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登山用ヘルメットの選び方~工事用ヘルメットでもいいの?

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登山用ヘルメットの選び方~工事用ヘルメットでもいいの?

岩登り、沢登りを除き、登山にヘルメットをかぶる人はほとんどいません。

暑苦しいとか、誰もかぶってないからだと思いますが、普通に考えれば、転倒、滑落、落下物などの危険性がある場所ではヘルメットを着用するのが常識というか、かぶらなければいけません。

今回は、登山に使用できるヘルメットについて考えていきます。

 

ヘルメットの必要性。大切な頭部の保護

沢登りやクライミングに限らず、登山では常に、滑落、転落、転倒、落石の危険があります。

なので、登山者は全員ヘルメットを着用すべきなのですが、ヘルメットは快適性を損なうので一般の登山ではほとんどかぶる人はいません。

しかし、ヘルメットをかぶっていれば怪我をせずにすんだかもしれない遭難事故は多いようです。。

平成28年の山岳遭難統計を見てみます。

遭難件数が多い、長野、富山、北海道と登山者が多い富士山(静岡県警)の遭難状況について抽出しました。

滑落、転落、転倒、落石に絞って数字を出してみましたが、3県ともに遭難者に占めるこれらの事故の割合がいかに多いかがわかります。

3県全体で平成28年の遭難者は569名ですが、その内、滑落、転落、転倒、落石によるものは267名で、全体の46.9%を占めます。

滑落、転落、転倒した場合、致命傷になるのは頭部への外傷です。

頭さえ保護していれば大けがをまぬがれたり、命が助かるケースは多いと言えます。

 

登山用ヘルメットと工事用ヘルメットの安全基準

1 登山用ヘルメット

ヘルメットには安全基準があります。

登山用ヘルメットの安全基準にはヨーロッパの「EN12492」と国際山岳連盟の「UIAA106」があります。

EN規格に合格したヘルメットには「CE」マーク、UIAA規格に合格したヘルメットには「UIAA」マークが付いています。

登山用ヘルメットとして販売されているものには、通常これらのマークが貼ってあります。マークがなければ、まがい物かも知れません。

ENよりUIAAの方が基準が厳しくなっていますが、有名メーカーで販売されている登山用ヘルメットのほどんどは、EN、UIAAの両方に基準に合格しているものが多いようです。

2 工事用ヘルメット

工事用(作業用)ヘルメットにも厚労省の安全基準があり、この基準に合格したものにはヘルメットの内側に「労・検」ラベルが付いています。

厚労省規格のヘルメットには、ラベルに書いてあるように、「飛来・落下物用」「墜落時保護用」「電気用」の3種類がありますが、登山用に使用するとすれば、「飛来・落下物用」「墜落時保護用」の2つが記載されていることを確認して下さい。

「飛来・落下物用」と「墜落時保護用」になっているヘルメットは、あご紐の強度以外はEN規格の登山用ヘルメットとほぼ同等の試験をクリアしています。

3 EN12492、UIAA106、厚労省基準を比較

具体的にどんな試験をしているのか、確認してみます。

・EN12492規格

  • 5kgの半球形の物体を2mの高さからヘルメットの頭頂部に落下させた時の衝撃が10KN以下
  • 5kgの平面形の物体を50cmの高さからヘルメットの両側頭部、前頭部、後頭部へ落下させた時の衝撃が10KN以下
  • 3kgの円錐形の物体を1mの高さからヘルメットの頭頂部へ落下させ、貫通しない
  • あご紐に500Nの荷重をかけて、あご紐の伸びが25mm以下
  • 人形にヘルメットをかぶせ、ヘルメットの縁にワイヤーをかけ、ワイヤーを天井の滑車に通して末端に10kgのおもりをつける。おもりを持ち上げ17.5cm落下させてもヘルメットが外れない。

