21Apr
登山と虫よけ~やぶ蚊とブヨ対策
山には、ヤブ蚊、ブヨ、ヌカ蚊、マダニなど人に害を及ぼす様々な虫がいますので、登山をする場合は有効な虫よけ対策が必要になります。
今回は「ヤブ蚊とブヨ」の対策について考えていきます。
ヤブ蚊とブヨがよくいる場所
まずは、ヤブ蚊とブヨのよくいる場所について。
ヤブ蚊もブヨも水のある所に産卵しますが、ヤブ蚊は少量の水たまりなどでも産卵し、ブヨは沢など比較的水がきれいな場所に産卵します。
なので、そういう場所の周辺に多くいるということになります。
具体的には、ヤブ蚊は笹などが生い茂り、風通し悪く、じめじめとした薄暗い場所に多く、ブヨは沢や沼の周辺に多くいます。
ヤブ蚊
ヤブ蚊は正式には「ヒトスジシマ蚊」といって、その辺に飛んでいるような褐色の蚊(アカイエ蚊)ではなく、やや黒っぽくて、よく見ると白い縞模様が入っているやつです。
ヤブ蚊に刺されるとアカイエ蚊よりもかゆみが強く、かゆさは何日も持続します。
ブヨ
ブヨ(ブユ)が多いと本当に鬱陶しいものです。
蚊よりもサイズが小さく、米粒くらい(3~5mm)で、見かけはコバエのようです。
サイズが小さいので、ブヨに狙われ、吸血されていることに気づきにくいのがブヨの厄介なところ。
軍手や衣類の繊維の隙間に頭を突っ込んで血を吸っていることもあります。
刺された直後の患部は、わずかに出血しているのが特徴で、痒みが強く、しかも何日も持続します。
連泊の縦走なんかの時は知らずに掻きむしり、しかも不衛生な環境だから化膿したりするので、刺された部位によっては行動に支障を来すこともあります。
筆者の山の師匠は、ブヨに後頭部と首筋を執拗に刺されまくり、下山後熱が出て病院で治療を受けたことがあります。
虫に刺されたくない~まずは服装から
そこで、刺されないためにどうするかなのですが、虫よけ剤などを考える前に、まずは服装に気をつけることが基本になります。
上半身
暑い時はTシャツ1枚で歩きたいところですが、山では暑くても基本は長袖です。
猛烈な虫のアタックを受けているときは、袖は絶対にまくりません。
シャツは目の粗いものや、あまりにも薄い生地では虫の針が通ってしまいますので、生地にも気をつけます。
長袖シャツを着ていても、虫が多い場合は刺されることもあり、手首(手袋とシャツの袖の間のわずかな露出部分)や、ザックで覆われていない体側の脇腹周辺などを服の上から刺されることがあります。
下半身
下半身はズボンを履いているので、刺されることはほとんどありません。
キャンプ地で油断してサンダルなんかを履いている時に足首をやられるくらいでしょう。
首筋、後頭部、耳周辺
首筋、後頭部、耳周辺が最も狙われやすいのですが、服装ではカバーできません。
しかし、筆者はあれのお陰でほとんど刺されることがありません。
それは、帽垂れ(日本兵が南方戦線で帽子に着けていた日よけ布)です。
日本兵の戦闘帽と帽垂れ
帽垂れ(日よけ布)を登山用の帽子に取り付けることで、後頭部を熱射から守り、ひらひらするので虫が首筋や耳周りに着陸できず、虫の防護にもなります。
帽垂れは市販されていませんので、自作するか、アウトドアメーカーから出ている日よけ布を帽子に取り付けて代用します。
筆者は当初、手ぬぐいを帽子に挟んで帽垂れがわりにしていましたが、日本兵と同じ、スリットが3か所入ったものを自作して登山用の帽子にスナップボタンで取り付けられるようにしましたが、耳周辺や後頭部の虫よけには絶大な効果がありました。
下の写真のように、アウトドアメーカーなどで売っている日よけ布は、スリットが浅いので、帽垂れよりやや後頭部が暑くなりますが、虫除けには同様の効果があります。
現代版帽垂れか?日よけ布(ネックシェード)
アマゾン 首筋を熱から守るネックシェード(帽子のたれ、フラップ)
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ちなみに、女性で髪が肩くらいの長さなら髪を束ねずに歩けば、帽垂れと同様の効果があります。
刺されやすいタイミング
ヤブ蚊の活動が活発になる時間帯は、昼から夕方にかけて、ブヨの活動が活発になる時間帯が朝と夕方ということで、どちらも夕方に活発になるという共通点があります。
午後に下山して、帰り支度をしている時に刺されたり、一日の行動が終わり、夕方にサンダル履きや登山靴の紐をゆるゆるにして炊事なんかをしている時に、無警戒な足首付近を狙われることがよくあります。
足首を刺された場合、翌日以降、患部が靴に干渉して擦れたり、痛めたりすることがありますので要注意です。
効果的な虫よけグッズとは?
