10Mar
冬山~雪洞の作り方
冬山での楽しみのひとつに雪洞生活があります。
雪洞は子供のころに作ったかまくらのようなもので、大人でも何となくうきうきしてしまうものです。
冬山でのテント生活と比較すると、テントは風を防ぐだけで気温は外気と同じになりますのでとても寒く、風が吹けばバタバタとうるさく、眠れなかったりします。
強風下ではポールが折れるなどの危険もあります。
その点、雪洞の中は、室温が0℃~ー5℃程度に保たれるから、テントに比べると、とても温かく感じます。
また、外が強風でも風の音は聞こえず、とても静かです。
広さ自由に決められるので、テント生活のように窮屈ではありません。
雪洞は、掘る労力を考えなければ、テント生活より快適なことが多いと思います。
今回は雪洞作りについて説明していきます。
雪洞の種類と作る場所
雪洞の形にはたて穴式、横穴式などがありますが、この形でなければならないと言った決まりはありません。
何泊もできるよう、しっかりとした雪洞を掘ることもあれば、緊急時にビバークするための、半雪洞(斜面を浅く掘りツエルトを併用したもの)などもあります。
たて穴式雪洞の例
半雪洞の例
ここでは、一般的な横穴式の雪洞の作り方について説明します。
横穴式雪洞を作る場合、積雪が十分な斜面を掘ることになります。
一般的には、稜線の風下側(略南東側)が積雪が多くなりますので、このような斜面の吹き溜まった場所が適地になります。
積雪が十分な場所じゃないと、天井が薄くなりますから、天井を踏み抜いたり、天井が崩壊してしまう危険があります。
ですので、雪洞が出来上がった時の、天井の厚みはどんなに薄くても1m、できれば2m以上になるような場所だと安心です。(過去に雪洞の天井が薄かったことなどによる雪洞崩壊事故が起きています。詳しくは「過去の遭難に学ぶー大雪山旭岳11名遭難 函館学芸大」を読んでみて下さい。)
横穴式雪洞は斜度が急な場所ほど早く掘り進められ(急すぎる斜面では滑落に注意)、斜度が緩いと、たくさん掘らなければならないので時間がかかります。
概ね40度~45度くらいの斜面が、効率よく掘り進めることができます。
また、風向きも考えなければなりません。
雪洞の入口から風がもろに吹き込まないような場所を選びます。
注意しなければならないのは、雪崩の通り道になるような場所は避けなければならないということです。
稜線の風下側は、上部に雪庇が発達している場合がありますので、雪庇の崩壊によって雪崩が起こる危険があり、注意が必要です。
雪洞が雪崩で埋まってしまった場合、中からスコップで掘れば外に出られる可能性はありますが、実際の雪崩事故では雪洞内に勢いよく雪崩が侵入して、怪我をしたり、窒息する事故が過去に起きています。(雪洞での事故については「過去の遭難に学ぶ-札内川十の沢大雪崩事故」を読んでみて下さい)
雪洞を掘る
横穴式の雪洞の形にも、これと言った決まりはなく、掘る人により、様々なバリエーションが存在しますが、ここでは、昔の技術書にあるような、伝統的なL字型をした横穴式雪洞の作り方について説明していきます。
作り方の概略ですが、最初、斜面をまっすぐ掘ったあと、90度方向を変えて掘り進み、下図のような形に完成させます。
・雪で濡れないよう完全武装で
雪洞作りは体中が雪まみれになります。
作業の前に、ヤッケ(ハードシェルジャケット)、オーバーズボン(ハードシェルパンツ)、オーバーミトンや、テムレス(透湿ゴム手袋。裾から雪が入らないよう腕抜きなどを併用する)などの防水手袋を着用し、手袋の裾は雪が入らないようしっかりと締め、ジャケットのフードをかぶり、フードのゴムはしっかり締めて完全武装します。(特に手袋は濡れやすいので注意が必要)
雪洞作りには下の写真のような、スノースコップ(スノーショベル)を用意します。
スノースコップは登山用品店に売っていますが、ホームセンターに売っている、アルミの角スコップの柄を短く加工したものでも十分です。
市販のアルミスコップを短く加工したもの(上)とスノースコップ(下)
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・入口部分と廊下を掘る
まず、斜面を水平に真っすぐ掘っていきます。
はじめはどんどん掘り進み、足元がある程度平らになってきたら、入口部分を作ります。
掘り方は、スコップで雪を四角く切り出すように掘るのが、効率の良い掘り方です。
入口があんまり広いと風がたくさん入ってきますし、狭すぎると出入りが大変ですので、中腰でやっと通れるくらいの大きさにします。(筆者(身長170cm)の場合、高さ120cm×幅100cm程度になります。)
ここからは、廊下部分を掘り進めていきますが、膝を着き、低い姿勢での作業になります。
はじめの内は、掘った雪は斜面にどんどん捨てていきますが、深く掘り進めていくと、掘った雪が自分の後ろ側にどんどん溜まっていきますので、一定量雪が溜まったら、雪洞の外の斜面に排雪しながら掘り進めることになります。
排雪はスコップで行っても良いですが、ツエルトやシート類があれば、その上に掘った雪を積み上げ、ある程度溜まったらシートを引きずって、雪洞の外に排雪するのが効率の良いやり方です。
