26Sep
今回は、沢登り初心者のための沢の基本的な知識や歩き方などについて説明していきます。
沢登りとは?
真夏の沢登りは冷たくて気持ちが良く、楽しいものです。
沢登りの時期は、初夏から秋にかけて、雪が降る季節以外なら楽しむことができます。
沢登りといっても、ザイルなどの登攀用具を使わなければいけないような、上級者向けの沢登り(狭い意味での沢登り。登山では登攀を伴うような難易度の高いものだけを「沢登り」という場合もあります。)もあれば、沢登りシューズや地下足袋さえあれば、登れるような初心者向けの沢登り(広い意味での沢登り。難易度が低く、登攀用具を使用しなくても遡行が可能なものも「沢登り」という場合もあります。)もたくさんあります。
山によっては、ルート上に沢があるため、否応なしで沢登りをしなければならない場合もあり、このような山では基本的な沢の知識や歩き方を覚える必要があります。
沢を登るということは、基本的に登山道や標識などがない場所を歩くということになります。
登山道や標識などがないということは、現在地がよくわからなくなりますので、当然のことながら読図能力も必要になってきます。
また、「沢勘」といって右岸を歩くのか、左岸を歩くのか、渡渉するのかなど、常に勘を働かせて自分でルートハンティングしながら一番安全で歩きやすい道を探せる能力も必要です。
沢登りのルートハンティングは、センスがものを言いますが、センスが足りなくても練習することで、ルートハンティングは上達します。
沢登りがうまくなるためには、とにかく沢を歩いてみることです。
沢装備について
靴
まず、一番大事なのは靴です。
「沢登りの靴」で説明したように、沢登りシューズや地下足袋などを用意する必要があります。
沢登りのある登山では、沢では沢登り用の靴を履き、尾根に取り付いたら登山靴などに履き替えるというのが一般的です。
この場合、登山靴を背負って沢登りをすることになります。
例外的には、日帰り登山で行程があまり長くない場合は、道の状況にもよりますが、登山靴に履き替えずに山頂まで登る場合などもあります。
ザック(リュック)
ザックは普通の登山で使うものと同じものを使いますが、装備品のパッキングには注意が必要です。
沢では転んだり、深みにはまったりしますし、深い場所ですと水深が腰より上の所もあります。
ですので、パッキングする場合は、ザックの中に大きめのゴミ袋をセットした上で、衣類や小物などの装備品はすべてビニール袋やジップロックなどに入れて防水してからザックの中に入れます。
ザックは水没すると、意外に奥の方まで浸水しますので、このようにパッキングすることで、防水は二重になり、装備品が濡れずに済みます。
服装
保温性が高い、ネオプレーン製の沢登り用の服もありますが、一般的な登山服で問題ない場合が多いと思います。
一般的な登山服は、吸汗・速乾・保温性がある素材(ポリエステルなど)で出来ていますので、乾きやすく、沢登りには適しています。
ズボンは特に濡れますが、速乾素材ですと、晴れた日なら尾根を歩いているうちに乾いてしまう場合がほとんどです。
その他の装備
ヘルメット
転倒は必ずといって良いほどしますので、ヘルメットは着用します。
ヘルメットは軽くて丈夫な登山用の物が良いでしょう。
手袋
軍手やグローブを着用します。
巨岩をよじ登る、高巻きをする、場合によっては滝をよじ登ることもあり、一般的な登山よりも手を使う頻度が増えます。
怪我防止のために手袋を着用します。
脚絆(スパッツ)
沢登りでは、脛の防護と靴や足袋の中に砂や小石が入らないよう、一般的には脚絆(きゃはん、スパッツ)を着用します。
脚絆は木綿にゴムが付いたものや、ネオプレーンのものがあります。
足袋や沢登りシューズとのマッチングで決めます。
靴下
靴下は普通のものでかまいませんが、ネオプレーン製の靴下は普通の靴下にくらべ足が冷えません。
足袋を履く場合の靴下は、先割れか、5本指のものを選びます。
ストック(トレッキングポール、つえ)
渡渉が不慣れな場合に、ストックが1本あると歩行が安定します。
水流が強い、沢床が見えないなどで、よろけたり、転んだりしますのでストックは重宝します。
ホイッスル
沢では音がかき消されますので、熊と異常接近してしまう可能性があります。
熊よけの鈴に加えてホイッスルがあると安心です。
沢の地形・名称について
沢登り概略図
上の図には沢登りで見られる一般的な地形の概略が描かれています。
最初は林道があって入渓ポイントがあります。