蚊取り線香
服装を整えたら、次は効果的な虫よけ剤の使用を考えます。
虫よけとして最も効果の高いもののひとつは蚊取り線香です。
腰やザックにぶら下げて使用します。
蚊取り線香の効果は絶大で、煙による忌避効果と薬剤の殺虫効果のダブルの効果があり、虫よけ対策の必須アイテムのひとつと言えます。
昔の人は野良仕事などの時、木綿のボロ布を束ねたものを腰に下げ、布の先に火をつけ煙を出して虫よけをしていたと言いますが、虫は煙を嫌がるということなのでしょう。
蚊取り線香を携帯器具に入れてぶら下げて使用する場合、携帯器具は岩などにぶつけるとフタが開くことがありますので注意しましょう。
アマゾン 金鳥 吊り下げ式かとり線香皿 ホルダー 大型サイズ
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蚊取り線香では物足りないという人には、児玉兄弟商会の「パワー森林香」という商品があります。
パワー森林香は野外用の防虫香で、蚊取り線香より防虫効果が高く、林業・農業従事者などプロユースの商品ですが、アウトドア用として一般の方にも人気があります。また、専用の赤い携帯器具は丈夫な作りなので登山向きと言えます。(蚊取り線香とパワー森林香、どちらが効くのか試してみました→「虫よけ対策~蚊取線香とパワー森林香を比較してみた!」)
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虫よけスプレー
虫よけスプレーはどうでしょうか?
虫よけスプレーは、虫の感覚器官を麻痺させて、人間がいるのかどうかをわからなくするという方法で虫刺されを防ぐというもので、虫の寄りつきを防ぐものではありません。なので、刺されはしませんが虫の鬱陶しさを解消することはほとんどできません。
また、登山中は常に汗をかいており、成分がどんどん流れてしまいますので、今ひとつ持続性がありません。
なお、平成28年(2016年)から、虫よけ剤に関する関係規則が変わり、薬剤の濃度が濃くて持続性が長くなった、「強化版虫よけスプレー」が販売されるようになりました。期待したいところです。
(※強化版虫よけスプレーの効果について検証しました。詳しくは「高濃度虫よけスプレー、ディート、イカリジンは登山に有効か?」を読んでみて下さい。)
ハッカ油スプレー
登山中の虫よけグッズの中で、最も実用性の高い物のひとつに「ハッカ油」があります。
すれ違った登山者がハッカの香りがすることがよくあります。使用者は多いようです。
虫よけスプレーと違い、蚊やブヨが猛烈に嫌がる匂いで虫の寄りつきを防ぎますので、虫よけスプレーに比べて忌避効果は高く、スプレーした瞬間にさーっと虫がいなくなります。
持続性ですが、虫よけスプレーと同じく、汗をかくと流れてしまいますので、効果が落ちてきたかなと思ったら、その都度スプレーします。
そのためには、ポケットやウエストポーチに入るサイズのスプレーボトル(10~30ml程度)が便利です。
虫の多さにもよりますが、日帰り登山なら、下の商品ぐらいの大きさのボトルで十分な場合がほとんどです。
アマゾン 健栄製薬 ハッカ油Pスプレー10ml
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また、ハッカ油は天然成分なので、市販の虫よけスプレーが合わない人にも良いかもしれません。
使用上の注意ですが、ハッカ油が間違って目にかかってしまうと思わずうめき声が出るくらい痛いので気をつけましょう。
ハッカ油を使用する時は、目に入ってしまった時のために目薬も合わせて持って行く方が良いでしょう。
なお、ハッカ油スプレーを携帯する時は、スプレーを小さめのジップロックなどに入れた方が無難です。
知らないうちに、口がゆるんでハッカ油が漏れて大惨事になったことがあります。注意しましょう。
ハッカ油スプレーは市販品も売っていますが、使用頻度が高ければ自分で作った方が断然安上がりですし、手作りなら、好みで濃度を濃くすることもできます。