2名以上いれば、掘る作業と排雪作業を分担して行いますが、単独行だと全部ひとりでやらなければならず、労力は2倍になります。
入口は狭くしなければ風が入ってきますが、廊下部分はザックを抱えて中腰で歩ける程度の高さと幅(筆者の場合、高さ130cm×幅100cm程度)がないと、中で移動するのが大変です。
廊下の長さは、作りたい居室の大きさにもよりますが、2~3m程度が適当です。
・90度方向転換して居室を掘る
廊下部分を掘り終わったら、右か左か好きな方向に90度方向を変えて、居室部分を掘り始めます。
できれば、居室の床面は廊下の床面より1段高く作ると、居室に冷気が入り込みにくくなります。
居室の大きさは、一人あたり幅50cm×長さ200cmとして、幅に人数分をかけて、幅と長さに約50cmプラスした大きさが目安となります。
例えば、一人なら100cm×250cm、2人なら150cm×250cmになります。
これは、概ねテントの床面積(例:1人用テント90cm×210cm程度、2人用テント130cm×210cm程度)より、やや大きいサイズになります。
テント泊は、ぎゅうぎゅう詰めで寝るものですが、雪洞は壁に触れると衣類や寝袋が濡れてしまいますので、やや大きめにするわけです。
居室の天井の形はドーム型か、かまぼこ型にし(この時点では荒削りで良い)、高さは、居室の床に座って頭上から50cm程度あれば、中での生活もそんなに窮屈ではないと思います。(筆者の場合、高さ140cm程度になります。)
雪洞の天井は、翌朝、落ち込んで下がってくることがありますので、天井は極端に低く作らない方が良いでしょう。
なお、パーティーが3名以上いてスコップが2つあれば、雪洞を両側から掘っていくと作業スピードが上がります。この場合、完成後、雪洞の片方の入口を雪のブロックでふさぎます。
・仕上げ作業
居室部分が掘り終わったら、ドーム型、又はかまぼこ型に荒削りした、居室の天井の凹凸を滑らか仕上げます。
この作業は、コッヘルを使うと便利で、コッヘルのふちを使って天井の凹凸を削ります。
天井をドーム型や、かまぼこ型にして、表面を滑らかにすることによって、溶けた雪の雫が床を直撃するのを防止します。
天井が仕上がったら、スコップで壁に棚やロウソク台を作ります。
雪洞内は四面が雪なので、1本のロウソクを灯すだけで、乱反射してとても明るく、幻想的な雰囲気になります。
雪洞生活をする時には、ロウソクやランタンを用意すると良いでしょう。
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居室が出来上がったら、居室の床面を整地してグランドシートを敷きます。
グランドシートは、ブルーシートでも良いですが、適度な薄さの銀シートの方が断熱性が良く、快適です。
ザック類を中に入れたら、最後に入口の垂れ幕を設置します。
垂れ幕は、ツエルトや適当なブルーシートなどを利用します。
垂れ幕の止め方は様々で、シートの上辺や下辺に雪のブロックを乗せて止める方法、シートを折り返してシートの上辺にストックを通し、暖簾のようにして、ストックごと埋める方法などありますが、これと言った完璧な方法はなく、筆者も研究中です。いろいろと工夫してみて下さい。
もし、シートに余裕があれば、垂れ幕を入口と廊下の2か所に設置して二重にすると、更に保温効果が上がります。
また、雪洞の入口の周りに、排雪した雪のブロックを利用して防風壁を作ると、なお効果的です。
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その他の注意点
除雪、換気、湿気
入口が降雪で埋まってしまったり(雪洞は風下側の吹き溜まりやすい地形に作ることが多く埋まりやすい)、万一雪洞が崩壊してしまった時などに備え、就寝時などは、スコップを雪洞の中に入れておきます。
雪洞内で酸欠になることは、そんなにないとは思いますが(酸欠気味の場合、ロウソクの燃え方が悪くなります)、息苦しさを感じる場合などは、ピッケルなどを刺して天井に通気口を増設し、換気するようにします。
雪洞内は、暴風雪でも中は静かなので、入口が埋もれていることに気づきにくく、降雪時は一定間隔で除雪をする必要があります。
また、雪洞内は湿気がこもりやすく、衣類が湿気ることがあるので、炊事の時、コッヘルのふたを不必要に開けっ放しにしないようにします。
標識
行動後に、雪洞の場所を見失う危険の防止と、うっかり天井を踏み抜かれないよう、雪洞の天井付近にデポ旗やストックなどを使って、目印を立てておくと良いでしょう。
トイレは?
トイレは雪洞の中でする方が寒くなくて快適なのですが、雪洞内は意外とにおいがこもります。
天候が悪い、風が強い場合などは、トイレは中で済ませますが、それ以外は、なるべく雪洞の外で行った方が快適だと思います。
参考文献:協同出版 雨宮節著 冬山の基礎技術、山と渓谷社 近藤和美著 冬山、山と渓谷社 柳澤昭夫 北田啓郎著 スキー登山、山と渓谷社 大内尚樹著 雪山の基礎技術、大修館書店 川崎隆章著 登山教室
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