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実験!期限切れ熊よけスプレーは使えるのか?

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実験!期限切れ熊よけスプレーは使えるのか?

ほとんどの熊よけスプレーの有効期限は3~5年程度です。

有効期限が切れた熊よけスプレーについては、中身の成分に問題がなくても、ガス圧が下がってしまうことで噴射距離が短くなり、実質使用不可能になると言われています。

では、何年経過したらどのくらい噴射距離が短くなるのでしょうか?

今回は製造から約8年(期限が切れてから約4年)経過した「カウンターアソールトストロンガーCA290」の噴射テストを行い、噴射距離と人体への影響について検証します。



驚愕の実験経過~涙と咳と鼻水と・・

使用した熊よけスプレー

使用したのは、カウンターアソールトストロンガーCA290です。

主要スペックは以下のとおりです。

  • 内容量 290g
  • 噴射距離 10.5m
  • 噴射時間 9.2秒
  • スコビル値(刺激度) 約32万SHU
  • 油性
  • 有効期限 4年
  • 価格 13000円程度

底に有効期限が表示されていて、「2014年12月まで」であることがわかります。

製造年月については、表示がありません。

このスプレーを購入したのは2011年7月ですが、有効期限が4年であることを考えると、製造年月は「2010年12月ころ」と思われます。

実験を行ったのは2018年8月なので、このスプレーは製造から「7年8カ月」、期限が切れてから「3年8カ月」経過していることがわかります。

熊よけスプレーは保管状況の良し悪しが経年劣化に影響すると言われています。

このスプレーの保管状況ですが、普段は常温の部屋に保管しており、購入から7年間で70回ほど登山に携帯し、噴射は一度もしていません。

事前準備と注意事項

熊よけスプレーを人間が浴びた場合、一時的ですが、激しい目の痛み、咳き込み、鼻水などで歩行が困難になり、思考も低下します。

大量に浴びた場合や、粘膜の弱い人は、治療や入院が必要になることがあります。

熊よけスプレーはトウガラシを主成分としていて、対人用催涙スプレーにも同じ成分が使用されます。

しかし、対人用催涙スプレーはスコビル値(刺激度)が多くても18万SHU程度で、カウンターアソールトにあっては32万SHUもあり、グリズリー、北極熊、象、バッファローなどにも効果があるほど強烈なスプレーです。

実験場所は屋内などの閉所で行うと、スプレーの成分がいつまでも残留し、効果が過剰になりますので、必ず屋外で行い、郊外や山林など、一般の通行人が来ない場所を選びます。

通行人がいた場合、風向きによっては通行人に被害が出る可能性がありますし、実験者が悶絶しているところを目撃されると事件や事故と間違われる可能性もあります。

今回は、郊外にある山林の空き地を利用し、万一、人が来ないよう、雨が降りそうな日の早朝に行うことにしました。

また、噴射距離が確認しやすいよう、風が無風の日を選びました。

実験前にバケツにたっぷりの水を用意し、目が見えずらくなっても実験者がバケツまでたどり着けるよう、実験者のすぐ近くにバケツを置きます。

撮影後に画像から噴射距離がわかるよう、あらかじめ背景の支柱の間隔の長さを測っておきます。

支柱と距離

支柱の幅を測ったところ、1.5mの等間隔であることがわかりましたので、この支柱を噴射距離の測定に利用することにしました。

噴射前に本体の重量を計測したところ、「380g」でした。

噴射後に再度本体の重量を計り、何グラム消費したのかを確認することとします。

噴射実験の段取りですが、無風であることと、通行人がいないことを確認した後、実験者(筆者)が約1秒間スプレーを噴射します。

噴射後、スプレーの飛沫が消失してしまう前に、実験者が飛沫の中に突入し、人体に対する影響を確認します。

実験時の天気は、くもり、無風、気温24度でした。

※なお、筆者は船員時代に、催涙スプレーや催涙ガスで訓練した経験があり、危険性や対処法をよく理解しているので、今回人体実験を安全に行うことができました。

周到な準備と知識がないまま、このような実験を行うのは極めて危険ですので、くれぐれも安易に行わないようにして下さい。



実射試験の結果

撮影は毎秒7コマの連射で撮影しましたので、連続画像を掲載します。

画像後半は、実験者がスプレーの飛沫の中に突入した場面です。

①噴射開始。

⑨噴射約1秒後。

⑩突入開始。

⑫突入限界。

噴射距離テストの結果、画像⑨で飛沫の先端が4.5m付近まで到達しました。

1秒以上噴射した場合、若干距離が伸びるのではないかと思われますが、スペックにある10.5mには到底及ばないと考えられます。

新品のスプレーを同じ条件で噴射して比較しなければ正確なことは言えませんが、4.5m付近までしか到達しなかった原因については、経年劣化でガス圧が低下したためと思われます。

