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虫よけ対策~蚊取線香とパワー森林香を比較してみた!

虫よけ対策~蚊取線香とパワー森林香を比較してみた!

蚊取り線香やパワー森林香は、持続的かつ高い虫よけ効果があります。

今回は、蚊取り線香とパワー森林香の違いや、実際の登山ではどちらが効くのかを検証してみました。




蚊取り線香とパワー森林香。何が違うのか?


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蚊取り線香と防虫香、どちらも殺虫成分がある

「蚊取り線香」は、キンチョウやアース、フマキラーなどから販売されています。

これらの蚊取り線香とは別に、児玉兄弟商会から「パワー森林香」という林業・農業者向けの「防虫香」が販売されています。

パワー森林香をネットで直販している「こだまショップ」のページには、「蚊取り線香ではありません」「蚊取り線香より強力な防虫香」と説明があります。

蚊取り線香と防虫香、いったい何がどう違うのでしょうか。

まず、一般的な蚊取り線香についてですが、蚊取り線香は「医薬部外品」になっていて、効能に「蚊成虫の駆除」、有効成分は「アレスリン」となっているものがほとんどです。

一方で、パワー森林香には医薬部外品や効能の表示はなく、「適応害虫:ユスリカ、チョウバエ、アブ」、「成分:メトフルトリン」となっています。

一見すると、パワー森林香は「蚊に効かない、殺虫効果がない?」などと思ってしまいます。

これには、薬事法上の事情があるようです。

薬事法(現在は医薬品医療機器等法といいます)では、衛生害虫(ハエ、蚊、ゴキブリ、ノミ、シラミ、トモジラミ、イエダニ、屋内塵性ダニ、マダニ)の防除剤は薬事法上の「医薬品」「医薬部外品」にあたり、厚労省の製造販売承認が必要とされています。

つまり、衛生害虫である「蚊」を駆除できると言ってしまうと、厚労省の製造販売承認が必要になるということです。

パワー森林香は医薬品でも医薬部外品でもありませんので、蚊には言及できず、蚊取り線香という表現ができないのだと思われます。

法律のことはさておき、ユーザーにとっては、蚊取り線香やパワー森林香がどのくらいの効能があるのかについて知りたいところです。

蚊取り線香の成分であるアレスリンはピレスロイド系殺虫剤に分類され、除虫菊に含まれるピレスリンの構造を元に作られた合成殺虫剤です。

パワー森林香の成分であるメトフルトリンも同じくピレスロイド系の合成殺虫剤です。

すなわち、パワー森林香は「防虫香」と言いならがも、しっかりと殺虫成分を含んでいるということです。

メトフルトリンを開発した住友化学が行った実験によれば、メトフルトリンの殺虫効果は、アカイエカに対してはアレスリンの25倍、ヒトスジシマカに対してはアレスリンの50倍であったとのことです。

この実験結果からすると、メトフルトリンを成分とするパワー森林香が蚊に効かないということは考えられず、むしろ、普通の蚊取り線香よりもかなり強力な殺虫効果があることが予想されます。

サイズと燃焼時間

ほとんどの蚊取り線香の燃焼時間は約7時間です。

一部にジャンボサイズも販売されていますが、ジャンボサイズで12時間程度です。

パワー森林香は蚊取り線香に比べて、太いのが特徴で、下の画像では少しわかりづらいのですが、煙の量が蚊取り線香よりも多くなっています。

左:パワー森林香 右:蚊取り線香

パワー森林香は、線香が太い分、渦巻きが短めに作られており、燃焼時間は約5時間です。

両者の断面ですが、

  • 蚊取り線香 7mm×4mm
  • パワー森林香9mm×6mm

で、断面積はパワー森林香が約2倍大きいことになります。

幅の比較

厚さの比較

ちなみに、キンチョー蚊取り線香30巻きはネットで1000円程度、パワー森林香30巻きは1500円程度です。

蚊取り線香とパワー森林香、燃焼時間1時間あたりの価格はどちらがお得かというと、

  • キンチョー蚊取り線香 1本7時間×30巻き=210時間 1時間あたり約4.8円
  • パワー森林香     1本5時間×30巻き=150時間 1時間あたり約10円

であり、単純に蚊取り線香の方が約2倍お得ということになりますが、パワー森林香は防虫効果が何倍も強いと思われるので、必ずしも蚊取り線香の方が割安とは言えないところです。

匂いは?

蚊取り線香の匂いには通常タイプやアロマタイプなどがあり、好みによって選ぶことができます。

気になるパワー森林香の匂いですが、通常タイプの蚊取り線香の匂いより若干刺激があります。

筆者の個人的な感想では、パワー森林香の匂いは、蚊取り線香の匂いと焚き火の匂いを混ぜたような香りだと思います。

通常タイプの蚊取り線香の匂いに慣れている人なら、パワー森林香は違和感なく使用できるのではないかと思います。

なお、パワー森林香は、「野外専用」と書かれていますが、目や鼻など、粘膜への刺激が蚊取り線香よりもやや強いので、室内やテント内で使用する場合は、適宜、換気を行うなどが必要になります。

携帯器具との相性は?