・UIAA106規格

  • 5kgの半球形の物体を2mの高さからヘルメットの頭頂部に落下させた時の衝撃が8KN以下
  • 5kgの平面形の物体を50cmの高さからヘルメットの両側頭部、前頭部、後頭部へ落下させた時の衝撃が8KN以下
  • 3kgの円錐形の物体を1mの高さからヘルメットの頭頂部へ落下させ、貫通しない
  • あご紐に500Nの荷重をかけて、あご紐の伸びが25mm以下
  • 人形にヘルメットをかぶせ、ヘルメットの縁にフック付きのワイヤーをかけ、ワイヤーを天井の滑車に通して末端に10kgのおもりをつける。おもりを持ち上げ17.5cm落下させてもヘルメットが外れない。

・厚労省規格(「飛来・落下物用」「墜落時保護用」)

  • 5kgの半球形の物体を1mの高さからヘルメットの頭頂部に落下させた時の衝撃が4.9KN以下
  • 5kgの平面形の物体を1mの高さからヘルメットの前頭部、後頭部へ落下させた時の衝撃が9.81KN以下
  • 3kgの円錐形の物体を1mの高さからヘルメットの頭頂部へ落下させ、貫通しない
  • 1.8kgの円錐形の物体を60cmの高さからヘルメットの両側頭部、前頭部、後頭部へ落下させた時にヘルメットの内側にできる円錐のへこみが15mm以下
  • あご紐に関する試験なし。

図で簡単に説明すると、下のようなイメージになります。

 

ENとUIAAを比較すると、同じ試験を行っていて、UIAAの方がクリアの基準がやや厳しいことがわかります。

ENと厚労省規格との比較では、ぱっと見ではわかりづらいのでひとつずつ比較してみます。

まず、3kgの円錐形を1mから頭頂部に落とす試験は同じ条件と言えそうです。(使用する落下物のとんがり具合は違うかも知れません)

5kgの平面形をヘルメットの側面に落とす試験では、ENでは前頭部、後頭部、両側頭部で行っていますが、厚労省では前頭部と後頭部でしか行っていません。なので、両側頭部は比較できませんが、前頭部と側頭部の強度は比較ができます。

ENは5kgの平面形の物体を50cmから落として10KN以下、厚労省は同じ5kgの平面形の物体を倍の1mから落として9.81KN以下です。

落下した時のエネルギーは質量が同じだった場合、落下する高さに比例して大きくなります。

ですので、厚労省のほうが前頭部と後頭部の強度は約2倍であると言えます。

ENでは同じ条件で両側頭部でも検査していますが、厚労省では行っていません。そのかわり、厚労省では両側頭部に1.8kgの円錐形の物体を60cmの高さから落としてへこみが15mm以下という試験をクリアしています。試験方法が違いすぎるので、両側頭部への衝撃については残念ながら比較はできません。

5kgの半球形の物体をヘルメットの頭頂部に落とす試験では、ENは2mで落下させて10KN以下、厚労省は1mで落下させて4.9KN以下です。

落下のエネルギーは高さに比例しますので、この試験ではENも厚労省もほぼ同等だと言えます。

あご紐の強度に関しては、厚労省では試験を実施していないので比較はできません。

厚労省とUIAAの比較では、頭頂部の強度はUIAAの方が勝っていると言えますが、前頭部と後頭部の強度は厚労省の方が勝っていると言えます。

 

登山用ヘルメットの種類と選び方

登山用ヘルメットには非常にラインナップが多く、選ぶが大変です。

タイプは大きく分けて2種類あり、帽体(ヘルメットの外殻)が硬いABS樹脂などを使用した「ハードシェルタイプ」、帽体が発砲ポリスチレンなどに薄いポリカーボネードをコーティングした「インモールドタイプ」に分かれます。

ハードシェルタイプはインモールドタイプに比べて重たいですが、耐用年数がやや長い傾向があります。(5年くらい)

