14年7月11日、台風接近中にツアー登山の団体がトムラウシ温泉側から出発、トムラウシ山(2141m)に登り、山頂付近で50代の女性1名が行動不能となり、疲労凍死で亡くなっています。

同じ日、旭岳から縦走してきた、個人のパーティーがトムラウシ山を経て、トムラウシ温泉へ下山中、山頂付近で50代の女性1名が行動不能となり、病死しています。

この日の天気図です。

H14.7.11天気図

このあと台風は釧路付近に上陸、翌日オホーツク海に抜け温帯低気圧に変わりますが、トムラウシ山付近では東寄りの強風から台風の通過に伴い北寄りの強風が吹いていたと思われます。

7月上旬の大雪山はまだ雪渓や残雪がけっこうあり、天気が良くても決して温かくはありません。

台風接近中で2000m以上の山頂付近では想像を絶する状況だったと思います。

この時の旭川市(標高120m)の天気は東南東の風2.5m/s、雨、気温12.3℃です

事例3

平成21年7月16日、前線を伴う低気圧が通過直後、旭岳から縦走してきた、ツアー登山の団体がトムラウシ山本峰を迂回し、トムラウシ温泉へ下山中、

北沼(標高2010m)、南沼(標高1870m)、トムラウシ公園(標高1800m)前トム平(標高1740m)

などで60代の男性2名、50代~60代の女性6名と、個人で単独行をしていた60代の男性、計9名が行動不能となり、疲労凍死で亡くなっています。

また同じ日、美瑛岳(2052m)でもツアー登山に参加していた60代の女性1名が行動不能となり疲労凍死しています。

この日の天気図です。

H21.7.16天気図

前線通過後もトムラウシ山や美瑛岳では北西寄りの強風が吹いていたと思われます。

この時の旭川市(標高120m)の天気は西の風6.5m/s、くもり、気温17.1℃、

上富良野(標高220m)の天気は北西の風3.4m/s、雨、気温17.3℃です。

高山地帯では台風や発達した低気圧が通過する前後は暴風雨になります。

通常このような天気図のときは入山しないのが常識です。

入山中なら行動せずに山小屋やテントで停滞(悪天待機)するか、エスケープルートから下山するか判断することになりますが、リーダーが判断を誤ると取り返しのつかないことになってしまいます。

3例の共通点

どの例を取っても、麓の天気は良くはないですが、切迫した危険を感じるほどでもないことがわかります。

しかし、

・標高が100m上がれば気温は約0.6℃下がる

・風速が1m上がれば体感温度は約1℃下がる

と言われていますので、事故現場がどんな状況だったのかは、おおよそ想像できます。

高山帯、風通しの良い稜線などは下界では想像できない雨や風が吹き荒れます。

3例ともに出発を決断したものの、思うように悪天候が収まらず、先に体力を消耗した者が行動不能に陥ったとされています。

出発前の気象判断のミスが事故の大きな原因のひとつであることは客観的に疑いのないところだと思います。

低気圧や前線の通過が見込まれる時、台風の接近前や通過直後などは登山計画を中止し、天候が回復してから入山しなければなりません。

遭難を免れても、景色の見えない雨の中の登山を好む人もいないでしょう。

天気の情報収集

縦走の日程が長い時ほど、天気の情報収集は欠かせません。

携帯、スマホで天気図を見ること、携帯圏外ならAMラジオの気象通報を聞いて天気図を書いて自分で予報する力も単独行登山者やパーティーのリーダーには必要な能力です。

夏山における低体温症による疲労凍死は、暴風雨、衣類の水濡れ、疲労・不眠・栄養不足などによる体力低下(特に高齢者)、テント・ツエルト・防寒ウエアの不携帯などの条件が重なり発生しています。

すべての登山者は過去の事故事例を教訓に安全な登山を目指さなければなりません。

看板(下)

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平成28年8月



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プロフィール



初登山は雌阿寒岳。

学生時代に山岳部リーダーを経験し、阿寒、知床、大雪を中心に活動。

以来、北海道の山を舞台にオールシーズン単独行にこだわり続け30年。

現在は主に日高山脈をフィールドにしている山オタクのアマチュア登山者。



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