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雪崩対策!~雪崩ビーコンの選び方

雪崩対策!~雪崩ビーコンの選び方

雪崩に巻き込まれた人は一刻も早く救出しなければなりません。

雪崩遭難の生存率は埋没後15分後で92%、45分後で26%と時間が経過すると急激に生存率が下がります。

遭難者は迅速に発見し、迅速に掘り起こさなければいけません。

そこで、必要になるのは、雪崩ビーコン(アバランチビーコン)とスノースコップです。

条件にもよりますが、遭難者も救助者も雪崩ビーコンを持っていれば、数分で埋没位置を特定することができます。

また、スコップをもっていれば、硬いデブリ(雪崩れて堆積した雪)を約1m掘るのに10分とかかりませんが、スキー板や手で掘ると約40分かかるとも言われます。

埋没位置がわかっても、スコップを持っていなければ仲間の命を救うことはできません。

今回は、雪崩ビーコンの種類や選び方について説明します。




雪崩ビーコンの種類

雪崩ビーコンにはアナログ式、デジタル式、アナログ、デジタル切り替え式の3つがあります。

雪崩ビーコンが登場したころはアナログ式ばかりでしたが、現在ではデジタル式が主流となり、アナログ式はほとんど出回っていません。

・アナログ式

アナログ式はアンテナが1本内蔵されています。

受信感度はデジタルよりも良く、広範囲の捜索が可能です。

電波は基本的に距離が近ければ近いほど強くなりますが、アンテナから発信する電波には独特の曲線があるので、時には電波の強い方向が2か所出ることもあります。

このような、ビーコンで捜索をするには、電波の特性をよく理解し、捜索のやり方を習熟する必要があります。

・デジタル式

雪崩ビーコンの現行モデルは、ほぼすべてデジタル式です。

デジタル式には、内蔵アンテナが1本~3本のタイプがあり、アンテナの本数が多いほど捜索の精度は上がります。

受信感度はアナログ式より劣ります。カタログスペックによる受信範囲はだいたい50m前後のものが多くなっています。

アンテナが1本ですと、アナログ式のビーコンと捜索方法はほとんど変わりませんが、2本、3本とアンテナの数が多くなると、それぞれのアンテナで受信した電波の強度を計算して遭難位置を示してくれますので、ビーコンの捜索に不慣れな人でも比較的簡単に正しい遭難位置にたどりつくことができます。(現在では一部の旧式モデルを除き、現行モデルのほとんどは3本アンテナになりました。)

 

・アナログ、デジタル切り替え式

このタイプは、遭難位置まで遠い時には感度の良いアナログで受信し、近くなったらデジタルに切り替えて捜索するようになっています。

アナログとデジタル、両者のいいところを搭載したビーコンと言えます。

雪崩ビーコンの互換性について

雪崩ビーコンに使用されている電波の周波数は世界的に457kHzに統一されています。

ですので、どのメーカーのどの機種であっても互いに送受信が可能で、世界中どこでも使用が可能ということになります。

 

どんな機種を選ぶのか?

雪崩ビーコンは価格が3万円台~7万円台と、決して安い買い物ではありません。

上位モデルと下位モデルの違いについてですが、上位モデルになるに従って捜索範囲が広く、捜索の精度も高くなり、また、複数捜索(一度に複数の遭難者を捜索できる機能)などの機能も充実します。(※安い機種であっても、捜索訓練を十分に積み、使いこなすことで迅速に捜索することは十分可能です。)

アンテナの本数についてですが、最近では3本アンテナが標準になりましたが、旧式モデルの中にはアンテナが1本(ピープスフリーライドなど)や2本(bcaトラッカーDTSなど)のモデルなどもあります。

アンテナの数は多いほど、捜索の精度は高くなります。

選ぶときのポイントは、受信感度が良いのかどうか(捜索範囲が広いかどうか)、アンテナの本数、電池寿命、価格などで選ぶことになります。

雪崩に遭ったとき、誰が遭難者で誰が救助者になるのかわからないので、自分が雪崩に埋没した時のことだけではなく、埋没した仲間を迅速に救助することも考えて機種を選ぶ必要があります。

また、実際の雪山で遭難者を捜索するときは、気温や埋没の状況によって、スペックで表示してある捜索範囲より狭くなってしまうことも十分あります。

初めて雪崩ビーコンを買うのであれば、操作に不慣れな人でも比較的精度の高い捜索ができる、デジタル式3本アンテナの機種を選ぶのが無難だと思います。

参考までに各メーカーの雪崩ビーコンを紹介します。

 

ピープス フリーライド

ピープス社は世界で初めて3本アンテナを採用したメーカーです。

このモデルはローコスト、ロースペックということで、とりあえずビーコンが欲しいという人には購入しやすい機種でしたが、2022年現在、中古しか手に入らなくなりました。

  • デジタル式、アンテナ1本
  • 受信範囲約40m
  • バッテリー寿命(発信時)200時間
  • 単3アルカリ電池1本使用
  • サイズ11×5.8×2.4cm
  • 重量110g(電池含む)
  • 約20000円
  • 原産国 オーストリア

アマゾン PIEPS(ピープス) フリーライド KEM870

 

ピープス パウダーBT

ピープス社ビーコンのエントリーモデルです。

単4リチウム電池が使用可能で、スマホに接続して各種設定やアップデートなどが可能になりました。

キャリングポーチが付属されています。

  • デジタル式、アンテナ3本
  • 受信範囲約60m、複数捜索可能
  • バッテリー寿命(発信時)アルカリ電池200時間、リチウム電池300時間
  • 単4アルカリ電池3本または単4リチウム電池3本使用
  • サイズ11.8×7.6×2.9cm
  • 重量220g(電池含む)
  • 約39000円
  • 原産国 オーストリア

