25Jun
虫よけスプレーに新事情!登山の虫よけ考察
登山ではハッカ油やハーブなど、天然成分系の虫よけスプレーを使用する人が多くいます。
ハッカ油の威力は強力で、スプレーすると蚊やブヨは瞬時に離れていきます。
一方で市販の虫よけスプレーは、効果がないわけではありませんが、ハッカ油などと比べると、穏やかに効いているという印象です。
登山では汗を大量にかきますので、ハッカ油にしても市販の虫よけスプレーにしても汗で成分が流れてしまいますので虫が多い時には何度もスプレーしなければなりません。
登山中にスプレーする頻度が同じなら、効果のわかりやすいハッカ油などが好まれるということなのでしょう。
しかし、市販の虫よけスプレーも事情が変わりました。
平成26年(2014年)にデング熱(蚊によってウイルスを媒介)の国内感染が発生したことを受けてか、平成27年(2015年)には虫よけの新成分イカリジンの製造販売が承認され、次いで平成28年(2016年)には厚労省から虫よけスプレーの濃度を高めると共に、高濃度スプレーの販売承認審査を迅速に行うという主旨の文書が出され、これにより、強化版の虫よけスプレー(ディート30%、イカリジン15%)が順次店頭に並び始めました。
濃度が濃くなったことによって、蚊やブヨへの虫よけ効果が上がったはずですし、また、登山のマダニ対策ではほぼ意味がなかった虫よけスプレーも効果が期待できるのかも知れません。
今回は、新登場の強化版虫よけスプレーが、登山の虫よけ対策に画期的な進化をもたらすのかどうかについて考察していきます。
強化版虫よけスプレー「ディート30%」と新成分「イカリジン15%」
今までの虫よけスプレーはディート12%
虫よけスプレーの成分として、従来から「ディート」という薬剤が使用されています。
「ディート」は米軍がジャングル戦の経験から大戦後に開発した虫よけ剤で、蚊、ブヨ、アブ、ノミ、イエダニ、マダニ、サシバエ、南京虫、ツツガムシなどに効果があります。
ディートは肌にアレルギーを起こしたり、濃度が高い場合、プラスチックなどを変質させたりします。
外国にはディートの濃度が高い商品がありますが、日本国内では濃度が12%までの製品しか認められていませんでした。
現在では濃度30%までの商品が認められるようになり、各社からディート30%の強化版の虫よけスプレーが続々登場し始めました。
なお、ディート12%は生後6カ月未満、ディート30%は12歳未満の児童には使用できないとされています。
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新成分「イカリジン」とは
イカリジンはディートと同等の効果がある虫よけ剤として、1980年代にドイツで開発されました。
日本では平成28年(2016年)に初めてイカリジンを成分とする虫よけスプレーが販売されました。
各社から濃度5%のものから最高15%までの商品が販売されています。
イカリジンは、ディートと同等かそれ以上の虫よけ効果があるにもかかわらず、肌に優しいというのが特徴で、使用年齢の制限はありません。
弱点としては、忌避効果がある虫が、蚊、ブヨ、アブ、マダニの4種類と限定されていますので、ディートより対応する虫の種類が少ないということです。
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ディートとイカリジンどちらが強力か?
「ディート30%」と「イカリジン15%」はどちらが強力なのか?これが分からなければ選びようがありません。
調べてみたところ、「Pdma 独立行政法人医薬品医療機器総合機構」という機関があり、ここでは医薬品の審査などを行っています。
Pdmaの公式HPにはイカリジン5%の虫よけスプレーが承認申請された時の審査結果の文書が掲載されています。
そこには、こう書かれています。
抜粋~機構は、本剤(イカリジン5%)の適用害虫のうち、蚊成虫、ブヨ(ブユ)に対しては、いずれも本剤を用いた2施設の実地効力試験、マダニに対しては本剤を用いた2施設の人腕を用いた忌避効力試験において、塗布後6時間まで10w/v%ディート製剤(10w/v%:100ml中に10gディートが入っている)と同程度に100%の忌避率が得られていることから、本成分5w/v%である本剤(エアゾール剤)のこれらの害虫に対する有効性が確認できたと判断した。~
出典:Pmda独立行政法人医薬品医療機器総合機構HP 審査報告書・申請資料概要「独立行政法人医薬品医療機器総合機構 審査報告書(H27.2.18)」
要約すると、「イカリジン5%とディート10%の薬剤を蚊、ブヨ、マダニに試してみたところ、どちらも6時間後まで100%の忌避効果があった」ということです。
これは、「イカリジン5%=ディート10%」と考えて良いひとつの根拠になります。
薬剤の濃度と忌避効果が比例するとすれば、イカリジン15%はディート30%と同等ということになります。
ディート、イカリジン、ハッカ油は虫にどう作用するのか?
