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元山岳部部長の登山講座

地形図の実戦的使用法2

地形図の実戦的使用法2

前回(地形図の実戦的使用法1)に続き、地形図の実戦的な使用法について説明します。

今回は、自分の位置がわからなくなった場合における地形図とコンパスの使い方です。




クロスベアリング~周囲の物標の方位を計測して現在地を求める方法

周囲に見えている複数の物標(山のピークなど)の方位を計測して、現在地を求める方法「クロスベアリング」について説明していきます。

想定問題

上の図で、登山者は現在地X付近にいますが、現在地に確信が持てなくなり、コンパスを使用して正確な現在地を求めることにしました。

登山者からは、Aピーク、Bピーク、Cピークが確認できている状況ですので、それぞれの方位を計測して、現在地を求めてみます。

コンパスで計測すると、Aピークが磁針方位295度方向、Bピークが磁針方位262度方向、Cピークが磁針方位222度方向に見えることがわかりました。(図中のMの記号は磁針方位(マグネット方位)であるという意味です。磁針方位とは、磁気コンパスが示す方位のことです。方位の表し方については「地形図の実戦的使用法1」を参照してみて下さい。)

では、実際にコンパスと地形図を使用して作図してみることにします。

作図には下のような、定規と一体になったコンパス「オリエンテーリング用コンパス」が必要になります。

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コンパスを正面に持ち、目標物に向ける。次に方位環を回し、コンパスの針とN(0度)を合わせ、定規中央の方位を読む。Aピークは295°。

まずは、A、B、Cピークの計測ですが、コンパスを体の正面に持ち水平に保持して、定規中央にある矢印をAピークに向けます。

次にそのままの状態で、コンパスの方位環を回し、コンパスの針が示す北と方位環のN(0度)合わせます。

そして定規中央の線のところに来た方位環の目盛を読みます。Aピークは、磁針方位295度に見えることがわかりました。

Bピーク、Cピークについても、同様の方法で計測すると、Bピークは磁針方位262度、Cピークは磁針方位222度に見えることがわかりました。

同様の方法でBピークを計測。Bピークは262°

同様の方法でCピークを計測。Cピークは222°

計測した、3つの方位をメモしておき、地形図を使用した作図作業に移ります。

あらかじめ磁北線を記入しておく。

地形図には、あらかじめ磁北線を入れておきます。

磁北とはマグネットコンパスが示す北のことで、地形図が示す真北とは異なり、日本付近では、だいたい真北より西に4度から9度ずれています。

今回は、西偏9度の磁北線を記入しています。(磁北線の記入の仕方について詳しくは、「地形図の実戦的使用法1」を読んで見て下さい。)