噴射後、スプレーの重量を計ったところ、「318g」でしたので、約1秒間の噴射で「62g」消費したことになります。

スプレーの内容量は「290g」です。

仮に毎秒62gで全量消費したとすると、噴射時間は「4.7秒」程度ということになります。

実際には噴射しながらガス圧も下がっていきますので、噴射時間はこれより伸びるはずです。(スペックでは「9.2秒」です)

人体への影響~スプレーを浴びた人はどうなるのか

突入後の人体への影響については以下のとおりです。

  • 突入~5分後 
  • 冷水で何度も顔を洗う。目および顔面の激しい痛みと焼けるような熱さ、涙、鼻水、喉の痛み、咳き込みで歩行困難。
  • 突入15分後 
  • 喉の痛みと咳き込み止まる。目および顔面の激しい痛みと焼けるような熱さはやや消退、歩行可能。
  • 突入25分後 
  • 浴室でシャワーを浴びる。目の痛みと熱さはほぼなくなるが、顔面の痛みと熱さは継続。鼻水は止まらない。
  • 突入40分後 
  • 顔面の痛みと熱さはほぼなくなる。くしゃみと鼻水はまだ残るが日常生活に支障がないレベル。
  • 突入50分後 
  • 鼻うがいを行う。くしゃみと鼻水が止まる。

この実験で1番つらかった症状は、目の痛みです。

始めの5分は、その場に座り込むしか出来なくなります。

熊よけスプレーは目の粘膜への影響が甚大であることがわかります。

本番で使用する場合は、絶対に自分や仲間にスプレーの飛沫がかからないよう風向きに十分注意しなければなりません。

スプレーを目に浴びてしまった場合、熊から逃げることはできなくなります。

充血した目の粘膜(突入25分後)

まとめ~カウンターアソールトストロンガーは期限切れ後も使用できる

今回の実験で、製造から約8年経過したカウンターアソールトストロンガーの噴射距離は約4.5mでした。

熊よけスプレーの使用法については、熊が約5mに接近した時に熊の顔面に向けて全量噴射するのが基本的な使い方です。

約4.5m噴射できましたので使用できなくもありませんが、横風がある場合、更に噴射距離は落ちますし、これ以上ガス圧が下がってしまうと実戦での使用は困難と思われます。

刺激成分の劣化の有無については、実際に熊にスプレーしてみなければ、何とも言えないところです。

スプレー本体にある説明書によれば、「45分経過しても痛みがとれない場合は専門医に相談して下さい」とあります。

言いかえれば、45分以内で回復できるのかが、ひとつの見極めということになります。

今回の実験では、スプレーを浴びてから40分後には目の痛みがなくなっていますので、ほぼ説明書の想定どおりであることがわかります。

このことについては、刺激成分が極端に劣化していないと判断する材料のひとつになると思います。

以上の実験結果から、製造から約8年経過したカウンターアソールトストロンガーは、ぎりぎり実用レベルだと筆者は判断しました。

(※実験でガスを消費したので、次回の噴射は4.5mより短くなることが予想されることから、実験後このスプレーは現役を引退させることにしました)

熊よけスプレーは10年くらいは使用できるという意見があります。

筆者は以前、購入から10年経過した「ガードアラスカ」(有効期限3年)の噴射実験をしましたが、目測で約4~5mは飛びました。

これらのことと、今回の実験結果から判断すると、熊よけスプレーは有効期限が切れても使用できる場合が多いと考えられます。

熊よけスプレーの有効期限は各社で異なりますが、概ね3年~5年です。

自己判断になりますが、実際には5年~最大で10年程度は使用できるのではないかと思われます。

経年劣化でガス圧が下がってしまうことを考えると、なるべく噴射距離の長い商品の方が有効期限が切れても必要な噴射距離が確保できている可能性は高くなるでしょう。

そういう意味では、噴射距離が最長と言われている、カウンターアソールトストロンガーは値段は割高ですが、5年~10年使用できればランニングコスト的には安く上がると言えそうです。

なお、古くなった熊よけスプレーは、パッキンの劣化や缶の腐食などで液漏れなどが発生する場合もありますので注意が必要です。

熊よけスプレーは実戦でほとんど使われることはありませんが、いざという時には確実に噴射できなければなりません。

価格が高いということもあり、3~5年の買い替えはもったいないと考えている登山者も多いと思います。

買い替え時期などについては、この実験結果を参考に判断していただければと思います。


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プロフィール

フリーライター。元船員。
学生時代に山岳部リーダーを経験し、阿寒、知床、大雪を中心に活動。
以来、北海道の山をオールシーズン、単独行にこだわり続け30年。
現在は主に日高山脈をフィールドにしている山オタクのライター。



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