濃く作った場合、効果も高くなりますし、持続時間も長くなりますが、直接皮膚にスプレーすると、かなりビリビリするので服の上からスプレーします。
作り方はごく簡単ですので、興味のある方は「手作りハッカ油スプレーの作り方」を読んでみて下さい。
エアーサロンパス
ハッカ油の忌避効果に匹敵するものに、「エアーサロンパス」があります。
アマゾン 【第2類医薬品】エアーサロンパスDX 120mL
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成分にメントールが入っていますので、虫が嫌がるということなのでしょう。
登山中の筋肉疲労にも心地良い刺激があって、一石二鳥です。
知り合いの鉄砲撃ちの人に虫よけ方法を尋ねたところ、
「帽子のつばの裏にサロンパスを貼れ!」
と言っていました。
こちらは、エアーサロンパスではなく、貼るタイプのものですが、サロンパスを虫よけに使う人はそこそこいるようです。
虫よけ対策のまとめ
ざっくりとまとめてみますと、ヤブ蚊やブヨが多そうな場所に行く時には、長袖シャツ、帽子、日よけ布(帽垂れ)など服装で防護した上で、ハッカ油を体に吹き付け(場合によっては虫よけスプレーも併用)、それでもだめなら、腰やザックに蚊取り線香をぶらさげる。
ダメ押しで、帽子のつばにサロンパスを貼りつけてみる。
ヤブ蚊やブヨには、これが最強の防御法のひとつになります。
刺された時の対処法
刺されてしまった時の一番の対処法は、とにかく口でおもいっきりしつこく吸うことです。
あとが残るくらい吸うとその後の痒みは半減以下におさまります。
口で吸えない場所については、下のような携帯用毒吸いポンプ「ポイズンリムーバー」が非常に便利です。
アマゾン ドクターヘッセル インセクト ポイズンリムーバー
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そして、毒を吸い出したあとは、虫刺され用の軟膏を塗ると治りが早まります。
虫刺され用の軟膏には色々なものがありますが、強めのステロイド軟膏(デルモベート、リンデロンなど)がおすすめです。
以前、皮膚科の先生から登山中のひどい虫刺されには強めのステロイド軟膏を塗るよう指導されました。
虫刺され薬のロングセラー「ムヒ」シリーズにも効果の強いものにはステロイドが入っています。
強いステロイド軟膏は処方箋がいりますが、市販薬でそこそこ強いステロイド軟膏に「タナベ フルコートf」というのがあります。(※R3.5追記:同等の強さのステロイド市販薬には「シオノギ リンデロンVS」「第一三共ベトネベートクリームS」もあります。)
刺された患部や掻き壊し部分に塗ると一晩で効果が現れます。
翌日以降の行動に支障が出ないよう気をつけたいものです。
山ではステロイド軟膏は虫刺されのほかに、汗も、かぶれ、湿疹などにも効果を発揮します。
強いステロイドを長期常用すると皮膚に良くありませんが、登山中の虫刺され対処などには適していると言えます。
市販のステロイド軟膏には、効き目の弱いものから強力なものまで様々ですが、人によって皮膚の強い、弱いがあると思いますので、自分にあったものを選びましょう。
アマゾン 【指定第2類医薬品】フルコートf 5g
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最後に
以上は、ヤブ蚊やブヨを効率よく避けることに限定しての話です。
スズメバチやマダニの有効な対策については、それぞれ異なりますので注意して下さい。
(詳しくは「登山とスズメバチ対策」「登山とダニ(マダニ)対策~スプレーか?服装か?」を読んでみて下さい)
なお、虫よけのスプレー缶や蚊取り線香の携帯器具などはかさばりますので、実際の登山に持っていくかどうかについては、登山ルートや装備などの様々な条件を考慮して判断して下さい。
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