入渓すると最初は沢幅が比較的広く、流れも急ではなくて、玉砂利や砂のある河原や河畔林のある流域があり(後述写真1参照)、登っていくと沢幅は徐々に狭まり、流れは急になり、河原はなくなり、石や岩は段々と大きくなってきます。
途中、ゴルジュ・廊下(後述写真2参照 沢の両岸が垂直の壁になっている場所。北海道では函(はこ)と呼ぶ場合が多い)や滝など、通過が困難な場所もあり、両岸の急斜面をよじ登って上流に出る「高巻き」などもします。
更に登ると、巨岩帯(後述写真3参照)やガレ場なども見られ、沢の斜度は増して水量は少なくなって小川となり、沢の始まりである源頭部(後述写真4参照)に到達し、源頭部のすぐ上には尾根やカールなどがあります。
ルートによっては、源頭部まで行かずに途中で尾根に取り付く場合もあるでしょう。
歩き方について
最初にも書きましたが、沢登りでは読図能力と沢勘が必要です。
読図能力
間違って違う沢に迷い込まないよう、現在地を意識しながら歩かなければなりません。
現在地を知る方法として一番多いのは、沢のカーブの特徴や支流との出合い(合流点)の有無、函や滝などの特徴的な地形を見て、地形図と比較して現在地を知る方法です。
特に顕著な支流との出合いは、現在地を知る上で有効です。
高度計があれば更にわかりやすいでしょう。
入渓前に地形図を見て、沢の地形や特徴を頭に入れ、地形図はすぐに取り出して確認できるようにします。(地形図の読図方法について、詳しくは「地形図を持って登山に行こう」「登山のための地形図の読み方」「地形図の実戦的使用法1」「地形図の実戦的使用法2」を読んでみて下さい。)
沢勘
現在地を把握しながら同時に沢勘を働かせます。
沢登りでは、主に沢の両岸のなるべく平らで歩きやすい場所を選んでコース取りをします。
平らな河原があればそこを歩きますし、河畔林の中に、けもの道が付いていれば、河原よりも更にスピーディーに通過できます。
沢のカーブなどでは、片岸が崖になっていることがよくあります。
例えば右岸の河原を歩いている時に、前方に河原がなくなり、崖が出てきて通過困難が予測される場合には、早めに渡渉しやすいポイントを見つけて左岸に移動しなければなりません。
崖にぶち当たってから渡渉しようとしても、沢が深かったり、流れが急だったりして渡渉できない場合などもあります。
そういう時は、来た道を戻って渡渉点を探すことになりますので、時間のロスになります。(渡渉について詳しくは、「はじめての沢登り~渡渉の仕方とコツとは?」を読んでみて下さい)
また、前方に滝があったり函(ゴルジュ)がある場合は、沢の中を進むのが危険な場合がほとんどですから、そのような場合は岸の急斜面をよじ登って滝や函の上流に出るコースをたどります。
このことを「高巻き(たかまき)する」「巻く」などと呼びます。
また、このような道を「巻き道」と呼びます。
巻き道は、ほとんどの場合、急斜面で、崩れやすく、滑りやすいので注意が必要です。
滝であっても、状況によっては滝の中や脇をシャワークライミングしながら、よじ登れる場合もありますし、函でも水量が少ない場合などは、函の中を通過できる場合もあります。
このような場合は、高巻きするより安全でスピーディーに通過できますので、行けそうかなと思ったら、近寄って確認してみても良いと思います。
遠目では危なそうに見えても、近寄って見ると意外に行ける場合がけっこうあります。
このように、右岸を歩くか左岸を歩くか、渡渉するか、巻くかなど、常に歩きやすくて効率のよい道をルートハンティングしながら進むための目を「沢勘」と言います。
沢登りのまとめ
以上のように、沢登りには読図能力と沢勘が必要ですが、さらに沢では石がごろごろしていて、非常に歩きづらいので、一歩一歩なるべく平らで安定した地面を選んだり、場合によっては岩の上を飛び石することもあり、遠目で先の地形を確認しながらも、常に足元にも気を配りながら進むことになります。
また、沢音にかき消され、動物の気配がわかりづらくなりますので、熊の存在にも気を使いますし、雨が降ってきた時は、鉄砲水にも注意しなければならず、急な水量の変化がある場合は、直ちに避難できるポイントに移動しなければなりません。
このように、沢登りは、通常の登山とは違い、気を使うことが多く、登山の総合力が一定レベル以上必要になってきますが、決して上級者だけにしか行けない沢ばかりではありませんし、沢登りは夏山の醍醐味のひとつですから、天気のいい日に簡単な沢からチャレンジして見るのが良いと思います。