25Aug
ゴアじゃない安い作業用透湿性カッパを着てみた
透湿性レインウエアの素材には、大きく分けて「ゴアテックス」、「アウトドアメーカー独自素材」、「作業用品メーカー独自素材」の3つがあります。
ゴアテックスのカッパは登山用でも作業用でも、各社ハイエンドモデルとして販売されていますが、ドライテック(モンベル)、ベルグテック(ミズノ)、ハイベント(ノースフェイス)などのアウトドアメーカーが独自に開発した素材で作られた透湿性のカッパもあり、これらは一部のハイスペックモデルを除き、いわゆる二流品としてゴアのカッパよりも安い値段で販売されています。
これとは別に、エントラント(東レ)、ブリザテック(東レ)などの防水透湿性素材を使用した作業用品メーカー独自の透湿性カッパもあり、登山用と比べてとても安く(数千円程度)手に入ります。
今回は、いわゆる三流品の作業用透湿性カッパが登山に使えるかどうかを検証しました。
今回使用したカッパ「弘進ゴム ジャバランHP エクストリーム」
今回は作業用品店の広告で見つけた透湿性カッパ「弘進ゴム ジャバランHP エクストリーム」を雨の登山で使用してみました。
このカッパは4000円程度しますが、安売りだと1600円ほどで購入できます。
耐水性と透湿度
このカッパには下のように耐水性と透湿度が表示されていました。
- 耐水圧10000mm以上
- 透湿度2000g/㎡/24h
耐水性はJIS規格で試験され、耐水圧(mm)で表します。
耐水圧10000mmとは、生地1平方センチメートルに水柱10000mm(すなわち10m)分の水圧をかけても漏水しないということです。
過酷な条件で使用する登山用のカッパでは、耐水圧が20000mm以上のものが良いとされていますが、一般的には耐水圧が10000mmあれば、様々な用途に使用しても大丈夫だとされています。
登山用透湿性カッパの耐水圧は、
- ゴアテックス50000mm
- ベルグテック(ミズノ)30000mm
- ドライテック(モンベル)20000mm
などで、各社とも20000mm以上の性能ですが、作業用透湿性カッパ(東レのブリザテックやエントラントなど)では、10000mm程度のものが多いです。
透湿性もJIS規格で試験されます。
透湿度を表す、g/㎡/24hは、生地1平方メートルあたり24時間で何グラムの水蒸気を透過させることができるかを表しています。
激しい運動をする場合の発汗量は、1時間に約1000gと言われています。
仮に、1時間に1000gの水蒸気をすべて透過させるとしたら、カッパの透湿度は12000g/㎡/24hほど必要になります。
ちなみに、
- ゴアテックス3レイヤー 25000g/㎡/24h
- ベルグテック(ミズノ) 16000g/㎡/24h
- ドライテック(モンベル)15000g/㎡/24h
と、登山用の透湿性カッパはおおむね12000g/㎡/24h以上になっていますが、作業用透湿性カッパはこれよりも低めのものが多く、一部の商品を除いては2000~5000g/㎡/24h程度のものが主流です。
透湿性を比較する場合、気をつけなければならないことがあります。
透湿度の試験には4種類あり、ほとんどのメーカーでは「B1法」と呼ばれる方法で試験を行っていますが、B1法以外の試験方法で表示していたり、試験方法自体の表示がない商品もたくさんあります。
今回使用したジャバランも、試験方法の表示はなく、透湿度が「2000g/㎡/24h」と、かなり低めになっています。
(耐水性、透湿度についての詳細は「カッパ(レインウエア)の耐水性・透湿性・強度とは?」を読んでみて下さい。)
生地とデザイン
弘進ゴムには、東レと共同開発のフェザーブレス(耐水10000mm、透湿10000g/㎡/24h)という防水透湿性素材がありますが、ジャバランには生地のブランド名が何も書いてありません。
おそらく独自か共同開発の防水透湿性素材と思われますが、2レイヤー(2層)で生地は薄く、裏地には汗とりのメッシュが合わせてあります。
生地が薄いので、本格的登山やヤブ漕ぎには十分な強度がないと思われ、ひどい転び方をすれば一撃で破れそうです。
デザインですが、何の変哲もない作業用のカッパです。
もちろん、熱気を抜くためのベンチレーションもなく、靴を履いたままズボンが履きやすい裾のスリットもありません。
それはないとして、登山では暴風雨に晒された場合、フードがゴム(ドローコード)できっちり絞れるようになっていなければ襟もとから雨が浸水してきたり、風でフ―ドがバタつきます。
作業用カッパの多くはフードにドローコードはなく、風雨が強い時は、襟と口元付近がボタンやベルクロで閉じられるようになっているだけです。
ジャバランのフードもドローコードはなく、ベルクロで襟と口元付近が閉じられるだけの構造ですが、ベルクロは顔面に密着するくらい締められますので、顔面からの浸水やフードのバタつきはそれなりに防げそうです。
お手入れ方法
説明には洗濯は「中性洗剤」を使用して手洗いするよう書かれています。
ゴアテックスに代表される防水透湿性素材の多くは、生地の接着剤の劣化を防ぐために「中性洗剤」を使用することをすすめている場合が多く、ジャバランも同様のようです。(弱アルカリ性洗剤でも大丈夫なものもあります→「ゴアテックスに使用できる洗剤は?(専用洗剤編)」)
また、防水透湿性素材は生地表面の撥水性が重要なので、撥水性を損なう成分(柔軟成分、漂白成分、蛍光成分)が入っていない洗剤を使用する方が無難と思われます。
(ゴアテックスの洗濯方法については「ゴアテックスの手入れ~正しい洗濯方法でバッチリ撥水」を読んでみて下さい)
