山登り初心者とステップアップしたい経験者の方へ登山講座

menu

元山岳部部長の登山講座

懐かしい昭和の登山装備。登山靴、ピッケル

懐かしい昭和の登山装備~60年前の登山装備って?

登山を始めたころに山の先人達から頂いた旧式の装備たち。

今回は、倉庫に眠っている昭和の登山靴とピッケルを紹介します。




登山靴

ナーゲル靴の特徴が残る昭和30年代製の重登山靴 

写真の登山靴は80歳になる山の先輩が昭和30年ころに新品で購入し使用していたものです。

非常に重たくて、硬く、丈夫な登山靴です。

本革製の登山靴で、アウトソールはゴム製ですが、今の登山靴にはない特徴があります。

靴底にスリップ止めの金具(鋲)が打たれています。

登山の黎明期、ナーゲル靴と呼ばれる主に岩登り向けの革製登山靴がありました。

ナーゲル靴はアウトソールも革製で、ソールにはクリンカー、ムガー、トリコニ―と呼ばれる金属製の鋲が打ってありました。(下図参照)

①クリンカー、②ムガー、③トリコニー(出典:協同出版 匂坂敬正著 登山の用語全図解)

その後、アウトソールは革製からゴム製のビブラムソールへと進化していき、現在に至りますが、写真の登山靴はゴム製のアウトソールに金属製の鋲が打たれており、現在の登山靴の特徴とナーゲル靴の特徴の両方を備えています。

言わば、登山靴の進化の過程を見ているような登山靴だと思います。

つま先にある長い4本の金具はクリンカーと呼ばれる鋲で、濡れた岩やこけ生した岩などの上も滑らずに歩けました。

つま先にあるクリンカー

ソールの中央付近にはトリコニーと呼ばれる金具が2個打たれています。

ソール中央のトリコニー

中央のトリコニ―は主に木の根や枝を踏んでしまった時に横滑りを防止してくれましたが、スパッツ(ゲイター)のゴムとトリコニーが干渉してゴムが切れやすいということもありました。

トリコニ―はキャラバンシューズの昔のモデルにも付いていたのを覚えている方も多いと思いますが(後期モデルではスパッツのゴムとの干渉を防ぐためにトリコニーは撤去された)、昔はこれらの金具は町の靴屋さんで後付けが可能でしたので、好みに応じて金具を取り付け、ソールをカスタマイズするということもできました。(筆者も30年ほど前に、自分の登山靴のビブラム底にトリコニ―とクリンカーを後付けして使用していましたが、沢での飛び石の際に強いグリップを発揮してくれました。)

昔のキャラバンシューズのイラスト。ソール中央にトリコニーが描かれている(出典:協同出版 匂坂敬正著 登山の用語全図解)

靴の上部には革製の襟が付いています。

これも、古い時代の登山靴の特徴の一つだそうです。

持ち主にこの「襟」使い方を聞いて見たところ、写真では襟が立っていますが、普段は折り返して履くそうです。

襟を立てる場合は、スパッツ(ゲートル、脚絆、ゲイター)を装着する場合で、襟を立ててからスパッツを装着したそうです。

昭和30年代当時は「登山靴」を履いているのは最先端の登山者であって、登山靴を持っていない仲間もいたそうです。

そのような人達の中には日本軍の軍靴(ぐんか)を登山靴のかわりに使用して登山を行っていた人もいたとのことです。

 

 木製ピッケル

昭和30年代製のピッケル

写真の木製ピッケルは昭和30年代製のもので、筆者が先輩から譲り受けて使用していたものです。

メーカーは戦前に東京で創業した「三共スポーツ商会」というスポーツ用品製造会社の「Prima Bergan(プリマベルガン)」というブランドです。

Prima Berganの刻印

古い時代のピッケルはシャフトが木製で、ヘッド部分の形状は現在のピッケルのようにピック部分のアールがきつくなく、全体的に美しい流線型をしており、カラビナ用の穴やピック先端のギザギザがないのが特徴です。

カラビナ用の穴、ピック先端のギザギザはない。

全体的に美しい流線型

ピックのアールは緩やか。

この時代のピッケルヘッドは、現在のようなプレス加工ではなく、手間のかかる鍛造(ひと塊の鉄を鍛冶屋がたたいて作る)です。

ヘッドと木製シャフトを連結するために、フィンガーと呼ばれる部分があるのが特徴です。

おおむね、こんな感じで職人さんが手作りしていました。

こんな複雑な形を鍛冶屋職人がたたいて作っていたとは驚きです。

保存状態が良く、ヘッドには購入当時の革製のカバーもついています。

シャフトにはピッケルバンドを取り付けるための可動式の真鍮製の環が付いています。(写真には真鍮の環にピッケルバンドと熊よけの鈴がつけられています)

シャフトが木製なので、シャフトの下部は岩などにぶつけた時のためにテープを巻いて保護しています。

木製シャフトはメンテナンスのために亜麻仁油をたっぷりとしみ込ませますので、重厚な色が出ています。

シャフト先端の石突ですが、現在のピッケルは平たい三角形をしていますが、このピッケルは独特な円錐形のような形をしています。

石突を磨いてよく見てみると、円錐形ではなく、四角形の角を落とした八角形的な形状をしていました。

一見、円錐形のようだが・・

磨いてみると八角形に近い形状。

このピッケルは長さが85cmもあり、長めの仕様でしたので、ザックに着けている時はシャフトの石突がよく木の枝に引っかかりました。

古い時代は、ピッケルをつえ代わりとして使用する習慣もありましたので、現在のピッケルよりも長めのものが好まれていました。

強度的には現在でも使用できますが、もったいないので、今は飾り物にしています。

次回は、昔のわかんと尻あて、ラジウスを紹介します。






プロフィール

フリーランサー。元船員(航海士)
学生時代に山岳部チーフリーダーを経験し、阿寒、知床、大雪を中心に活動。
以来、北海道の山をオールシーズン、単独行にこだわり続け35年。
現在は主に日高山脈をフィールドにしている山オタクのライター。

※他サイトにおいて元山岳部部長を名乗る個人・団体が存在しますが、それらは当サイトとは一切関係ありませんのでご了承ください。



カテゴリー