虫よけ対策するうえで、虫よけのメカニズムについて知っておく必要があります。
蚊、ブヨ、マダニはヒトが発する二酸化炭素、体温、乳酸などを検知して近づくと言われています。
虫よけのメカニズムとしては、虫が嫌いな臭いを発して忌避する方法と虫の感覚器官を麻痺させてヒトだとわからなくする方法などがあります。
まず、ディートですが、現在のところ虫にどう作用しているのか詳しく解明されていません。
ディートの臭いを嫌っているという説と感覚器官を麻痺させているという説のどちらもあるようです。
次に、イカリジンですが、虫の感覚器官を麻痺させてヒトの位置がわからなくなるようです。
ハッカ油についてですが、ペパーミントやハーブと同様、虫が嫌う臭いということですので近寄らないということです。
イメージとしては、イカリジンは虫がヒトの前を素通りするのに対して、ハッカ油は虫があからさまにヒトを避けるといったところでしょうか。
登山に適した虫よけとして
蚊、ブヨ対策
登山における蚊とブヨ対策では、スプレー系のものは、成分が汗で流れてしまうので歩行中は定期的にスプレーすることを前提に考えなければなりません。
それらを考慮すると、忌避効果が強く、コンパクトで携帯性の良い物が適していると言えます。
現状ではハッカ油やハーブなどの天然系のスプレー(小ビン)が登山には適しています。
新登場の強化版虫よけスプレーですが、忌避効果や持続時間について実際の登山で試してみて、効果を比較する必要があります。
天然系スプレーより効果が高ければ、今後、登山者は強化版虫よけスプレーの方にシフトしていくのではないかと思います。
強化版虫よけスプレーを登山用とする場合、携帯性を考え、スプレー缶タイプではなく、小型のミストタイプが便利でしょう。
なお、スプレーではなく、蚊取り線香をぶら下げるという古典的な方法があります。
蚊取り線香は、虫よけ効果が高く、スプレー類のように成分が汗で流れるという心配がありませんので、スプレーの効果に不満がある場合は蚊取り線香を使用するか、スプレーと蚊取り線香を併用するのが良いでしょう。
マダニ対策
マダニについてですが、初夏や秋に多くなる傾向があります。
5~6月ころの笹やぶの中を歩くと、あっという間に数十匹が体に付いたりします。
マダニの多い場所を歩く場合、今のところ、虫よけスプレー、ハッカ油、蚊取り線香などはほとんど効果が感じられません。
薄いヤッケを着用するなど、服装に気をつけてマダニが体に付かないようにするのが現実的です。
ディート含有の虫よけスプレーは従来からマダニに効果があるとされていましたが、マダニの多い場所では気休め程度で効果がよくわかりませんでした。
新登場したディートやイカリジン含有の強化版虫よけスプレーですが、マダニの多い場所でも効果があるのかどうか、実際の登山で試してみる必要があります。
忌避効果が高かった場合は、これまでのように暑苦しいヤッケを着用することもなくなるのかも知れません。
強化版虫よけスプレーをマダニ対策で登山に携帯する場合も、スプレー缶タイプではなく、小型のミストタイプの方が携帯に便利でしょう。
まとめ
新登場の強化版虫よけスプレーについて、現状でわかる範囲の考察をしてみました。
論より証拠で、以後は実際に山で使用してみて判断することになります。
強化版虫よけスプレーが蚊やブヨ、マダニに対して実際にどうなのか、今シーズンの夏山で適宜実験することとし、その結果がわかり次第記事にアップすることにします。→(実験しました。「高濃度虫よけスプレー、ディート、イカリジンは登山に有効か?」)
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