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元山岳部部長の登山講座

カムエク登山・渡渉に注意!札内川の水量を知る方法とは?

カムエク登山・渡渉に注意!札内川の水量を知る方法とは?

カムイエクウチカウシ山(1979m)に登るには、最終ゲートから道道静内中札内線をしばらく歩いたあと、七ノ沢出合で札内川本流に入渓し、八ノ沢出合までの約2時間は河原歩きや河畔林の巻き道、数回の渡渉を繰り返しながらの行程になります。

札内川本流は、川幅がそこそこ広く、場所によっては20mほど渡渉する場合もあります。

川幅の広い札内川本流では、台風や長雨などで一旦水量が増すと、晴天が続いたとしても、渡渉が出来る水位に下がるまで数日から1週間程度かかる場合がけっこうあります。

一定以上の水位では、転倒や流されてしまうリスクが高まり、渡渉は非常に危険になりますので、カムエク登山自体諦めなくてはならなくなります。

入山前に札内川本流の水位がわからなければ、せっかく準備をしても無駄足になってしまう可能性があります。

今回は札内川での溺死等の事故を防止するために、札内川上流の水位と水位観測所のデータや札内川ダムの流入量の関係について、筆者が収集した記録をもとに、札内川本流の渡渉が可能かどうかの判断について調査した結果をまとめました。

※令和元年7月にカムエクで登山者がヒグマに襲われ負傷する事故が連続して起こりました。警戒して下さい。事故の詳細については「緊急!ヒグマが登山者を襲撃~カムイエクウチカウシ山」をご覧ください。

※R5.5月、竜潭上流観測所が水位の観測を再開したので、記事の内容を変更しました。




札内川本流の水量を知る方法は二つある~「竜潭上流観測所の水位」と「札内川ダムの流入量」

札内川本流の水量を知る方法は2つあります。

一つは札内川ダム上流5.8kmにある「竜潭(りゅうたん)上流観測所」の水位データを見て、水量を推測する方法、もう一つは、札内川ダムの流入量を見て、おおよその水量を推測する方法があります。

それぞれの調べ方や、注意点などについて説明していきます。

①竜潭上流観測所の水位を調べる方法~一目瞭然でわかりやすいが注意が必要。

札内川本流の水位を知る方法としては、ネットで、国土交通省の「水文水質データベース」又は「川の防災情報」を検索し、札内川に数カ所設置してある観測所の水位データを見るのが一番良い方法です。

札内川ダムでは放流量を常時コントロールしていますので、ダムより下流の観測所の水位データは参考程度にしかなりませんが、ダムより上流にあって、七ノ沢出合に一番近い「竜潭上流観測所」(幌尻ゲートから上流約1km)の水位データは、現場の水位の増減をほぼ正確に反映していると言えます。

竜潭上流観測所

竜潭上流観測所はH28年8月の集中豪雨以降、機械が壊れたのか水位の観測を停止していましたが、R5年5月に観測を再開しました。

ネットで国土交通省の「水文水質データベース」のページから、竜潭上流観測所の観測所情報を検索するか、「竜潭上流観測所」のキーワードだけでもヒットすると思います。

竜潭上流観測所の観測所情報(出典:国交省水文水質データベース)

竜潭上流の観測所情報が表示したら、「リアルタイム水位」をクリックします。

竜潭上流観測所のリアルタイム水位(出典:国交省水文水質データベース)

リアルタイム水位では、最新の水位と、過去一週間程度の水位の増減を知ることができますが、水位の表示は「TP(東京湾の平均水面からの高さ)」のみで表示されています(496m前後)ので、河床からの水位が具体的に何センチなのかは知ることができません。

そこで、竜潭上流の水位(TP)が何メートルの時に、現場の水位がどの程度なのか、登山を兼ねて調べに行きましたが、その結果は以下のとおりです。

※水深は筆者(身長173cm)を基準にしています。

  • 令和5年(2023年)8月22日12:50ころ七ノ沢出合付近
  • 渡渉時の水深は太腿くらい(約60cm)、慎重に渡渉しなければ体を持っていかれる、渡渉ポイントは少ない
  • 竜潭上流の水位496.07m
  • 札内川ダムの流入量11.00㎥/s
  • R5.8.22七ノ沢出合付近 496.07m

     

  • 令和5年(2023年)8月24日13:00ころ七ノ沢出合付近
  • 渡渉時の水深は膝上くらい(約50cm)、浅い場所を探さなければ渡渉はやや困難
  • 竜潭上流の水位496.00m
  • 札内川ダムの流入量6.08㎥/s
  • R5.8.24七ノ沢出合付近 496.00m