ジャバランを雨の日に低山で着てみる
暑い時はゴアも安いカッパも同じく蒸れる
雨の日にジャバランを着用して標高900mの低山を登ってみました。
天気はしとしと雨で、風は弱く、登山口の気温は24℃ほどです。
透湿性を比べるために、ゴアテックス製(3レイヤー)のカッパを着た登山クラブの会員Tさんに一緒に歩いてもらいました。
登山口に着く前からジャバランを着用しましたが、平地をゆっくり歩いている時には少しは蒸れますが、気になるほどではありません。
生地の透湿性はまあまあ効いているのがわかります。
この時、ゴアテックス着用のTさんは蒸れは感じていませんでした。
登山口からは勾配がきつくなりますが、登山開始から15分もすると額に汗がにじんできて、カッパの中は暑さと蒸れを感じてきました。
この時Tさんは、暑いけど蒸れていないと言っていました。
登山開始から30分経過で、ジャバランの内側は完全に蒸れ、内側のメッシュも汗で濡れてきました。
内側が汗で完全に濡れてしまうと、どんなに優秀な防水透湿性素材でも透湿はほとんど効かなくなります。
これ以降は、蒸れ放題でした。
この時のTさんですが、暑さで大量発汗し、ゴアテックスの透湿が追いつかなくなっていました。
蒸れに関して言うと、ジャバランはゴアテックスより蒸れやすいですが、ビニールカッパに比べると遥かに蒸れないと言えます。
(ビニールカッパは着た瞬間から蒸れ、じっとしていもすぐに内側に水滴が付きます。)
暑い時は本家のゴアでもどうせ蒸れてしまいます。
ジャバランの透湿性は登山においては優秀ではありませんでしたが、ビニールカッパより遥かに蒸れませんので、日帰りの低山に限定すればなんとか使用に耐えそうです。
撥水性はイマイチ
下山後にカッパの撥水性をチェックしたところ、おおむね撥水していましたが、部分的に水がしみ込んでいるところもありました。
防水透湿性素材は生地表面に水がしみ込むと、透湿できなくなりますので、生地表面の撥水性はとても重要です。
新品のカッパでしみ込みが起こるのはちょっと残念ですが、撥水処理と撥水スプレーをかければ対応できそうなレベルです。
耐水性はどうか
水たまりに膝をついて、体重を乗せ、30秒ほど泥水に漬けました。
この状態の膝部分の圧力は体重75kgの人で11000mm程度と言われています。
表地はやや水がしみ込み、色が変わりましたが、内側への浸水はありませんでした。
耐水性については実用の範囲内のようです。
日帰りの低山に限るなら登山には使えそう
ジャバランを着てみての感想です。
蒸れにくさはゴアテックスには及びませんが、大量発汗していない状態では気になるほど蒸れません。
カッパとしてだけではなく、防寒防風ジャケットとしての使い道もありそうです。
見た目は薄っぺらいのですが、耐水性もそれなりです。
フードはドローコード式ではなく、作りも頼りないものですが、ベルクロで襟を締めるとフードはそれなりに締まりますので、横殴りの暴風雨の中を長時間歩くのでなければなんとか我慢できそうです。
生地は薄いので、ひどい転び方をすると破れると思います。
生地の強度は低いですが、そのかわり重量が上下で約500gと軽量です。
生地には若干伸縮性があるので、登山時に動きづらさはさほど感じません。
とりあえず日帰りの低山へ出かけるのに、カッパが必要という人のためにすすめるかどうかについては、ダメではないという印象です。
見た目も作りも安っぽく、性能も強度も低いので、長く登山を続けたい人や、長時間ルート、高山、藪こぎ、縦走などにはまったく適しません。
このカッパを買ったとしても、登山を続けるなら、あとでゴアテックスなどの本格的なカッパを買い直す時が来るでしょう。
その時は、ジャバランを作業用やキャンプ用のカッパに下ろしても良いと思います。
安物と言えども、一様透湿性カッパなので、ビニールカッパとは比べものにならないほど優秀です。
今回は弘進ゴムのジャバランHPエクストリームを紹介しましたが、同じ弘進ゴムからは、東レと共同開発のフェザーブレス(耐水10000mm、透湿10000g/m2/24h)という防水透湿性素材を使用したカッパが5000円程度で出ていますし、同じく東レのブリザテック(耐水10000mm、透湿10000g/m2/24h)という防水透湿性素材を使用したカッパが6000円程度で出ています。→(東レ ブリザテックを使用してみました。詳しくは「作業用透湿レインウエア「ブリザテック」は登山に使えるのか?」を読んで見て下さい。)
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ジャバランと比べると、フェザーブレスやブリザテックの方が、登山メーカーのカッパに近い性能です。
東レの防水透湿性素材はノースフェイスやパタゴニアでも使用された実績があります。
ゴアテックスじゃない二流、三流品の防水透湿性素材はポリウレタンを使用している場合が多く、使用環境によっては、数年で劣化する場合があります。
(ゴアテックスフィルムはフッ素樹脂を使用しており、半永久的に劣化しません。フッ素樹脂を使用している防水透湿性素材にはほかにイーベント、ドライQエリートがあります。)
ですので、二流品、三流品を買うなら、なるべく安いものがおすすめです。
あまり値段が高いとランニングコストではゴアテックスを追い抜かしてしまいます。
最初からゴアを買えば良かったという話にならないよう、カッパ選びはコスパの良い作業用も含めて検討するのが良いでしょう。
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