6Jun
北海道にはヒグマが生息しており、山での危険と言えばほとんどの人がヒグマの存在をあげます。
そこで今回はヒグマの習性などについて書いていきます。
ヒグマと登山と山菜採り
実際にヒグマによる死亡事故は起きているので注意しなければならない動物のひとつです。
しかし、本当にヒグマは一般に認知されているほど危険で恐ろしく、事故件数が多いのでしょうか?
筆者の知る限りでは北海道の山で登山中にヒグマに襲われ死亡した例は昭和45年に中部日高カムイエクウチカウシ山で大学生3名が犠牲となった事件以後起きていません。
(この事故の詳細については「過去の遭難に学ぶ~カムエク八の沢カールヒグマ襲撃事件」を読んでみて下さい)
ヒグマに襲われ死亡するケースは山菜取りの最中など登山以外のものが圧倒的に多く、登山者が襲われることは極稀なことです。
なぜ、登山者が襲われにくいのかはよくわかりませんが、筆者が思うに、山菜取りのために山に入る人などは登山者に比べて絶対数が多いということが言えます。
また、山菜取りで山に入る人は登山者と比較するとヒグマに関する知識に乏しい人が多いと思われ、山菜取りなどに夢中になり、ヒグマの気配や痕跡に気づかず、結果としてヒグマに異常接近してしまい、被害にあってしまうのではないかと推測します。
ヒグマの生態
ヒグマの生態については何冊も文献を読みましたが、未だに謎が多くこうすればヒグマの被害に遭わないという決定的なものはありません。
ただ、複数の文献を読んで共通しているのは、
- ヒグマはとても知能が高く、嗅覚が鋭く、体の割に器用で敏捷性があって足も速い。
- 木登りが得意で、火を恐がらない、好奇心が強い。(大型のヒグマは木登りは不得意)
- 暑がりなので気温が低い朝夕やガスがかかっている寒い日などに活発に行動する。
- 雑食だが木の実や草などを主に食べ、基本的に他の動物を襲って肉を食べることはほとんどない。
また、一度自分が触ったものは自分の所有物と認識し、奪われれば執拗に追いまわし取り戻そうとする習性や、背を向けて走って逃げるものを追いかける習性などが知られています。
登山者がほとんど襲われていない理由として、登山者がヒグマの糞、足跡(足跡を見るのは稀)などヒグマの痕跡を察知し、登山を中止するかルートを変更するか前進せずに様子を見るなどしながら、ヒグマの存在を気にしていることや、ホイッスルなどの音響で人間の存在を早めに知らせ、ヒグマに逃げたり隠れたりする猶予を与えることなど、ヒグマに対し注意を払う行動をとっている登山者がそれなりにいると思われるので、事故がほとんど起こっていないのではないかと推測します。
子連れのクマと若グマ
ヒグマの中でも一番恐れられているのは、子連れのヒグマと、親ばなれした2,3歳くらいの若グマです。
子グマがいると必ず近くに母グマがいると言われています。
母グマはこちらに敵意がなくても子を守ろうとする本能で人間を襲ってくる可能性があります。
子グマは、ぴーぴーと犬のように鼻を鳴らすような声を出します。
山でそのような声が聞こえたら要注意です。
また、若グマ(年齢は前足の幅でわかり、オスの3歳グマの前足の幅は15cm前後です)は、経験が浅いので、時にやんちゃな行動に出ると言われており、ヒグマの事故はこの若グマが起こしているものが大半です。
大学生3名が死亡した、カムエクのヒグマ襲撃事件も若グマが起こしています。
大きなヒグマは長く生きている分だけ経験値が豊富で、知能も高いゆえに人間の行動パターンを理解しているとも言われ、人間が気づくよりもずっと前に人間の接近に気づき、逃げるか、音をたてずにじっと隠れて人間をやり過ごすと言われています。
ヒグマと遭遇した経験
筆者は登山中にヒグマと出会った経験が複数回あります。
若グマとのバッタリ遭遇が3回、子連れの母グマが2回です。
若グマと出会った経験では、ザックに鈴をつけていたのにもかかわらず、過去3回ともクマは筆者の接近に気づきませんでした。
1回目(カムエクの稜線)は約50m、2回目(コイカクの沢)は約90m、3回目(ピパイロ手前の稜線)は約20mくらいの距離だったのですが、1回目と2回目は筆者に気づいた瞬間に慌てて逃げて行き、3回目の時は、にらみ合いの後にクマの方から逃げて行きました。
親子グマと出会った経験では、1回目(カムエクのコイボクカール)が約300m、2回目(石狩岳北東尾根)が約150m離れた場所で、いずれも3頭の親子グマが草を食べていました。
1回目の時は、ザックの鈴の音をわざと大きく鳴らしたところ、母グマはこちらに気づき、子グマを先導しながらそそくさと逃げて行きましたが、2回目の時は、ホイッスルでこちらの存在を知らせたのですが、母グマは気づいたにもかかわらず、完全にこちらを無視して食事を続けていましたので、こちらも無視をして通過しました。
これらの経験では、やはりヒグマは基本的に人間を恐れているということがわかりましたので、鈴やホイッスルなどで、あらかじめこちらの存在を知らせてあげ、逃げる余裕を与えることが大切だと感じましたが、一方で、クマは鈴などの音に気づかないことも多くあることがわかりました。
遠距離で遭遇し、クマがこちらを無視しているなら、速やかに通過してしまえば良いのですが、近距離(おおむね100m未満)でバッタリ遭遇してしまった場合には、絶対に慌てず、落ち着いて対処することが重要だと感じました。
ヒグマの足音や匂いは?
ヒグマがヤブの中を歩く時の足音についてですが、バサバサバサバサーっといった連続音で、例えるなら人間がヤブの中を漕ぐ音をややダイナミックにしたような音です。
ちなみに、バサッ!、バサッ!、バサッ!といったリズムの良い足音は、鹿がぴょんぴょん跳ねながらヤブを歩く音で、ヒグマの足音とは判別がつきます。
ヒグマの匂いについてですが、登山中に獣臭がすることがよくありますが、ヒグマも鹿もタヌキも獣臭がしますので、ヒグマの匂いかどうかは判別がつきません。
実際にヒグマが立ち去った直後の場所を通過した経験では、これと言った獣臭は感じませんでした。
ですので、獣臭がする、しないでヒグマの接近を予測することは難しいのですが、獣臭がする場合はヒグマが近いものと仮定しておいた方が良いでしょう。
次回はヒグマを避ける方法について書いていきます。
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