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元山岳部部長の登山講座

実験!期限切れ熊よけスプレーは使えるのか?

実験!期限切れ熊よけスプレーは使えるのか?

ほとんどの熊よけスプレーの有効期限は3~4年程度です。

有効期限が切れた熊よけスプレーについては、中身の成分に問題がなくても、ガス圧が下がってしまうことで、噴射距離が短くなり、実質使用不可能になると言われています。

では、何年経過したらどのくらい噴射距離が短くなるのでしょうか?

今回は製造から約8年(期限が切れてから約4年)経過した「カウンターアソールトストロンガーCA290」の噴射テストを行い、噴射距離と人体への影響について検証してみます。




驚愕の実験経過~涙と咳と鼻水と・・・

使用した熊よけスプレー

カウンターアソールトには、通常タイプのCA230と、大容量のCA290(ストロンガー)の2種類ありますが、今回使用したのは、CA290(ストロンガー)の方です。

CA290(ストロンガー)の購入当時の主要スペックは以下のとおりです。(※2018年現在、メーカーの説明によるスペックは噴射距離12.2m、噴射時間8秒に変更されています。)

  • 内容量 290g
  • 噴射距離 10.5m
  • 噴射時間 9.2秒
  • スコビル値(刺激度) 約320万SHU
  • 有効期限 4年
  • 価格 13000円程度

左:CA230、右CA290(ストロンガー)

アマゾン 熊撃退スプレー カウンターアソールトCA230 ホルスター付
アマゾン 熊撃退スプレー カウンターアソールト・ストロンガーCA290 ホルスター付

底に有効期限が表示されていて、「2014年12月まで」であることがわかります。

製造年月については、表示がありません。

このスプレーを購入したのは2011年7月ですが、有効期限が4年であることを考えると、製造年月は「2010年12月ころ」と思われます。

実験を行ったのは2018年8月なので、このスプレーは製造から「7年8カ月」、期限が切れてから「3年8カ月」経過していることがわかります。

熊よけスプレーは保管状況の良し悪しが経年劣化に影響すると言われています。

このスプレーの保管状況ですが、普段は常温の部屋に保管しており、購入から7年間で70回ほど登山に携帯し、噴射は一度もしていません。

事前準備と注意事項

熊よけスプレーを人間が浴びた場合、一時的ですが、激しい目の痛み、咳き込み、鼻水などで歩行が困難になり、思考も低下します。

大量に浴びた場合や、粘膜の弱い人は、治療や入院が必要になることがあります。

熊よけスプレーは、対人用催涙スプレーと同じトウガラシ成分で出来ていますが、ほとんどの場合、熊よけスプレーの方が成分濃度が高く設定されています。

実験場所は屋内などの閉所で行うと、スプレーの成分がいつまでも残留し、効果が過剰になりますので、必ず屋外で行い、郊外や山林など、一般の通行人が来ない場所を選びます。

通行人がいた場合、風向きによっては通行人に被害が出る可能性がありますし、実験者が悶絶しているところを目撃されると事件や事故と間違われる可能性もあります。

今回は、郊外にある山林の空き地を利用し、万一、人が来ないよう、雨が降りそうな日の早朝に行うことにしました。

また、噴射距離が確認しやすいよう、風が無風の日を選びました。

実験前にバケツにたっぷりの水を用意し、目が見えずらくなっても実験者がバケツまでたどり着けるよう、実験者のすぐ近くにバケツを置きます。

撮影後に画像から噴射距離がわかるよう、あらかじめ背景の支柱の間隔の長さを測っておきます。

支柱と距離

支柱の幅を測ったところ、1.5mの等間隔であることがわかりましたので、この支柱を噴射距離の測定に利用することにしました。

噴射前に本体の重量を計測したところ、「380g」でした。

噴射後に再度本体の重量を計り、何グラム消費したのかを確認することとします。

噴射実験の段取りですが、無風であることと、通行人がいないことを確認した後、実験者(筆者)が約1秒間スプレーを噴射します。

噴射後、スプレーの飛沫が消失してしまう前に、実験者が飛沫の中に突入し、人体に対する影響を確認します。

実験時の天気は、くもり、無風、気温24度でした。

※なお、筆者は船員時代に、催涙スプレーや催涙ガスで訓練した経験があり、危険性や対処法をよく理解しているので、今回人体実験を安全に行うことができました。

周到な準備と知識がないまま、このような実験を行うのは極めて危険ですので、くれぐれも安易に行わないようにして下さい。



実射試験の結果

撮影は毎秒7コマの連射で撮影しましたので、連続画像を掲載します。

画像後半は、実験者がスプレーの飛沫の中に突入した場面です。

①噴射開始。

⑨噴射約1秒後。

⑩突入開始。

⑫突入限界。

噴射距離テストの結果、画像⑨で飛沫の先端が4.5m付近まで到達しました。

1秒以上噴射した場合、徐々に距離が伸びていくことが予想されますが、スペックにある10.5mには及ばないのではないかと思われます。

新品のスプレーを同じ条件で噴射して比較しなければ正確なことは言えませんが、4.5m付近までしか到達しなかった原因については、経年劣化でガス圧が低下した可能性が考えられます。

下の画像は、アメリカの省庁間グリズリーベア委員会(IGBC)とモンタナ州ミズーラ技術開発センター(MTDC)が実施した米国4大メーカーの熊よけスプレーの噴射実験の様子で、熊よけスプレーメーカーUDAP社のプレゼン用資料からの抜粋です。(出典:A presentation by UDAP Industries,inc. and Crowley Fleck PLLP )