アマゾン PIEPS(ピープス) ピープス パウダーBT
楽天   PIEPS(ピープス) ピープス パウダーBT

 

bca トラッカー4

バックカントリーアクセス(bca)社は1997年に世界初のデジタル式ビーコンを発表したメーカーで、使いやすさで定評のあるトラッカーシリーズの最新モデル(4代目)です。

  • デジタル式、アンテナ3本
  • 受信範囲約55m、複数捜索可能
  • バッテリー寿命(発信時)250時間
  • 単4アルカリ電池3本使用
  • サイズ12×7.5×2.6cm 
  • 重量215g(電池含む)
  • 約65000円
  • 原産国 アメリカ

アマゾン bacトラッカー 4 アバランチ ビーコントランシーバー
楽天   bacトラッカー 4 アバランチ ビーコントランシーバー

 

アルバ EVO 5

現行雪崩ビーコンの中では、最軽量、最小サイズのビーコンのひとつです。

ショップによっては4万円前後と、価格的にも比較的購入しやすい機種です。

  • デジタル式、アンテナ3本
  • 受信範囲約50m、複数捜索可能
  • バッテリー寿命(発信時)200時間
  • 単3アルカリ電池1本使用
  • サイズ11×7
  • 重量170g(電池含む)
  • 約43000円
  • 原産国 フランス

アマゾン アルバ(ARVA) アバランチビーコン EVO5 エボ5
楽天   アルバ(ARVA) アバランチビーコン EVO5 エボ5

 

マムート バリーボックス2

マムートバリーボックスシリーズは信頼性が高いビーコンのひとつとして知られていますが、この機種は2024年冬に登場した、シリーズ最新モデルで、以前のモデルよりも小型軽量化され、バッテリー寿命も長くなっています。

同じ価格帯のビーコンと比較すると、受信範囲が広く、ハイスペックなモデルです。

  • デジタル式、アンテナ3本
  • 受信範囲約70m、複数捜索可能
  • バッテリー寿命(発信時)450時間
  • 単4アルカリ電池2本使用
  • サイズ11.5×6.8×2.1cm
  • 重量180g(電池含む)
  • 約57000円
  • 原産国 スイス

アマゾン マムート アバランチビーコン Barryvox 2
楽天   マムート アバランチビーコン Barryvox 2

 

マムート バリーボックスS2

こちらも、2024年冬に登場した最新モデルで、バリーボックスシリーズの最上位モデルとなっています。

基本性能はバリーボックス2と同じですが、単4リチウム電池が使用可能になっています。

以前のモデルは、デジタル・アナログ併用タイプでしたが、今回のモデルからアナログアンテナは仕様からなくなりました。

  • デジタル式、アンテナ3本
  • 受信範囲約70m(アナログ時100m)、複数捜索可能
  • バッテリー寿命(発信時)アルカリ電池450時間、リチウム電池550時間
  • 単4アルカリ電池2本または単4リチウム電池2本使用
  • サイズ11.5×6.8×2.1cm
  • 重量180g(電池含む)
  • 約71000円
  • 原産国 スイス

アマゾン マムート(MAMMUT) Barryvox S2
楽天   マムート(MAMMUT) Barryvox S2



スノースコップ(スノーショベル)とゾンデ(プローブ)

雪崩ビーコンで遭難者の位置を特定できたら、次に雪を掘るわけですが、スコップを持っていないとどうしようもありません。

遭難者は完全に埋まっていない事例もたくさんあり、雪面に体の一部が出ていることもあります。

雪山にはビーコンとゾンデは持って行かなくても、原則、スコップは必ず持って行くようにします。

上の写真は筆者が使用している雪山用のスノースコップです。

スノースコップは一般的なスコップに比べて、携帯性が良く、軽量で、柄が短かかったり、伸縮式だったりします。

写真下のオレンジ色のスコップは雪山専用のスノースコップですが、写真上のスコップはホームセンターで買ったアルミの角スコップの柄を短く切って自作したものです。

予算を押さえたいなら、これでも十分です。

携帯用のスコップにはキャンプ用(軍用)の折りたたみ式のものもありますが、このタイプのスコップは重くて、ショベルの面積も狭く、雪を掘るのには効率が非常に悪いので、冬山向きと言えません。軽くて、丈夫で、ある程度面積の広いものが適しています。

いわゆるこんなやつは非常に効率が悪い

ゾンデ(プローブ)とは埋没者を探すための、雪に刺す細長い棒のことです。

雪崩ビーコンで埋没位置を特定できたら、ゾンデを刺し、人の感触があれば間違いなくそこに遭難者がいますので、ピンポイントで掘り出すことができます。

遭難者がビーコンを持っていない、ビーコンはあっても電波が受信できないなどの状況では、時間はかかってもゾンデを頼りに捜索するしかない状況もあります。

雪崩遭難者の救出に必要なものは、スコップと雪崩ビーコン、ゾンデの3点セットです。

アマゾン ゾンデ ブラックダイヤモンド クイックドロープロプローブ
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プロフィール

フリーランサー。元船員(航海士)
学生時代に山岳部チーフリーダーを経験し、阿寒、知床、大雪を中心に活動。
以来、北海道の山をオールシーズン、単独行にこだわり続け35年。
現在は主に日高山脈をフィールドにしている山オタクのライター。

※他サイトにおいて元山岳部部長を名乗る個人・団体が存在しますが、それらは当サイトとは一切関係ありませんのでご了承ください。



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