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元山岳部部長の登山講座

大雪山写真ミュージアムの魅力!~市根井孝悦氏の世界

トムラウシ

大雪山写真ミュージアムの魅力!~市根井孝悦氏の世界

表大雪の黒岳の入口、温泉地でも知られる層雲峡の一角に、旧層雲峡小学校の校舎を改装した、大雪山ミュージアムがひっそりと建っています。

大雪山ミュージアムには、登山家で山岳写真家の市根井孝悦氏の作品が多数展示されています。

市根井氏は、著名な山岳写真家ですが、特に大雪山の表現者としては第一人者です。

今回は大雪山ミュージアム、市根井孝悦氏の世界を紹介します。




自然の中に建つ大雪山写真ミュージアム。エゾシカが出迎えてくれた

学校の趣きを残す瀟洒な建物

小学校の校舎をそのまま利用した大雪山写真ミュージアムは、市根井さんの作品を堪能するのにとてもよい雰囲気を醸し出してします。

駐車場にクルマを止めるなり、シカが現れました。温泉街から少し離れているので、静かで自然たっぷりの場所です。

シカが出てきた!

 

3つのテーマに分かれた展示スペース

出典:大雪山写真ミュージアム公式HP

玄関で靴を脱ぎ、スリッパに履き替えます。学校っぽいですね。

中はとても静かで、清潔です。

BGMにアイルランドの女性歌手・作曲家「エンヤ」の音楽が小さく流れています。

山の雰囲気と幻想的なエンヤの音楽はとてもよく合っています。

あとで、その理由がわかりますが、市根井さんの個展ではいつも「エンヤ」が流れています。

館内は写真の劣化を防ぐために、温度、湿度を一定に保つというこだわりようです。

しかし、温度は15℃前後なので、半袖シャツでは長時間作品を見ていると寒くなります。

受付の親切なおばちゃんが、上着を持ってくるよう勧めてくれたり、休憩スペースにあるストーブで温まるよう気を使ってくれます。

私も半分まで見たところで途中退場して、上着をとりに行きました。

展示室は3部構成になっています。作品は表大雪が中心です。

3部構成のうち、第1スペースは「豊穣の大地~夏から秋の風景」、第2スペースは「光の大地~冬から春の風景」、第3スペースは「大雪に戯れる妖精たち~花や動物たちの姿」になっています。

出典:大雪山写真ミュージアム公式HP

市根井さんの作品はとにかく、色が鮮やかです。そして、大迫力です。

以前に札幌で個展を見た時にご本人がおっしゃっていましたが、市根井さんはレンズにつけるフィルターを使用しないそうです。

作品があまりに、色鮮やかなのでそういう質問が多いのでしょうか。

作品を見ていると、じっとカメラを構えながら、時間とともに刻々と変わる山の色を一瞬も逃さず、絶妙な露出と絞りでシャッターを切っている姿を想像します。豊富な経験と豊かな感性がなせる技なのでしょう。

ただでさえ、連泊しながら縦走するのは大変なのに、通常の登山装備に加え、重い大型カメラと三脚を背負って何日も山に入り、撮影するのは、並大抵の体力と技術ではできません。

写真家である前に、登山家としても一流なのは当たり前だと思います。

別のコーナーでは、市根井さんが執筆した新聞の連載記事があり、ヒグマのと遭遇や暴風雪で何度も命の危険があったという、生々しい実話が掲載されていました。

ヒグマとの数々の遭遇話は大変興味深く、ヒグマとの対峙の仕方、火や音を怖がらない話、ヒグマが接近を止めなかった話など、ヒグマ対策を考えるうえでの貴重な情報にもなりました。

連載記事の中には、昭和38年(1963年)1月、北海道学芸大函館分校山岳部が表大雪で大量遭難したことに触れ、このとき犠牲となった市根井さんの同級生への思いが語られています。

以来、大雪山は特別な山になったとあります。

山を歩いていると、亡くなった同級生の声が聞こえるような気がするそうです。

館内でエンヤの音楽を流している理由は、同級生の澄んだ声が遠くから聞こえるというイメージで選ばれたそうです。

 

作品を見ていたら

作品ひとつひとつには、その写真を撮影した時のエピソードが書いてあり、市根井さんの豊かな感性や撮影時の厳しさが伝わってきます。

中には「ヒグマが姿を見せ、ハラハラした」など、微笑ましくも、山男らしい、飾らない表現もあり、楽しませてくれます。

その写真と同じルートを歩いた者なら、写真を見ながらエピソードを読んでいるうちに、市根井さんの世界に飲み込まれていきます。

自分がその場にいるような気分になっていきます。

展示コーナーの一角には、市根井さんが使用したテントやシュラフ、スキー、プラブーツなどが展示されています。

激しく使い込んだ形跡があり、厳しさが伝わってきます。

この日、来館者は私と山仲間の2人だけでしたが、作品を見終わるころ、市根井さんがひょっこり現れ、わざわざ私達のところまで来て、ご丁寧な挨拶をいただきました。

前日に高原温泉から下山したばかりとのことで、とても忙しそうでしたが、2,3分立ち話をすることができました。

私が石狩岳・二ペソツ方面の林道は昨年の豪雨で復旧の見込みがなくシュナイダーを登るのを諦めたことを話すと、シュナイダーコースはとても素晴らしいこと、石狩岳付近は昨年からヒグマの出没が多くなり、わがもの顔でクマが歩いていること、沼の原、クチャウンベツルートが開通予定であることなど、短い時間でしたが貴重な情報もいただき、市根井さんの飾らない人柄や、本当に山が好きなんだという雰囲気がたくさん伝わってきました。

それにしても、瞳を輝かせながら山の話をして下さる姿は、今年で79歳になるとは思えない若々しさで、まだまだ精力的に活動されるであろう雰囲気が十分に伝わってきました。登山者としてはうらやましい限りです。

私が訪れたのは6月中旬で、時期的にはこれから花の季節なので、山の準備に大忙しだったのだと思いますが、運がよければ市根井館長直々の説明付きで作品を鑑賞できることもあるようです。

閑散期にまた訪れてみたいと思います。



山好きの人へ。表大雪を訪れたら大雪山写真ミュージアムへ

大雪山写真ミュージアムが建つ層雲峡は黒岳ロープウエイがあり、表大雪の玄関口でもあり、旭岳方面、東大雪や十勝岳連峰からの縦走の下山地点としてもよく利用されます。

黒岳の日帰り登山をする人もたくさんいます。

層雲峡を訪れたら、大雪山写真ミュージアムに寄って、大雪の魅力と市根井氏の作品の魅力に触れてみて下さい。

  • 層雲峡 大雪山写真ミュージアム 5/1~10/31(期間中無休、冬期休館)
  • 時間 09:00~18:00
  • 料金 大人600円 中学生以下無料







プロフィール

フリーランサー。元船員(航海士)
学生時代に山岳部チーフリーダーを経験し、阿寒、知床、大雪を中心に活動。
以来、北海道の山をオールシーズン、単独行にこだわり続け35年。
現在は主に日高山脈をフィールドにしている山オタクのライター。

※他サイトにおいて元山岳部部長を名乗る個人・団体が存在しますが、それらは当サイトとは一切関係ありませんのでご了承ください。



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