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元山岳部部長の登山講座

懐かしい昭和の登山装備。ヘッドランプ

懐かしい昭和の登山装備たち。

今回は、昭和の終わりころに使用していた、単1乾電池×4個仕様の「ヘッドランプ」を紹介します。




昭和60年ころに使用していた「サンヨーヘッドランプ」

今から40年近く前になりますが、そのころ登山に使用していたヘッドランプは、大型のものがほとんどで、現在のLEDランプように小型軽量、かつ大光量、長寿命といった商品は存在しませんでした。

下の画像のヘッドランプは、「サンヨーLK-1405」という型式のヘッドランプで、筆者が昭和60年(1985年)ころに購入し、登山用として使用していたものです。

電源は単1乾電池×4本だったので、電池ボックスは腰ベルトに付けるようになっていて、重さは電池込みで739gもあります。

サンヨーLK-1405

ランプ部分は現在のヘッドランプとは比較にならないほど大きく、直径は6.5cmもあります。

大きな反射板の中央に4.8Vの一般的な豆電球1個が点灯します。

この手の豆電球は決して明るいとは言えませんので、光が拡散しないよう大きな反射板を使用して、スポット照射出来るようになっています。

ランプ部。反射板が大きい。

ランプは上下に首を振ることができ、ランプの上部にはゴムで防水された電源スイッチがあります。

スイッチを押すたびにON、OFFと切り替わります。

光量が変わったり、点滅したりなどという技は一切ありません。

首が上下に振れる。

防水性の電源スイッチ。

豆電球を交換する時は、ランプの正面がフタのようになっていて、フタをねじると反射板、豆電球が一緒に取れます。

フタのネジ山には内部に水が入らないよう、ちゃんとパッキンが入っています。

フタを外した様子。

中には球切れ用の予備電球が1個入っています。

予備の豆電球が入っている。

豆電球は反射板中央にある金属の台座を軽く引っ張ると、台座ごと抜け、簡単に電球交換が出来ます。

豆電球を外した様子。

電池ボックスです。

電源は単1乾電池4本なので、かなり重く、電池を入れた状態だと電池ボックスだけで626gもあります。

電池ボックス。

電池ボックスの背面には腰のベルトに付けられるよう金属製のフックが付いています。

このフックは電池ボックス上部の白いフタの留め具を兼ねています。

電池ボックス(背面)。

電池ボックスの内側。

電池を入れた様子。4本の単1電池を直列に入れる。

スイッチをONにした状態です。

現在のLEDヘッドランプとは比較にならないほど暗いですが、スポット照射になっているので、それなりの光量があり、足元や付近を照らすだけなら十分な明るさです。

電池の寿命は短く、ランプが明るいのは最初の2、3時間程度で、一晩付けっぱなしにしておくと、ホタルの光くらいになってしまい、翌日にはほとんど役に立ちません。

なので、ザックが重たくなるのを覚悟で、必ず予備の単1乾電池を持って行きました。



更に古い時代のヘッドランプ。昭和30年ごろのエバニューヘッドランプ

このヘッドランプ(手提げ灯)は、昭和30年(1955年)ごろ社会人山岳会で活動していた筆者の父(現在91歳)が当時登山に使用していたものです。

エバニューヘッドランプ。

全体に鉄製で出来ており、とても頑丈な作りです。

重さは電池込みで、930gもあります。

このヘッドランプは手提げ灯として使用できるほか、ランプ部分を電池ボックスから外して頭に付け、ヘッドランプとして使用することができると聞きました。(残念ながらランプを頭に付けるためのパーツは見当たりませんでした。)

ランプを電池ボックスから外して頭に付ければヘッドランプとして使用可能。

名盤をよく見てみると、「EVERNEW TOKYO」のロゴが読み取れます。

クラシカルなエバニューロゴ。

このエバニューロゴは現在では見かけませんので、国産登山用品メーカーの老舗である「株式会社エバニュー」のホームページを調べてみたところ、このロゴは昭和8年(1933年)にエバニューブランドが登場した当時のロゴであることがわかりました。