方位環を295°に合わせる。方位環内の平行線と地形図の磁北線を平行に合わせ、かつ、定規の縁をAピークに合わせて、鉛筆で線を引く。

Aピークの方位線を作図します。

コンパスの方位環を回し、メモしておいた、295度(Aピークの方位)の目盛りを定規中央に合わせます。

次に、方位環の中の赤い平行線が、地形図の磁北線と平行になるよう、定規自体を動かしつつ、定規の縁を地形図のAピークに合わせ、鉛筆で直線を引きます。

描いた線は、Aピークを磁針方位295度に見る方位線になります。

同様に、方位環を262°に合わせる。方位環内の平行線と地形図の磁北線を平行に合わせ、かつ、定規の縁をAピークに合わせて、鉛筆で線を引く。

Bピークの方位線も同様の方法で作図します。

コンパスの方位環を回し、262度の目盛りを定規中央に合わせます。

次に、方位環の中の赤い平行線が、地形図の磁北線と平行になるよう、定規自体を動かしつつ、定規の縁を地形図のBピークに合わせ、鉛筆で直線を引きます。

描いた線は、Bピークを磁針方位262度に見る方位線になります。

Cピークの方位線も同様に作図します。

同様に、方位環を222°に合わせる。方位環内の平行線と地形図の磁北線を平行に合わせ、かつ、定規の縁をAピークに合わせて、鉛筆で線を引く。

地形図上に3本の線の方位線が描かれましたが、3本の交点が現在地ということになります。

3本の交点が現在地になる。

拡大すると、3本の線が1点で交わっていない。この場合、三角形の中央付近を現在地とする。

クロスベアリングで方位線を3本引いた場合、ほとんどの場合、上の図のように、3本の線は1点で交わらず、小さな三角形ができます。

これを「誤差三角形」を呼び、誤差三角形の中央付近が推定現在地となります。

誤差三角形が出来てしまう理由は、方位の測定誤差か、作図の際の誤差によるもので、測定機械を使用せず、人間が目測で計測した場合、このような誤差は必ず生じます。

誤差三角形は小さければ、小さいほど、測定の精度が良く、大き過ぎると現在地を推定できず、計測のやり直しとなります。

クロスベアリングは、通常、3点の方位を取りますが、物標が少ない時は2点で行っても構いません。

2点で行う場合、誤差三角形はできませんので、誤差を推定することができず、3点で行う方法に比べ精度は落ちます。

物標の選び方によっても精度が変わります。

今回の想定問題では、Aからの方位線と、Cからの方位線のなす角度は、295°ー222°=73°でしたが、クロスベアリングの場合、この角度は、120°付近が一番測位誤差が少ないとされており、120°より角度が広ければ広いほど、狭ければ狭いほど、測位誤差は大きくなってしまいます。

また、計測する物標は、計測場所からの距離が近いほど測位誤差は大きくなり、遠いほど測位誤差は小さくなります。



救助要請の場合にも役に立つ

クロスベアリングは、自分の位置を知ことができるのと同時に、万が一の時の救助要請の時、山岳警備隊に自分の位置を伝えるのにも役立ちます。

遭難時に場所をうまく伝えられない、GPSが使えない時など、例えば、「○○岳と××山がコンパスで何度と何度に見えます」というだけで、捜索範囲がかなり絞られます。

もし、高度計を持っていて、現在地の標高を伝えることが出来れば、更に範囲は絞られます。

情報量は多いほど発見は容易になり、迅速な救助が可能になるでしょう。

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豆知識

地形図の縮尺

地形図上での距離の計測について。

1/25000地形図では1cmは250mです。

今回の想定問題で使っているようなコンパス(オリエンテーリング用コンパス)があれば、距離尺や定規がついているので、距離の計測も楽にできます。

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簡便法として、自分の指の幅などを覚えておくのも便利です。

例えば、親指の幅が2cmなら地形図上では500m、人刺指と小指の間が10cmなら地形図上では2.5kmになります。

これらを覚えておけば、指などを使って、地形図上のおおまかな距離を素早く確認することができます。

大雑把な角度を知る方法

コンパスを使わずに角度を知る方法として、こぶしを握り、腕をいっぱいに伸ばした時のこぶしの横幅は、ほとんどの人が約10°です。

片手でグーを握り、体の真正面に突き出し、こぶしの幅を9つ分、水平に移動してみて下さい。

おおむね90°真横に来るはずです。

知っていれば何かの役に立つかも知れません。

余談ですが、筆者はこの方法を使って太陽があと何時間で沈んでしまうのかを測ったりします。

太陽も星も1時間に15°動きます。

季節にもよりますが、太陽と地平線がこぶしを縦にして3個分ならあと2時間~3時間以内で日没なのがわかります。




看板(下)



プロフィール

フリーランサー。元船員(航海士)
学生時代に山岳部チーフリーダーを経験し、阿寒、知床、大雪を中心に活動。
以来、北海道の山をオールシーズン、単独行にこだわり続け35年。
現在は主に日高山脈をフィールドにしている山オタクのライター。

※他サイトにおいて元山岳部部長を名乗る個人・団体が存在しますが、それらは当サイトとは一切関係ありませんのでご了承ください。



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