インモールドタイプはとにかく軽いのが特徴です。

ヘルメット選びで一番大切なのは、頭のフィット感です。

頭にフィットしない、違和感のあるものは、長時間かぶっていると頭痛がしてきて非常に不快です。

タイプやグレードよりも、まずは、かぶってみて、しっくりくるものでなければなりません。

頭にフィットするものがあれば、あとは、重量や通気性、価格、デザインなど、自分の登山スタイルに合ったものを選びます。

ちなみに、工事用ヘルメットはABS樹脂やFRP(強化プラスチック)などのハードシェルタイプが一般的で、日本人の頭にフィットしない製品はほぼないといってもいいでしょう。

耐用年数は登山用ハードシェルタイプのヘルメットとほぼ同じで、重量は登山用より重たいものが多いですが、軽いものは登山用ハードシェルタイプとほとんどかわりません。(370gくらい)

工事用ヘルメットは登山用ヘルメットにくらべ、やや大きさがあります。

雨天時に大きめのヘルメットをかぶった状態でカッパのフードをかぶると、フードのゴムがうまく絞れなくて、雨が襟に侵入してきたり、首が動きづらくなることがあります。

このような場合は、フードを先にかぶってからヘルメットをかぶるとフィットしやすくなります。ただし、あご紐はきちんと調整しないと、はずれやすいので注意が必要です。

 

 

MAMMUT (マムート) Skywalker 2 (ハードシェルタイプ)

GRIVEL(グリベル)Salamander 2.0(サラマンダー 2)【日本正規代理店品】(ハードシェルタイプ)

MAMMUT (マムート) Rock Rider(インモールドタイプ)

PETZL(ペツル) シロッコ(インモールドタイプ)

タニザワ/ST148-EZ(工事用ヘルメット)

汗とりキャップが必要です。

ヘルメットは帽子と違い、汗を吸いませんから、汗がどんどん顔に流れて、目が痛くなります。

そのため、ヘルメット用の汗とりグッズがいろいろ出ていますが、薄手の汗とり帽はヘルメットとのフィット感を損なわないのでおすすめです。

(FG汗取り帽子 TY-4236) 迷彩帽 【クールプラス素材使用】 

 

まとめ~クライミング以外の登山では安い工事用ヘルメットでも十分です

両側頭部とあご紐の強度は比較できませんでしたが、工事用ヘルメットでも、登山用に引けをとらない強度があることがわかりました。

上方からの落下物については、工事用ヘルメットでも十分いけます。

滑落、転落した場合は、頭頂部よりも、ヘルメット側面の強度が問題になります。

側面の強度についても、前頭部、後頭部については工事用でも十分な強度があり、両側頭部は比較はできませんでしたが、それなりの試験をクリアしています。

問題があるとすれば、長い距離を滑落したり、転落した場合、あご紐の強度が弱いと途中でヘルメットが脱げる心配があると思います。

そういう意味で、ENやUIAAではあご紐の強度試験も実施しているのでしょう。

一方で、厚労省規格の「飛来・落下物用」「墜落時保護用」ヘルメットもあご紐の試験はしていませんが、営林署や林業関係の方は厚労省規格のヘルメットを着用していますので、滑落や転落時に簡単に脱げてしまうことは考えにくいでしょう。

まとめると、クライミングやバリエーションルートを行く人には、ヘルメットの重さやフィット感などの問題がありますので、登山用のEN12492規格かUIAA106規格のヘルメットになるでしょう。

それ以外で、沢登りや縦走、落石が多い山に行く場合は、工事用ヘルメット用は安くて(登山用は6000円以上しますが、工事用は1500円くらいからあります)、強度も十分なのでおすすめです。

登山用ヘルメットに比べると、ファッション性はありませんが、工事用でもいろいろなデザインや色もあります。

筆者も作業服店で買った工事用ヘルメットを登山用にかぶっていますが、意外と快適です。



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プロフィール



初登山は雌阿寒岳。

学生時代に山岳部リーダーを経験し、阿寒、知床、大雪を中心に活動。

以来、北海道の山を舞台にオールシーズン単独行にこだわり続け30年。

現在は主に日高山脈をフィールドにしている山オタクのアマチュア登山者。



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