27Aug
今回は、マダニが媒介する感染症について説明します。
平成28年(2016年)8月、道内の男性がマダニに咬まれ、ダニ媒介性脳炎で死亡したことが報じられ、保健所が注意を呼びかけました。
マダニについては一度記事を書いていますが、マダニが媒介する感染症は北海道においてはほとんど耳にした事はなく、筆者の周囲でもマダニで病気になった話は一度も聞いたことがありませんでしたので、前回記事(登山とダニ対策~スプレーか?服装か?)では詳しく書きませんでした。
今回、死亡者が発生してしまったとのことですから、マダニが媒介する感染症と危険性について国立感染症研究所の記事を参考にしながらマダニの危険性をまとめました。
※平成29年5月追記:北海道大学で札幌市内の野生動物(野ネズミやアライグマ84匹)を調査したところ、12%がダニ媒介性脳炎ウイルスに感染していたとのことです。今後、汚染が拡散していくかも知れません。注意しましょう。
※平成29年7月追記:道内の男性がマダニによるダニ媒介性脳炎で死亡しました。昨年に続き2人目の死亡者です。汚染地域の拡大が心配です。注意しましょう。
※平成29年8月追記:道内の男性がマダニによるダニ媒介性脳炎に感染し入院しました。感染はこれで4例目です。急激に汚染が拡大しているようです。
マダニが媒介する感染症
マダニが媒介する感染症は何種類かありますが、今回発生したダニ媒介性脳炎のほか代表的なものにライム病、SFTS(重症熱性血小板減少症候群)、日本紅斑熱がありますので、この4つについて書いていきます。
ダニ媒介性脳炎
この病気は日本では平成5年に北海道で1例発生していますが死亡には至っておりません。
このマダニ媒介性脳炎は数種類ありますが、ロシア春夏脳炎と中部ヨーロッパ脳炎という2つの脳炎が多いとされています。
また、ロシア春夏脳炎ウイルスが道南地域の犬に分布していることが判明しています。
国内での感染例は少ないですが、ロシア春夏脳炎の場合、感染すると潜伏期間は7~14日で、その後頭痛・発熱・悪心・嘔吐が見られ、精神錯乱・昏睡・痙攣、麻痺などの症状が現れることもあり、致死率は30%とあります。
また、現在のところ国内では有効なワクチンはないとされています。
ライム病
この病気は昭和61年に国内で初めて確認され、現在まで数百人が感染しています。
詳しい数字は出ていませんが、年間に10数名が感染しています。
また、この病気は本州中部以北、特に北海道と長野県で多いようです。
感染すると、マダニに咬まれた部分に赤い紅斑ができ、紅斑は円形に徐々に大きくなり、数日から数週間現れます。
筋肉痛、関節痛、頭痛、発熱、悪寒、倦怠感など、インフルエンザに似た症状を伴うこともあります。
病原体が全身にまわると、皮膚、神経、眼、心疾患、関節炎、筋肉炎など様々な症状が出るとされています。
感染から数カ月~数年して慢性化すると、重度の皮膚症状、関節炎などになるとされていますが、日本で慢性化した例は現在のところないようです。
致死率については不明です。
ライム病についても現在のところ、国内では有効なワクチンはないとされています。
SFTS(重症熱性血小板減少症候群)
この病気は平成25年に初めて感染者が確認され、現在まで203名が感染し、そのうち48名が死亡しています。
年間70名程度が感染し、致死率は約24%になります。
また、この病気は西日本に多く、関東以北では報告例がありません。
感染すると6日~2週間、潜伏期間があり、その後、発熱、嘔吐、下痢などが現れ、重症患者は発熱、出血症状の後、死亡に至ります。
SFTSは現在のところ、有効なワクチンは開発されていません。
日本紅斑熱
この病気は昭和59年に国内ではじめて感染者が確認されました。
感染者数は平成7年以降、年間40名ほどの感染者が確認されています。
死亡者は年間5名以下で致死率は約1%です。
この病気の患者は千葉県以西となっており、関西、四国、九州で多く感染者が出ています。
病原体を持ったマダニに咬まれると、2~8日で頭痛や発熱、倦怠感、発疹が現れます。
ワクチンはなく、感染後早期に抗菌薬を投与することが有効とされています。
以上がマダニによる感染症についての国内の現状です。
今回報道で騒がれたダニ媒介性脳炎は、現在のところ数字で見る限り、感染する確率は極めて少なく、北日本であればライム病の方が感染する可能性が高く、西日本であればSFTSや日本紅斑熱に感染する可能性が高いと推測できます。
しかし、どの感染症にしても、今後汚染地域が拡大していかないとは限りません。
用心に越したことはないでしょう。
北海道内に限って言えば、登山中に発生し得る動物による命にかかわる問題(スズメバチ、エキノコックス虫、ヒグマの襲撃)と比較すれば、マダニによる感染症で死亡に至るリスクは、現在のところはそれほどでもないと言えます。
しかし、今後の動向には注意が必要です。
マダニに咬まれて感染症が不安な方は皮膚科を受診するか、受診前に自分でマダニを取った時は、マダニを捨てずに、病院に持参して受診すると検査がスムーズにいきます。
ダニ対策
ダニ対策として、蚊取り線香、虫よけスプレーは効果がなく、今のところ、つるつるしたヤッケやウインドブレーカーなどを着て、ダニが付きにくくするのが一番有効な方法です。
ディートやイカリジンという成分が入ってる虫よけスプレーは、マダニへの忌避効果があるとされていますが、マダニが多い場所で、どの程度効果があるのかは、今後検証していく必要があります。
来春以降、ディート、イカリジン入りのスプレーをたっぷり使って、ダニの多い山に出かけて効果を検証できたら、また報告したいと思います。(→検証しました。詳しくは「実験!高濃度虫よけスプレーはマダニに効くのか?」を読んでみて下さい。)
ディートが入っている虫よけスプレーは、アレルギーや肌荒れなど起こすことがあります。
肌が弱い人や子供などへの使用は注意して下さい。
ディートとイカリジン
余談ですが「ディート」はアメリカ陸軍が大戦中のジャングル戦経験から戦後の昭和21年に開発したものです。
米軍にとって、ダニや蚊はよほど消耗を強いられたのでしょう。
濃度が濃いものほど効果が持続しますが、その分毒性も高いようです。
国内では濃度12%以内のものしか製造されいませんでしたが、平成28年以降、上限が濃度30%まで引き上げられました。(外国製のものは、それ以上濃度の濃いものがあります。)
また、ディート同様、マダニに効果があるとされる「イカリジン」という成分を含んだスプレーが新たに承認されました。(詳しくは「虫よけスプレーに新事情!登山の虫よけ考察」を読んでみて下さい。)
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筆者は以前、札幌の登山用品店「秀岳荘」で「米軍が使用している虫よけ」と書いてある物を見たことがあります。
もう売っていませんが、今から思えばそれはアメリカ兵が使うかなり濃度の濃いディートだったのかも知れません。
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