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元山岳部部長の登山講座

懐かしい昭和の登山装備。60年前の「キスリング」

懐かしい昭和の登山装備~60年前の登山装備って?

筆者が本格的に登山を始めたのは高校山岳部時代からなのですが、高校生が最新の装備をすべてそろえることはできませんでしたので、山の諸先輩達から頂いた旧式の装備を使用していました。

今回は、倉庫に眠っている昭和の登山装備の一部を紹介します。




キスリング

昭和30年代製の大型キスリング

現在のような縦長型の大型ザックが主流になる前はみんなこれを背負って山を歩いていました。

このキスリングは昭和30年代に山の先輩が使用していたもので、筆者が昭和60年ころに譲ってもらい、革部分やショルダーベルトなど、若干の破損している部分を修理して使用していました。

ショルダーベルトの基部にある革には「Prima TOKYO Bergan」という刻印があります。

これは、戦前に東京で創業した「三共スポーツ商会」というスポーツ用品製造会社の「Prima Bergan(プリマベルガン)」というブランドです。

Prima TOKYO Berganの刻印

キスリングの材質は船舶で使用される木綿製の厚い帆布(はんぷ)で出来ていて、力のかかる場所には厚い革が使用されています。

とにかく丈夫で、譲り受けたころは購入から約30年経過していましたが、十分な強度を保っていました。

ショルダーベルトなど力がかかる場所には革が使用されている

同上

リッター数は今のザックでいうと、90~100L以上はあるのではないかと思います。

とにかく、でかくて、丈夫で、重たくて、パットもフレームも入ってないので型崩れしやすく、パッキングが超難しいしろものでした。

ただでさえ重いのに、汗を吸ったり雨に当たると、更に重さを増します。

パッキングは現在のザックでは背中の中央付近に重心を置きますが、キスリングはザックの重心を上の方に置かないとうまくバランスがとれませんでした。

パッキングの重心が上の方にあるため上体が振られます。

また、今のザックのようにウエストベルトはなく、ショルダーベルトだけでザックの重さを支えるので、肩にベルトが食い込み、腕がしびれ、首や肩がバリバリにコリました。

縦走後はいつも肩から鎖骨のあたりが擦れて、赤いあざができていました。

一様、腰に重さを分散できるよう、申し訳程度にザックの下部にベルト通しがついていましたが、これを使用している人はほとんどいませんでした。

下部のベルト通し

両サイドにある、大きなサイドポケットは非常に使い勝手が良くて、けっこう物が入ります。

行動中にすぐ使うものはここに入れました。

大容量のサイドポケット

サイドポケット内部

しかし、このサイドポケットがあることによってザックの形が横長になるため、狭い場所を通過する時や、やぶこぎの時などにはザックが引っ掛かり、上体を上下左右に振りながら歩行しなければならず、ただ、根性を鍛えているとしか思えない状況での登山を強いられることもありました。(駅の改札口はカニ歩きじゃないと通過できませんでした。このため、当時キスリングを背負った旅行者を世間では「カニ族」と呼んでいた)

背面にはピッケルホルダーがあります。

ピッケルホルダー上部

ピッケルホルダー下部

装着するとこんな感じになります。

ピッケルを装着した状況

同上

このホルダーは便利でしたが、ピッケルの先が枝に引っかかってよくバランスを崩しました。

枝が多い場所ではその都度、姿勢を低くして通過しなければならず、消耗させられました。

 

キスリングの歴史は昭和初期に遡ります。

昭和のはじめから昭和60年代まで使用されていましたが、昭和60年ころは既に現在のような縦長のザックが主流になっていて、キスリングは少数派となっていましたが、伝統ある山岳部では好んで使用していた感じがありました。

新人にパッキングの基本を叩き込むのにはちょうど良かったのだと思います。

キスリングは現在のザックとは違い、パッキングの良し悪しが顕著に出てしまうのが特徴です。

パッキングには熟練が必要で、パッキングが悪いと、背負った時のザックの重さは2倍以上にも感じられました。

登山者が背負っているキスリングの外観を見ただけで、パッキングの良し悪しがわかり、それは登山経験が一目でわかってしまうほどでした。

いくらベテランのようなふりをしていても、ザックの形で登山経験がばれてしまうのです。

60年以上モデルチェンジされずに使用され続けたのに、近年の登山ブーム以降キスリングはあっけなく姿を消し、背中にフィットする高機能なザックがあふれるようになりました。

キスリングってなんだったのだろう?と思ってしまいます。

新品から60年経過したこのキスリングは、今使おうと思えばまだ使えるほどの強靭さを保っていますが、もう出番はないでしょう。

 

キスリング(サブザック)

昭和60年代製のキスリング型サブザック

日帰り登山に使用する20~30L程度の小型ザックを通称サブザックと呼んだりします。

写真のものは昭和60年ころ、筆者がスポーツ用品店で購入し、実際に使用していたものです。

現在の日帰り登山用のザックの形は、縦長タイプやデイパックタイプが主流ですが、昭和のころはこういうキスリングタイプのものもありました。

このキスリングのリッター数は30~40L程度です。

ショルダーベルト基部の革には「軽キスリング 51」と表示されていますが、メーカーは不明です。

軽キスリング51の表示。メーカーは不明

大型のキスリングとは違い、容積が小さいのでパッキングはそれほど気にならず体が振られることもありませんでした。

このキスリングにも左右に大きなサイドポケットがあり、このポケットは小物をさっと取り出せて、けっこう物が入りますのでとても便利でした。

難点はやはり、汗や雨水を吸うのでザックの中の装備品の防水はきちんとやらなければなりませんでした。

雨天時は現在のようなザックの雨覆いがありませんでしたので、当時は米軍の払い下げのポンチョをかぶり、ザックごとポンチョを覆って雨を凌いでいました。

前述の大型キスリングと比較して色があせていないのは、30年の差でしょうか。

このキスリングも今使おうと思えばまだまだ使える強度を保っています。

次回は昔の登山靴とピッケルについて紹介します。




 



プロフィール

フリーランサー。元船員(航海士)
学生時代に山岳部チーフリーダーを経験し、阿寒、知床、大雪を中心に活動。
以来、北海道の山をオールシーズン、単独行にこだわり続け35年。
現在は主に日高山脈をフィールドにしている山オタクのライター。

※他サイトにおいて元山岳部部長を名乗る個人・団体が存在しますが、それらは当サイトとは一切関係ありませんのでご了承ください。



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