上から順に「カウンターアソールトCA230」「カウンターアソールトCA290」「UDAP 7.9オンス(225g)」「フロンティアーズマン(グレード不明)」「ガードアラスカ9オンス(255g)」の5種類の米国製熊よけスプレーについて、噴射0.836秒後の様子が撮影されています。

資料には、UDAPの噴射距離「18フィート(約5.5m)」のみが記載されており、他のスプレーの噴射距離について説明がありませんでしたので、UDAPの噴射距離を基準に、画像からわかる範囲で他のスプレーの到達範囲を計測しました。

噴射0.836秒後のスプレーの広がりの様子。上から2番目がカウンターアソールトCA290。

計測した結果、噴射0.836秒後のカウンターアソールトCA290の噴射距離は「約4.7m」であることがわかりましたが、仮に噴射スピードが落ちなかったとして1秒間噴射すれば、噴射距離は約5.6mになります。(スプレーは噴射後徐々にスピードを弱めますので実際には、5.6mには届かないと思われます。)

この資料と今回の実験結果を比較する限り、新品との差は1秒間の噴射で1m程度短くなったことが予想され、その原因については、やはりガス圧の低下によるものなのではないかと思います。

また、スプレーの消費量についてですが、噴射後のスプレーの重量を計ったところ、「318g」でしたので、約1秒間の噴射で「62g」消費したことになります。

スプレーの内容量は「290g」です。

仮に毎秒62gで全量消費したとすると、噴射時間は「4.7秒」程度ということになります。

実際には噴射しながらガス圧も下がっていきますので、噴射時間はこれより伸びるはずです。(スペックでは「9.2秒」です)

人体への影響~スプレーを浴びた人はどうなるのか

突入後の人体への影響については以下のとおりです。

  • 突入~5分後 
  • 冷水で何度も顔を洗う。目および顔面の激しい痛みと焼けるような熱さ、涙、鼻水、喉の痛み、咳き込みで歩行困難。
  • 突入15分後 
  • 喉の痛みと咳き込み止まる。目および顔面の激しい痛みと焼けるような熱さはやや消退、歩行可能。
  • 突入25分後 
  • 浴室でシャワーを浴びる。目の痛みと熱さはほぼなくなるが、顔面の痛みと熱さは継続。鼻水は止まらない。
  • 突入40分後 
  • 顔面の痛みと熱さはほぼなくなる。くしゃみと鼻水はまだ残るが日常生活に支障がないレベル。
  • 突入50分後 
  • 鼻うがいを行う。くしゃみと鼻水が止まる。

この実験で1番つらかった症状は、目の痛みです。

最初の5分間は、その場に座り込むしか出来なくなります。

熊よけスプレーは目の粘膜への影響が甚大であることがわかります。

本番で使用する場合は、やむを得ない場合を除き、自分や仲間にスプレーの飛沫がかからないよう風向きに十分注意しなければなりません。

充血した目の粘膜(突入25分後)

まとめ~カウンターアソールトストロンガーは期限切れ後も使用できる場合がある

今回の実験で、製造から約8年経過したカウンターアソールトストロンガーの噴射距離は、1秒の噴射で約4.5mでした。

熊よけスプレーの使用法については、熊が4~5mに接近した時に熊の顔面に向けて噴射するのが基本的な使い方です。

約4.5m噴射できましたので、使用できなくもありませんが、横風がある場合、更に噴射距離は落ちますし、これ以上ガス圧が下がってしまうと実戦での使用は困難と思われます。

刺激成分の劣化の有無については、実際に熊にスプレーしてみなければ、何とも言えないところです。

スプレー本体にある説明書によれば、「45分経過しても痛みがとれない場合は専門医に相談して下さい」とあります。

言いかえれば、痛みは最大45分程度は継続するとも読み取れますので、回復するまでの時間が、ひとつの見極めになると思います。

今回の実験では、スプレーを浴びてから40分後には目の痛みがなくなっていますので、ほぼ説明書の想定どおりであることがわかります。

このことについては、刺激成分が極端に劣化していないと判断する材料のひとつになると思います。

以上の実験結果から、製造から約8年経過したカウンターアソールトストロンガーは、ぎりぎり実用レベルだと筆者は判断しました。

(※実験でガスを消費したので、次回の噴射は更に短くなることが予想されることから、実験後このスプレーは現役を引退させることにしました。)

熊よけスプレーは10年くらいは使用できるという意見もあります。

筆者は以前、購入から10年経過した「ガードアラスカ」(有効期限3年)の噴射実験をしましたが、目測で約4~5mは飛びました。

これらのことと、今回の実験結果から判断すると、熊よけスプレーは有効期限が切れても使用できる場合がそれなりにありそうです。

熊よけスプレーの有効期限は概ね3~4年ですが、保存状態が良ければ、実際には5年~最大で10年程度は使用できる場合があるのではないかと思います。

なお、古くなった熊よけスプレーは、パッキンの劣化や缶の腐食などで液漏れなどが発生する場合もありますので注意が必要です。

熊よけスプレーを実際に使用する機会はほとんどないと思いますが、いざという時には確実に噴射できなければなりません。

価格が高いということもあり、3~4年の買い替えはもったいないと考えている登山者も多いと思います。

買い替え時期などについては、この実験結果を参考に判断していただければと思います。

アマゾン カウンターアソールト・ストロンガーCA290ホルスター付






プロフィール

フリーランサー。元船員(航海士)
学生時代に山岳部チーフリーダーを経験し、阿寒、知床、大雪を中心に活動。
以来、北海道の山をオールシーズン、単独行にこだわり続け35年。
現在は主に日高山脈をフィールドにしている山オタクのライター。

※他サイトにおいて元山岳部部長を名乗る個人・団体が存在しますが、それらは当サイトとは一切関係ありませんのでご了承ください。



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