2Jun
デング熱の国内感染などがきっかけとなり、平成28年(2016年)から従来の虫よけスプレーより2倍以上濃度が高い、ディート30%、イカリジン15%含有の虫よけスプレー(いわゆる高濃度虫よけスプレー)が各社から発売されるようになりました。
高濃度虫よけスプレーは、マダニにも忌避効果があるとされています。
今回は実際にマダニが多い山でスプレーの効果を検証してみました。
マダニの巣窟。6月の日高山脈、笹ヤブ地帯で実験!
マダニは笹ヤブ地帯に多くいますが、春先で気温が上がって来ると特に数が多くなります。
日高山脈一帯は、登山道が未整備の場所がほとんどで、笹ヤブを漕がなければならない場所が多く、特に5月~6月にかけてはダニの巣窟となります。
今回の実験は、6月初旬の中部日高コイカクシュサツナイ岳で行うこととし、登山クラブのTさんに協力をお願いしました。
使用する高濃度虫よけスプレーは、
- ムヒ ムシペールPS30(ディート含有30%)
- フマキラー 天使のスキンベープミストプレミアム(イカリジン含有15%)
の2つにしました。
ディート30%のスプレーとイカリジン15%のスプレーは、虫よけ効果が同等ということになっていますが、両者がマダニに対して実際に忌避効果があるのかどうか、また、どちらが効果が高いのかについて実験してみることにします。
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実験方法
服装は、筆者、Tさん共に、登山服の上にマダニの付着防止のため、薄手のナイロンヤッケ(ズボン)を着用します。
往路は、
- 筆者 :虫よけスプレーなし
- Tさん:天使のスキンベープを全身にたっぷり噴霧
復路は、
- 筆者 :ムシペール30PSを全身にたっぷり噴霧
- Tさん:天使のスキンベープを全身にたっぷり噴霧
とし、先頭を歩く者にダニが付きやすい場合があるので、ダニの付着に差が出ないよう、約15分おきに先頭を交代しながら歩くことにします。
実験の経過
往路
上二股(640m)から夏尾根1305m付近までは特に笹が多く、この区間(約2時間)、両者とも集中的にダニが付着しました。
登行中、見える範囲で付着したダニの数をカウントした結果は次のとおりです。
・筆者(虫よけスプレーなし) 衣類への付着20匹
・Tさん(天使のスキンベープを全身にたっぷり噴霧) 衣類への付着20匹
※両者とも皮膚への咬みつきなし。
復路
復路についても、夏尾根1305m付近から上二股(640m)までの区間(約1時間)、両者とも集中的にダニが付着しました。
下山中、見える範囲で付着したダニの数をカウントした結果は次のとおりです。
・筆者(ムシペール30PSを全身にたっぷり噴霧) 衣類への付着10匹
・Tさん(天使のスキンベープを全身にたっぷり噴霧) 衣類への付着18匹
※両者とも皮膚への咬みつきなし。
衝撃の実験結果~ダニが多い場所では高濃度虫よけスプレーは効いてるのかどうかよくわからない
実験結果をまとめますと、天使のスキンベープ(イカリジン15%)を使用した場合と、虫よけスプレーなしの場合で、ダニの付着に差が出ませんでしたので、今回のようにダニが異常に多い季節の笹ヤブの中での、イカリジンのダニに対する忌避効果は、ほぼ感じられませんでした。
イカリジン自体は効能にマダニへの忌避効果が記載されていますので、実験の方法を変えれば結果も違ってくるのだと思いますが、今回はこのような結果が出ました。
次に、ムシペールPS30(ディート30%)と天使のスキンベープ(イカリジン15%)の比較実験ですが、ムシペールPS30が10匹、天使のスキンベープが18匹ということですので、ディートの方がマダニへの忌避効果が若干高いのかも知れませんが、全身にたっぷりと噴霧しているのに、マダニが10匹も付着していることを考えると、ディートについてもダニが異常に多い場所では実効性のある忌避効果は期待できないと言えます。
実験結果の考察
高濃度虫よけスプレーは、忌避効果が高いとされているので、非常に期待していたのですが、なぜこのような結果が出てしまったのかについて考えてみます。
高濃度虫よけスプレーは、医薬品医療機器総合機構(PMDA)で行われた承認時の審査で、イカリジン5%とディート10%の薬剤を蚊、ブヨ、マダニに試していますが、どちらも6時間後まで100%の忌避効果が確認されています。(出典:PMDA独立行政法人医薬品医療機器総合機構HP 審査報告書・申請資料概要「独立行政法人医薬品医療機器総合機構 審査報告書(H27.2.18))
PMDAによる試験は2種類の方法で行っていますが、一つは、容器(腰高シャーレ:コップのような容器)の底に、虫よけスプレーの成分を塗ってから、ダニを容器の中に入れ、上から息を吹きかけてみて、容器から這い上がってくるダニの数を調べる方法で、もう一つは、人の腕に虫よけスプレーの成分を塗り、腕の中央に絆創膏を貼って、その絆創膏の上にダニを置き、ダニが肌の方に移動したり、肌の上を徘徊するかどうかを調べます。