     

登山の往き帰りの時に調べたものなので、まだ2回しかデータを取っていませんが、このデータからは、竜潭上流の水位の増減と現場の水深の増減がほぼ同じであることがわかります。

今後、データを取っていくことで、より確度の高い数値が出てくると思いますが、現在のところは、「竜潭上流の水位が496.00mの時現場の水深は50cmくらい」(R5.8現在)と覚えておいて良いと思います。

札内川本流では、渇水した時の水深が膝下程度(約40cm)になりますので、渇水時の竜潭上流の水位は495.90m程度になることが予想されますが、竜潭上流観測所の本年の過去データを見る限り、一番減少した時の水位は495.87m(R5.8.2)となっており、やはり、竜潭上流の水位の増減は、現場の水深の増減を反映していると言えそうです。

ここで、ひとつ注意点があります。

竜潭上流観測所の水位の表示が「TP(東京湾の平均水面からの高さ)」で表されているという点ですが、TPは地震や地殻変動、標高の測定方法の改正などで変化することがあり、観測所の管理者(北海道開発局)が標高の変化の情報を水位データに反映させると、同じ水位でも誤差が生じてしまう可能性があります。

例えば496.00mの時に現場の水深が50cmだったものが、標高が50cm低くなると、同じ496.00mでも水深が1mになってしまうということです。

2000年代に入ってから行われた全国的な標高の改正(国土地理院)では、場所によって数センチ~数十センチ程度の標高の変化が実際にあるのですが、北海道開発局が、いつ誰が計測した標高データを、どのタイミングで水位データに反映させているのかについては定かではありません。

下の表は、竜潭上流観測所が平成10年(1998年)~令和5年(2023年)までに観測した水位で、その年に記録した最低水位を抽出してグラフにしたものです。

これによれば、90年代後半の最低水位は495.70m前後であったものが、2000年代に入ってからの十数年間は495.30m前後と、約40cmほど急激に下がり、欠測期間を経て、観測を再開した2023年には495.90m前後と約60cmも急上昇しています。

年によって、水の多い少ないは当然あると思いますが、札内川の渇水状態の水深がだいたい40cm程度であることを考えると、最低水位が年によって、40cm~60cmも変化するのは考えづらく、標高の変化を水位に反映させたのか、水位を測定する機械に誤差があったのではないかと想像します。

このように、水位の過去データを見ていくと、標高の変化などで計測の基準が大きく変わったのか、何らかの誤差が生じたとしか思えない年があります。

竜潭上流の水位が何メートルの時に現場の水深が何センチと把握していたとしても、このような計測値の大きな変化が起こると、その法則は使えなくなってしまいます。

今のところは(R5.8現在)「竜潭上流の水位が496.00mの時現場の水深は50cmくらい」ですが、来年以降この法則が使えるのかどうかについては、数値に不自然な変動がないのかどうか、継続的に水位のデータを観察していく必要があると思います。

竜潭上流観測所の水位を参考にする方法は、以上のような点に気をつけなければなりませんが、次に紹介する札内川ダムの流入量を見て、現場のおおよその水深を知る方法は、今のところ、年によって基準が変化するようなことは起こっていません。



②札内川ダムの流入量を調べる方法~ややアバウトであるが安定感がある。

竜潭上流観測所の水位を参考にする方法は、前述で紹介した注意点のほかにも、観測機器の故障やメンテナンスなどで、一時的に観測データが閲覧できないことなどもありますが、札内川ダムの流入量はネットで常時公開されています。

札内川ダムの流入量は、北海道開発局のダムリアルタイム情報で閲覧することができます。

ネットで「札内川ダム ダムリアルタイム情報」で検索するとヒットします。

札内川ダムリアルタイム情報(出典:北海道開発局ダムリアルタイム情報)

このページでは、リアルタイムで札内川ダムの貯水位(m)、全放流量(㎥/s)、全流入量(㎥/s)を公開していますが、ここで使用するのは、ダムへの「全流入量(㎥/s)」です。

矢印が流入量(出典:北海道開発局ダムリアルタイム情報)

全流入量とはダムの上流から流れ込む川の水や、支流、川岸などからダムへ入り込むすべての水量を毎秒で表したものです。

ですので、直ちに「全流入量の増減=ダム上流の水位の増減」とは言えないのですが、全流入量は上流の水位の状況を知る上で有力な情報となり得ます。

ダムの全流入量を参考にして、上流の水深を知るためには、ダムの全流入量の増減と、上流の水深の増減が比例していることと、具体的に全流入量が何㎥/sの時に、上流の水深が何センチくらいになるのかについて、明らかにしなければなりません。

