27Feb
もやい結び(ブーリン結び)は本当に危険なのか?
もやい結び(ブーリン結び、ボーラインノット)は素早く結べて、強度があり、力がかかっても結び目が固く締まらないので解きやすい。
海上で使用されているもやい結びは、かつて登山界でも当たり前のように使われていました。
しかし、もやい結びはあらぬ方向にテンションをかけると解けてしまうということがあり、過去、ロッククライミング中に事故が発生してからは、登山の世界では積極的に教えなくなりました。
そもそも、ロープワークは結び方によって使い分けされるという大前提がありますので、「もやい結び=事故が起きたから危険=登山では使わない」と考えるのならば、それは思考停止でしょう。
筆者は元船員(航海士)ですが、もやい結びの本家である船舶では、現在でもありとあらゆる場面でもやい結びは普通に使われています。
今回はもやい結びの有効性と誤った使用法、ロープワークのあれこれについて説明します。
もやい結びが解けた!?危険なリング負荷と呼ばれる現象
まず、もやい結びが解けるという現象について説明します。
もやい結びはもともと、船を岸壁に係留する時に係留ロープの先端に輪を作り、岸壁にあるビットと呼ばれる鉄の支柱にその輪をかけて船を係留するために使用していました。
船の係留イメージ
通常は「アイスプライス」と言って、ロープの先端をほどいて、編み込んで輪を作りますが(写真①左)、急ぐ時にはもやい結びをして輪を作り、船を係留します(写真①右)。
写真① 三つ撚りロープで作ったアイスプライス(左)ともやい結び(右)
写真②を見て下さい。もやい結びはAを支点として矢印方向に力が働く時に使用する結び方です。
写真②もやい結びの正しいテンションの方向
この方向にテンションがかかると結び目は締まり、絶対に解けません。そして、結び目がカチカチに固くならないから、解こうとすれば解けるのです。
即ち、もやい結びは一方向に物を引っ張ったり、吊るしたりする時のアンカー的な使われ方をするのです。
このことを良く理解していれば、登山では使えないということにはなりません。
ところが、「危険なリング負荷」と呼ばれるテンションのかけ方をすると、条件によっては簡単にもやい結びが解けてしまうという現象が起こります。
写真③を見て下さい。今度はBを支点に矢印方向にテンション強くをかけると、結び目がするすると解けるという現象が起きます。
写真③間違った方向にテンションをかける
これを「危険なリング負荷」などと呼んでいます。
この現象は必ずしも起きるわけではなく、ロープの材質やロープの形状で大きく変わります。
危険なリング負荷をやってみても、写真①のような三つ撚りロープで材質がつるつるしていないものは、ロープ表面の摩擦力が大きいので結び目は解けません。
これに対し、登山用のザイル(クライミングロープ)は編索といって表面が滑らかです。
材質も比較的つるつるしてしている素材を使用しているために、ロープ表面の摩擦抵抗が少なく、結び目は締まりにくいと言えます。
登山用ザイルがこのような形状をしている理由は、編索はロープに撚りがかかりづらいので、懸垂下降などを行うロッククライミングでは都合が良いからです。
結んだロープが解けるという現象には、端末の長さの問題もあります。
結んだあとのロープの端末が短いと、どんな結び方でもテンションがかかれば解けることがあります。
登山では、一般的にロープの外径の10倍は端末を残すとされていますが、船舶の世界でも端末はロープの外径の10~15倍残せと教育されます。
具体的には10mmのロープなら端末は10~15cm残すということです。
写真④レスキューで使用しているもやい結び
写真④は、消防や海保などのレスキュー部門が行っているもやい結びですが、端末を輪に一重結びして、万が一解けることがないようにしています。
一重結びしただけでも、筆者が実験した限り、危険なリング負荷でテンションをかけても、もやい結びは解けません。
もやい結びは正しく使えば優秀な結び方です
以上のように、もやい結びは使用法、ロープの材質、端末処理などによっては解けやすいことがあります。
肝心なのは使用法です。
そもそも「危険なリング負荷」と呼ばれるような、おかしなテンションのかけ方をするのが間違いなのであって、もやい結び自体が危険ということではありません。
もやい結びは 写真②のように一方向にテンションがかかる時に使う結び方です。いろいろな方向にテンションがかかる可能性があるのなら、もやい結びを使ってはいけません。
写真⑤8の字結び
クライミングにおいて、ロープの端末に輪を作る場面では、現在では写真⑤のような、8の字結び(エイトノット)が主流になっています。
8の字結びは、万一、おかしな方向にテンションがかかっても解けにくい結び方といえます。