出典:株式会社エバニューHP。

このヘッドランプは昭和30年ころに使用していたものですが、購入時期はわかりません。

このロゴが昭和8年からいつまで使用されていたのか記述がありませんので、製造時期は特定出来ませんが、貴重なものには違いないと思います。

電源とランプですが、やはり単1乾電池4本と豆電球1個(6V)ということで、足元を照らすには十分な明るさですが、電池寿命が短く、つけっぱなしにしていると2,3時間で暗くなってしまいます。

電池ボックス上部にあるシンプルなスライド式スイッチ。

電球はそれなりに明るいがすぐに電池がなくなる。

ランプ前面の蓋をねじると豆電球(6V)が現れる。

本体横の二つのボッチを押すと電池ボックスのフタが開く。

電池ボックスを開いた様子。非常にシンプルな構造。

このヘッドランプですが、手提げ灯として使用する場合、下の写真のように、持ち手が外れますので、持ち手をズボンのベルトなどに通し、腰に付けた状態で携行することもできます。

持ち手。普段は閉じている。

 

持ち手が開くので、ズボンのベルトなどに通して携行できる。

また、ランプ部分の後部にプラスチック製のダイヤルが付いていて、ダイヤルを回すと豆電球が無段階に上下して、ワイドやスポット照射にすることができます。時代物の割に、なかなかやります。

ランプ部分の後部に白いダイヤル(ワイド・スポット調整)が付いている。

ダイヤルを回すと豆電球が上下して、ワイド・スポットの調整ができる。写真は下がった状態(スポット)。

豆電球が上がった状態(ワイド)。



昭和~平成~令和、ヘッドランプの変遷。

LEDヘッドランプが登場するのは平成12年(2000年)前後なのですが、それ以前で大光量のヘッドランプと言えば、上記で紹介したような単1タイプの大型ヘッドランプしかなかったと記憶しています。

下の画像は冒険家植村直己氏が昭和59年(1984年)に北米マッキンリー(6190m)の雪洞内で自撮りした画像ですが、ランプと電源が分離した大型ヘッドランプ(ナショナルヘッドランプBY180Yと思われる)を使用してしているのがわかります。(※ナショナルヘッドランプBY180Yは単1乾電池×4本タイプで、電球は豆電球ではなくクリプトン球を使用しているので、上記で紹介したサンヨーLK-1405より明るくなっています。)

低温下では、ライトと電池ボックスが分離している方が、電池を体温で保温できるので、こういうタイプのヘッドランプを植村氏が選んだのだと思われますが、単1型の予備電池を大量に持って行ったことが想像され、装備の軽量化という点ではまったく話になりませんが、LEDが登場する以前は一流の登山家でもこのようなヘッドランプを使用せざるを得ず、当時のヘッドランプ事情がよくわかる写真です。

植村直己氏のヘッドランプ。ナショナルBY180Yと思われる。出典:文藝春秋 植村直己の世界

ナショナルBY180Y(生産終了)出典:Panasonic HP

この当時は、単1×4本タイプの大型ヘッドランプのほかに、単3乾電池タイプの小型ヘッドランプもありました。

下の画像は筆者が平成13年(2001年)まで使用していた単3乾電池×4本タイプのヘッドランプです。

現在主流のLEDヘッドランプのように電池がランプ部分と一体化していますので、単1タイプとは比べ物にならいないほど使い廻しが良く、大変重宝しましたが、単1タイプと比べると大分暗く、光量はテン場限定で使用するという程度で、電池寿命も短く、一晩付けっぱなしにしておくと、翌日には電池交換が必要になります。

電球はニップル球タイプの豆電球で、光が拡散しすぎないようになっています。

LED登場前の単3×4本タイプのヘッドランプ。(平成13年撮影)

下のヘッドランプは筆者が初めて購入したLEDヘッドランプ(HOHER BERG製)です。

電源は単4乾電池×3本で、電池を含む総重量が133gと、現行のLEDヘッドランプと変わらないコンパクトさです。

このヘッドランプを購入したのは平成14年(2002年)ですが、これ以降、LEDヘッドランプは急速に普及し、従来型のヘッドランプは衰退していきます。

このヘッドランプはLED電球とクリプトン球が付いており、この当時はまだこう言った従来型ヘッドランプとのハイブリッドタイプがけっこうありました。

このころのLEDヘッドランプは、現行のLEDヘッドランプと比べるとかなり暗く、明るさは前述の単1タイプの大型ヘッドランプにはまだ追いつかず、足元だけ照らすといった感じでしたが、電池寿命が考えられないほど長くなり(LED3個点灯150時間、LED1個点灯240時間、クリプトン球4時間)、ヘッドランプの電池寿命が数時間だった時代にあって、画期的なものでした。