次に、筆者が過去のカムエク登山の時に記録した札内川本流の水深の増減と、札内川ダムの全流入量の増減に関係性があるのかどうかについて検証してみます。

現場の水深とダムの流入量は関係があった!過去の登山記録と照合

札内川ダムの流入量などの過去データは、ダムリアルタイム情報ではわかりませんので、ネットで「水文水質データベース」を検索し、札内川ダムの「任意期間ダム諸量」のページで知りたい期間を指定して検索すると平成14年(2002年)6月~現在までの、時間ごと過去データを閲覧することができます。

平成14年以前の札内川ダムのデータについては、「ダム諸量データベース」を検索すると、平成10年(1998年)~現在までの、日ごとの過去データを閲覧することができます。

筆者は縦走などを含めて過去8回カムエクを訪れ、札内川七ノ沢出合~八ノ沢出合間を14回通過しています。

以下は、過去14回の記録と札内川ダムの流入量との比較です。

 

  • ①平成12年(2000年)7月15日09:00ころ七ノ沢出合付近
  • 渡渉時の水深は膝上くらい(約50cm)、浅い場所を探さなければ渡渉はやや困難
  • 流入量7.33㎥/s(時間ごとのデータがないので推測値)
  • 画像なし

 

  • ②平成12年(2000年)7月16日14:00ころ八ノ沢出合付近
  • 渡渉時の水深は膝上くらい(約50cm)、浅い場所を探さなければ渡渉はやや困難
  • 流入量6.01㎥/s(時間ごとのデータがないので推測値)
  • 画像なし

 

  • ③平成14年(2002年)9月21日13:00ころ八ノ沢出合付近
  • 渡渉時の水深は膝下(約40cm)、ほとんどの場所で渡渉が容易
  • 流入量3.12㎥/s
  • H14.9.21八ノ沢出合付近 3.12㎥/s

     

  • ④平成15年(2003年)9月25日14:00ころ七ノ沢出合~八ノ沢出合中間付近
  • 渡渉時の水深は膝下(約40cm)、ほとんどの場所で渡渉が容易
  • 流入量4.30㎥/s
  • 画像なし

 

  • ⑤平成30年(2018年)9月1日12:00ころ七ノ沢出合付近
  • 渡渉時の水深は太腿くらい(約60cm)、慎重に渡渉しなければ体を持っていかれる、渡渉ポイントは少ない
  • 流入量12.94㎥/s
  • H30.9.1七ノ沢出合付近 12.94㎥/s

     

  • ⑥平成30年(2018年)9月2日15:00ころ七ノ沢出合付近
  • 渡渉時の水深は太腿くらい(約55cm)、慎重に渡渉しなければバランスを崩す。
  • 流入量8.85㎥/s
  • H30.9.2七ノ沢出合付近 8.85㎥/s

     

  • ⑦令和2年(2020年)8月16日09:00ころ七ノ沢出合付近
  • 渡渉時の水深は膝上くらい(約50cm)、浅い場所を探さなければ渡渉はやや困難
  • 流入量11.24㎥/s
  • R2.8.16七ノ沢出合付近 11.24㎥/s

     

  • ⑧令和2年(2020年)8月18日08:00ころ七ノ沢出合付近
  • 渡渉時の水深は膝くらい(約45cm)、浅い場所を探さなければ渡渉はやや困難
  • 流入量7.31㎥/s
  • R2.8.18七ノ沢出合付近 7.31㎥/s

     

  • ⑨令和2年(2020年)9月28日11:00ころ七ノ沢出合付近
  • 渡渉時の水深は尻くらい(約80cm)、慎重に渡渉しなければ体を持っていかれる、渡渉ポイントは少ない
  • 流入量19.88㎥/s
  • R2.9.28七ノ沢出合付近 19.88㎥/s

     

  • ⑩令和2年(2020年)9月30日09:00ころ七ノ沢出合付近
  • 渡渉時の水深は膝上くらい(約50cm)、浅い場所を探さなければ渡渉はやや困難
  • 流入量9.17㎥/s
  • R2.9.30七ノ沢出合付近 9.17㎥/s

     