一般的な蚊取り線香の携帯器にパワー森林香が入るのかについて実験してみたところ、力を入れて締めると一様入りますが、少し窮屈で、フタの開け締めがスムーズではありません。

蚊取り線香用携帯器にパワー森林香をセット

一様締まります。

フタが窮屈なので、途中で消えてしまうのではないかと思いましたが、点火時間を長くして、十分に火がついた状態でフタをしてみましたが、途中で火が消えることはありませんでした。(点火時間が短く、十分に火が点いていない状態でフタをするとすぐに消えてしまいます。)

一方、パワー森林香の専用携帯器はパワー森林香や一般的な蚊取り線香を入れても中で踊ることもなく良好に使えます。

パワー森林香専用携帯器

ギザギザの刃で線香を挟み込む方式

裏面には予備の線香が2本入れられる

普通の蚊取り線香でも問題なく使える

 

パワー森林香の携帯器は一般的な蚊取り線香の携帯器より作りがしっかりしていますし、衝撃でフタが開くようなこともありませんので、登山用にはおすすめです。



実際の登山で実験をする

①パワー森林香と蚊取り線香の比較

まずは、北戸蔦別岳のアプローチである二岐沢で実験をしました。

林道終点の取水ダムから入渓し、片道約1時間半、沢沿いの道を登ります。

二岐沢の様子

実験は登山クラブのTさんに協力してもらい、筆者は虫よけグッズなし、Tさんは携帯器をザックのサイドにつり下げ、蚊取り線香とパワー森林香を交互に試すという方法で行いました。

使用した蚊取り線香は「エムズワン 片桐製薬 ノカウト蚊とり線香」です。

エムズワン 蚊取り線香

パワー森林香

このエムズワン蚊取り線香は数年前に購入したもので、現在は販売されていませんが、成分はキンチョーの蚊取り線香と同じ「アレスリン」です。

往路は早朝だったためか、虫がほとんどいなかったので比較実験はできませんでした。

下山時は夕方でしたので、尾根道から沢に入いると数匹のブヨが筆者の顔にまとわり付き始めました。

沢登りでは猛烈な数のブヨに襲われることが多々ありますが、この時のブヨの数は沢登りにしてはさほど多いとは感じませんでした。

蚊取り線香を点火したTさんには、ほとんどブヨが寄りつかず、時折、ブヨが1匹、Tさんの顔の前を飛ぶ程度でした。

途中で、携帯器の中身を蚊取り線香からパワー森林香に取り替えての実験です。

Tさん曰く、「パワー森林香に替えた途端、まったくブヨが寄りつかなくなった」とのことでした。

ザックに付けたパワー森林香

筆者は虫よけ対策を何もしていないので、たまらず、ハッカ油を顔面にスプレーしましたが、スプレー直後はブヨがいなくなりますが、15分程度経過するとブヨが寄りつくようになります。

今回の実験では、ブヨに対してのパワー森林香の防虫効果は、蚊取り線香と同等か、やや上回るという結果が出ました。

また、蚊取り線香もパワー森林香も効能に「ブヨ」とは書いていませんが、ブヨにも効くことがわかりました。

ちなみに、蚊取り線香やパワー森林香を焚いている人が自分の前方を歩いていると、ある程度虫よけ効果の恩恵にあずかれますが、後方にいる場合はほぼ効果がありませんでした。

②ブヨがかなり多い場所でパワー森林香を試す

次にブヨがかなり多い場所でパワー森林香だけで虫よけが可能かを試してみます。

場所はカムイエクウチカウシ山で、札内川~八ノ沢の約4時間の沢登りです。

八ノ沢出合付近

パワー森林香を点ける

この日のブヨはかなり多く、前回の北戸蔦別岳の時に比べかなり鬱陶しい感じでした。

さっそくパワー森林香を焚いたのですが、ブヨに刺されはしませんが、顔の周りへの寄り付きを防ぐことはできませんでした。

ブヨがかなり多い場所では、パワー森林香を焚いてもブヨがすべて逃げてくれるわけではないようです。

結局、最後まで刺されることはなかったのですが、顔への寄り付きが鬱陶しいので、時折ハッカ油を顔にスプレーしながら歩くことになりました。

ハッカ油は持続時間は短いですが、スプレーした直後はブヨが寄り付かなくなります。

ブヨがかなり多い場所では、パワー森林香とハッカ油を併用するのが効果的だということがわかりました。

 

まとめ~ハッカ油スプレーなどの併用で鉄壁の虫よけ効果

今回の実験でわかったことをまとめると、

  • 蚊取り線香よりパワー森林香の方が虫よけ効果がやや高いと思われる。
  • 蚊取り線香、パワー森林香ともに、ブヨには忌避効果がある。
  • ブヨがかなり多い場所ではパワー森林香とハッカ油スプレーの併用で高い虫よけ効果が得られる。

実験ではヤブ蚊やヌカカが確認できなかったので、これらの虫に対してどの程度の忌避効果があるのかはわかりませんが、ブヨに対して高い忌避効果のある蚊取り線香やパワー森林香はヤブ蚊やヌカカにも高い効果が期待できそうです。

前回行なった虫よけスプレーの比較実験(「高濃度虫よけスプレー、ディート、イカリジンは登山に有効か?」)では、市販の虫よけスプレーは「虫には刺されないけど虫の寄りつきを防げない」、ハッカ油は「虫の寄りつきを防げる」というものでした。

今回の実験では、蚊取り線香やパワー森林香は、持続的な虫よけ効果が高いことがわかりましたが、ブヨがかなり多い場所では、ハッカ油を併用した方が良いということもわかりました。

蚊取り線香、パワー森林香、ハッカ油、虫よけスプレー、それぞれの長所を生かしながら虫よけ対策をしていくのが良い方法だということになりますが、中でもパワー森林香とハッカ油スプレーの組み合わせは最強の虫よけ対策のひとつであることは間違いないでしょう。


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プロフィール

フリーランサー。元船員(航海士)
学生時代に山岳部チーフリーダーを経験し、阿寒、知床、大雪を中心に活動。
以来、北海道の山をオールシーズン、単独行にこだわり続け35年。
現在は主に日高山脈をフィールドにしている山オタクのライター。

※他サイトにおいて元山岳部部長を名乗る個人・団体が存在しますが、それらは当サイトとは一切関係ありませんのでご了承ください。



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