HOHER BERG製LED+クリプトン球ヘッドランプ。

下のヘッドランプは平成24年(2012年)に購入した、モンベルパワーヘッドランプ1124432です。

初期型のLEDヘッドランプは足元しか照らせなかったので、値段が手ごろで、照射距離がある程度長いものを探しこの商品を購入しました。

電源は単4乾電池×3本で、HIGH91ルーメン(17時間)、LOW23ルーメン(62時間)、サブライト5ルーメン(103時間)と汎用性が高く、重量も電池込みで94gとコンパクトで、最新のLEDヘッドランプとほとんど変わらない仕様になっています。

初期型LEDヘッドランプより電池寿命はやや短くなりましたが、抜群に明るくなり、この時点で、明るさ、電池寿命などすべてにおいて、LEDヘッドランプは従来型ヘッドランプを完全に追い越しています。

モンベルパワーヘッドランプ1124432

最新モデルがハイパワー化、リチウム電池化している中、通常の登山ではこの程度のスペックでもそんなに不便ではなく、現在も活躍しています。



メーカーの明るさ競争と弊害。登山では明るさだけではなく暗さもほしい。

上記のLEDヘッドランプでも登山では十分なスペックだと満足していましたが、近年では数百ルーメンから千ルーメンを超えるモデルが続々と登場し、電源もリチウム充電池の商品が多くなりました。


GENTOS(ジェントス) LED ヘッドライト USB充電式 【明るさ1100ルーメン/実用点灯7時間】

電源については乾電池とリチウム電池で好みが分かれるところですが、電源のリチウム化について言えば、リチウム電池は、乾電池に比べ低温に強いので冬山などでは期待できると思います。

ハイパワー化についてですが、明るければ明るいほど夜道では有利なのですが、いくら明るいヘッドランプを使用したとしても昼間のようなわけにはいかず、夜間のルートハンティングは常に道迷いや転倒などのリスクがあります。

夜間は行動せず、迷ったりしても明るくなるまで安全な場所でビバークするのが基本です。

登山道がよく整備された山のご来光登山などでは、ハイパワーヘッドランプは心強いと思いますが、基本的に夜間は行動しないと決めているのであれば、ハイスペックモデルでないものの方が、軽量なので登山では使い廻しが良いと思います。

また、ヘッドランプのハイパワー化は、テン場での思わぬトラブルの原因にもなっており、深夜にわざとじゃなくても強力ライトをテントにちらちら照射されると、とても眠れたものではありません。

光量を絞る、ライトを下向きにするなど工夫すれば良いのですが、そうではない登山者がけっこうおります。

また、深夜、テント内でどうしても点灯したい時などは、点灯すると明るすぎて、横で寝ているメンバーを目くらましにしてしまうことなどもあります。

こういったトラブルの原因の一つとして、最新モデルは光量を最小に絞っても20~30ルーメン程度のモデルが多く、20~30ルーメンはそれなりの明るさがあります。

テン場では数ルーメン程度の光量があればほとんどの諸作業が出来ますが、LOWビームが数ルーメンというモデルは全体的に少なくなっています。


PETZL(ペツル) E093FA ティカ 【300ルーメン/弱6ルーメン】

ヘッドランプのハイパワー化は悪いことではありませんが、登山では明るさだけではなく、「暗さ」も選べる仕様のものが欲しいところです。






プロフィール

フリーランサー。元船員(航海士)
学生時代に山岳部チーフリーダーを経験し、阿寒、知床、大雪を中心に活動。
以来、北海道の山をオールシーズン、単独行にこだわり続け35年。
現在は主に日高山脈をフィールドにしている山オタクのライター。

※他サイトにおいて元山岳部部長を名乗る個人・団体が存在しますが、それらは当サイトとは一切関係ありませんのでご了承ください。



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