  • ⑪令和3年(2021年)8月29日10:00ころ七ノ沢出合付近
  • 渡渉時の水深は膝くらい(約45cm)、浅い場所を探さなければ渡渉はやや困難
  • 流入量5.85㎥/s
  • R3.8.29七ノ沢出合付近 5.85㎥/s

     

  • ⑫令和3年(2021年)8月31日09:00ころ七ノ沢出合付近
  • 渡渉時の水深は膝下(約40cm)、ほとんどの場所で渡渉が容易
  • 流入量4.77㎥/s
  • R3.8.31七ノ沢出合付近 4.77㎥/s

     

  • ⑬令和5年(2023年)8月22日12:50ころ七ノ沢出合付近
  • 渡渉時の水深は太腿くらい(約60cm)、慎重に渡渉しなければ体を持っていかれる、渡渉ポイントは少ない
  • 流入量11.00㎥/s
  • R5.8.22七ノ沢出合付近 11.00㎥/s

     

  • ⑭令和5年(2023年)8月24日13:00ころ七ノ沢出合付近
  • 渡渉時の水深は膝上くらい(約50cm)、浅い場所を探さなければ渡渉はやや困難
  • 流入量6.08㎥/s
  • R5.8.24七ノ沢出合付近 6.08㎥/s

     

下の表は上記の記録を一覧にしたものですが、過去の流入量と水深には一定の関係があることがわかります。

この比較結果からわかることですが、流入量が概ね5㎥/s以下だと水深は膝下でほぼ問題なく渡渉ができますが、流入量が概ね6㎥/sを超えると、水深は膝~太腿くらいになり、渡渉ポイントは限定されてきます。

登山者の身長や体格にもよりますが、流入量が概ね13㎥/sを超えると渡渉は慎重に行わなければならない場合も起こり、渡渉に弱い・不慣れなどの場合、バランスを崩す、転倒するなどのリスクが高まると思われます。

流入量が概ね20㎥/sを超えるとロープを使用しなければ渡渉できない事態が起こるのではないかと思います

筆者は札内川での渡渉が不可能だった経験は今のところありませんが、渡渉の限界は20㎥/s~30㎥/s付近なのではないかと推測します。

参考でヤマレコの利用者さんの登山記録で渡渉が出来なかった事例を1つ紹介します。

ヤマレコによれば2018年7月8日~9日にかけてカムエクに入られた方が増水で七ノ沢出合で停滞させられ、翌日も水が引かなかったので登山を中止した内容が確認できます。(出典:ヤマレコ カムイエクウチカウシ山撤退2018年7月8日)

この日の流入量ですが、

  • 7月8日午前9時 18.92㎥/s
  • 7月9日午前9時 15.36㎥/s

やはり、流入量が概ね13㎥/sを超えると渡渉が難しい場合が発生するようです。

八ノ沢では?

筆者が札内川を歩いた時の八ノ沢の水量ですが、いずれも渡渉が問題となるようなことは一度もありませんでした。

札内川本流が増水していても、川幅の狭い八ノ沢では、流心部の幅が狭く、水流の圧力が本流よりも弱いこと、また本流に比べて水が引けるのが比較的早いことなどが理由だと思われます。



まとめ

今回の検証記事では、カムイエクウチカウシ山の登山計画をするにあたって、竜潭上流観測所の水位や札内川ダムの流入量をチェックすることはかなり有効な手段であることがわかりました。

まずは、竜潭上流観測所の水位をチェックし、保険として札内川ダムの流入量もチェックしておけば、更に安心なのではないかと思います。

※なお、竜潭上流観測所の水位の増減や、札内川ダムの流入量の増減と札内川上流の水深の増減が概ね比例することについては、個人の調査結果であって、札内川ダム管理支所の公式見解ではありません。

また、ダムの流入量と札内川上流の水位の関係について、同支所の担当者に問い合わせてみましたが、「ダムの流入量は支流からの流入など多くの要素がありますので、ダムへの流入量と札内川上流の水量は完全に比例するとは言えない」とのことでした。

竜潭上流観測所や札内川ダムのデータを登山に活用するかどうかについては、登山者個人の判断ということになります。


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プロフィール

フリーランサー。元船員(航海士)
学生時代に山岳部チーフリーダーを経験し、阿寒、知床、大雪を中心に活動。
以来、北海道の山をオールシーズン、単独行にこだわり続け35年。
現在は主に日高山脈をフィールドにしている山オタクのライター。

※他サイトにおいて元山岳部部長を名乗る個人・団体が存在しますが、それらは当サイトとは一切関係ありませんのでご了承ください。



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