試験の結果は、前述のとおり、6時間まで忌避効果100%というすばらしいものです。
このような条件での実験では高い効果を発揮しますが、今回のようなダニが多い笹ヤブを歩くといった実験では、効いているのかどうか、効果がわかりづらく感じました。
ここで、イカリジンやディートのダニに対する作用について確認しておきますが、イカリジンやディートは、ダニの人間を検知するための感覚器官を麻痺させることで、相手が人かどうかをわからなくすると説明されています。
つまり、ダニが嫌がる成分でダニを遠ざけているのではないので、ダニの付着自体を劇的に少なくするという効果は、あまり期待できないのではないかと言うことです。
今回の実験結果は、そのことを裏付けているのだと思います。
ダニが多い笹ヤブを歩くと、衣類と笹が物理的に接触しますので、どうしても一定数ダニが衣類に付着してしまうのだと思いますが、付着後、虫よけスプレーの成分が効いている時間内は、おそらくは、皮膚に咬みつくということはないのではないかと思います。
今回の実験でも、衣類への付着は多かったものの、咬みつかれることはありませんでした。
咬みつかないのは、あくまでも、成分が効いている時間内だと思いますでの、付着したダニが衣類に留まっていると、効果が切れたら咬まれてしまう危険性があります。
また、ダニが衣類に付着した後、徘徊して、スプレーをかけていない衣類の内側や皮膚に偶然到達してしまうことも考えられ、この場合、スプレーによって麻痺したダニの感覚器官がどれくらいの時間で回復するのかについては不明で、このことは、PMDAの試験結果でも触れられていません。
もし、短時間で感覚器官を回復させるのであれば、衣類の内側にダニが入り込まないような工夫も必要になると思います。
このようなことから、虫よけスプレーを使用した場合でも、ダニが付着しにくい服装をしたり、付着したダニが衣類の内側に入りづらくする工夫や、ダニが付着したらその都度払い落とすなどが必要になってくると思います。
注意!ディートは化繊を変質させる
ムシペールPS30と天使のスキンベープについては、注意書きに「化繊、プラスチックなどに使用しない」と書いてあり、噴霧すると素材を変質させる可能性があります。
以前、ムシペールPS30をヘルメットに多めに噴霧して、プラスチックがざらついてしまったことがありましたが、今回、ナイロンヤッケにムシペールPS30を噴霧していた時に、多少多めにかかってしまい、ヤッケの表面が変質してしまいました。
なお、天使のスキンベープについては、衣類の変質などはなく、問題なく使用できました。
ディート系の虫よけスプレーは、イカリジン系に比べ刺激が強いので、使用には注意が必要です。
ダニには虫よけスプレーよりもナイロンヤッケの着用が現実的
今回の実験では、ナイロンヤッケのズボンを着用しましたが、ヤッケのズボンに付着したダニが、ズボンから勝手に滑り落ちるという光景を何度も見ました。
これは、表面がつるつるした素材の衣類を着用することで、ダニの付着を少なくするというダニ対策のアイデアを参考にしたものなのですが、虫よけスプレーの使用よりもダニ対策には効果的です。
また、ダニが付着した部位については、多い順に、「軍手」「ズボン」「上半身」「ザック」でしたが、軍手ではなく革手袋など、摩擦の少ない手袋を着用することや、ザックにザックカバーを装着するなどで、更にダニが付着しづらくなるのではないかと思います。
上半身についても、本当はヤッケを着用すれば良いのですが、熱がこもりますので、暑い時には着用しない方が無難でしょう。
また、ヤッケのズボンの選定についても注意が必要で、薄くて通気性が良く、動きやすいようサイズに余裕を持たせたものが適しており、また色はダニがわかりやすいよう明るいカラーのものを選ぶようにします。
今回使用したヤッケのズボンは、プロノで購入したリップストップナイロンヤッケですが、見た目より熱がこもりづらく快適でした。
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まとめ
高濃度虫よけスプレーの使用は、残念ながら、マダニの付着を劇的に少なくするということはなく、期待したような効果は得られませんでした。
先にも述べたように、まずは、ヤッケの着用でマダニを付着しずらくする、付着したマダニが衣類の内側に入り込まないような工夫をする、マダニが体に付いていないかどうか、定期的にチェックしながら歩く、休憩中、下山直後、帰宅後は衣類やザックなどにマダニが付いていないかどうかよく確認するなどを行い、これに加え、補助的な手段として虫よけスプレーを活用してみるなどが、マダニに対する有効な対処方法になると思います。
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